つらつら日暮らし

浄土宗『浄宗円頓菩薩戒』を学んでみる(1)

洛東獅谷・法然院蔵版の『浄宗円頓菩薩戒』折本(おそらくは江戸末期か明治初期の印刷か)を入手した。よって、その本文を学びながら、何回かの記事にしてみたい。なお、この本は折本であることからも分かる通り、実際に儀礼で用いられたものと推定される。引用に当たって、漢字や変体かなは現在通用のものに改める。

  浄宗円頓菩薩戒目次
△三聚浄戒 此三はだれだれも受くべき戒なり、此浄戒、戒ごとにおのおの万法をあつむ、故に聚といふ也
一摂律儀戒 これはもろもろの悪行を止るなり
二摂善法戒 これはもろもろの善事を行ふなり
三摂衆生戒 これは一切の衆生を、済度利やくする義なり
 凡この三聚浄戒は、仏法の大地とて、地面なる通法度なれば、おのおの誓願を立て、至誠真実になるべきなれは、持ち守たきものと、誓受すべきなり、
    『浄宗円頓菩薩戒』折本


本書は、いきなり三聚浄戒から始まる。三帰依を三帰戒として、十六条戒という括りをしている宗派からすれば、少し違和感を覚えるかもしれないが、実は三帰依と、三聚浄戒・十重禁戒は、その性格を殊としている。その例として、浄土宗の『授菩薩戒儀』を参照すれば、天台宗のそれと同じく「十二門」となっており、三帰依については「第二門・三帰」で唱え、続く三聚浄戒は「第七門・正授戒」の項目で授与されるのである。

よって、三帰依と三聚浄戒は連続して行われるわけではなく、更には「三帰依」の後で四弘誓願や懺悔が行われることからすれば、三帰依とはこの授戒作法全般に掛かるのである。

そのため、『浄宗円頓菩薩戒』は「十二門」からすれば、「第七門・正授戒」と「第十門・説相」を元に、授戒作法時に於けるお唱えとして集めたものであるといえる。

それで、『授菩薩戒儀』での戒相の説示と、上記の内容が合っているかどうかを確認したいのだが、『続浄土宗全書』第9巻には「黒谷古本戒儀」「机受戒略戒儀」「新本戒儀」「庭儀戒儀」の4本が収録されているが、どうも、「黒谷古本戒儀」とは合っていない。そもそもの「三聚浄戒」の戒文の名称が「(第三)饒益有情戒」なのである。

それでは他の本か?と思ってみたら、「三聚浄戒」が見える本は全て「饒益有情戒」であり、「摂衆生戒」ではなかった。あれ?そうなると、どこからこの戒文を持って来たのだろうか?名称ではなくて、内容から考えてみると、どうも「机受戒略戒儀」の可能性が出て来た。他は違いすぎるので、比較の対象にならないほどだ。具体的に見てみよう。

一には摂律儀戒、謂わく、一切の悪を断ずる也。
二には摂善法戒、謂わく、一切の善を修入する也。
三には饒益有情戒、謂わく、一切の衆生を利益する也。
    「机受戒略戒儀」、『続浄土宗全書』第9巻、7頁下段


いや、これはそこまで似ていないではないか?と思うかもしれないが、それでも他の2本に比べれば、遥かに似ているのである。ただし、これ以上、似ているわけでもないし、他の宗派とも、少しずつ言い方が違うので、おそらく、『浄宗円頓菩薩戒』自体は、他の本から参照されたか、この編者が自らの言葉を付けたか、ということくらいである。

これは、今後、「十重禁戒」も併せて見ていく中で、更に検討していきたいと思っている。

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