つらつら日暮らし

「清浄なる行者 破戒の比丘」の続きの話

以前、【清浄なる行者 破戒の比丘】という記事を書いた。それで、その時には鈴木正三道人『驢鞍橋』から一則を引っ張って論じたが、その後、拙僧自身も僅かながらに勉強を続け、どうやらこの一節については、もう少し別の論じ方をする必要を感じていた。

それは、本則について、元の文章は、「清浄の行者天堂に上らず、破戒の比丘地獄に入らず」(訓読は拙僧)というものだったが、これについては中国臨済宗の大慧宗杲禅師が「文殊菩薩所説般若経に云く……」(『大慧録』巻10)などとした。先に挙げたリンク先でも一応、本来の経典名を挙げたのだが、どうも、正三が引いた文章と、経典の本文は内容が相違していて、つまり、大慧禅師のような中国禅宗の文脈で多用された文章に近かったのである。

まぁ、この辺は上堂語などで引用されてしまうと、元の文章が少し言い回しが変わったりするので仕方ない感じもする。それで、今日はその一節を用いた頌古があったので、それを参究してみたい。

 僧、洞山詮に問う、「清浄の行者、涅槃に入らず、破戒の比丘、地獄に入らざるの時、如何」。
 師云く、「度し尽して遺影無く、還た他の涅槃を越ゆ」。
  相好巍巍たり大丈夫、一生無智にして恰か愚の如し、
  従来仏祖猶お望み難し、地獄天堂豈に拘るべけんや。
    『丹霞子淳禅師語録』巻下、訓読は拙僧


洞山詮禅師という人については、ちょっと良く分からない。中国での祖録を見てみると、だいたいこの丹霞子淳禅師の頌古が引用された文脈に出てくるか、或いは洞山暁聡禅師の伝記の中に出てくる(『禅林僧宝伝』巻11など)ようである。なお、この「清浄の行者」云々は、先に挙げた通り典拠が大乗経典中に見えるわけで、その部分はただの本則という位の価値である。

問題はその続きで、とりあえず洞山詮禅師のコメントとしては、全ての人を救済し尽くしてしまったので人影すら無く、その涅槃すら超えてしまった、という話になっている。つまりは、僧侶として理想を超えたような超人を指していることが理解出来よう。

そう思っていたら、続く丹霞禅師の頌古からも、それを見ることが出来る。簡単に意味を取ってみれば、その相好が巍巍とした大丈夫(仏陀のよう)は、一生涯無智であって、あたかも愚者のようである。従来の仏祖が、その大丈夫を望み見ることは難しいほどだ。そのような大丈夫は、地獄や天堂について、どうして拘る必要があるだろうか、としている。

つまり、丹霞禅師も地獄や天堂という六道の世界については考慮する必要が無いとしているが、何故ならば、その当人たる大丈夫の力量を認めているからである。そういえば、この丹霞禅師の頌古には、評唱や著語が付された『虚堂集』があるので、それも併せて見ておきたい。

 古徳に語有り、云く、
 我れ持斎守戒の者を見るとも、亦た敬わず。
 我れ破斎犯戒の者を見るとも、亦た軽んぜず。
 何ぞや。
 持斎守戒は出家の本分事なり。
 破斎犯戒は凡夫の地面なり。
 所以に道ふ、持戒を敬わず、初学を軽んぜず、と。
 若し能く愛悪の情忘ぜば、持犯自然に平等ならん。
    『虚堂集』巻4「第五十五則 清浄行者」、15丁裏、原典に従って訓読


正直なところ、この解釈は余り上手では無い。確かに、守戒・犯戒の問題を論じてはいるが、結果として守戒とは出家者が当然行うべきことだから敬うことでもない、犯戒は凡夫の様子だから軽んじることでもない、という風に、それぞれに具体的な意味を持たせることで、自らの見解を補強しているからである。なお、一応最後に、愛悪の情を忘ずるという、無分別の境涯を指し示しているが、その結果も持犯自然に平等ならんとし、ただの茫洋たる様子を描いているに過ぎないからだ。

禅で求める無分別とは、こういうことでは無い。そうであれば、涅槃すら超えた存在の大丈夫と評した、洞山詮禅師の見解が最も禅僧然としていることが理解出来るだろう。そもそも、清浄か?破戒か?というような話は、凡夫による分別上の問題でしか無い。持戒か破戒にとらわれるのは、比丘自身の自己満足に由来する。むしろ目指すべきは無分別なる境涯であり、更にはその境涯には意図的な開き直りの破戒も、自己満足の持戒も無い。それが得られれば、破戒も持戒も、凡夫が思うような状態としては存在しないのである。

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