つらつら日暮らし

『大智度論』における具足戒の受け方について

以前、【『大智度論』における出家律儀の種類について】を書いたときに、まだ採り上げないままの文章があったので、この記事で見ておきたい。

 問うて曰く、沙弥十戒、便ち具足戒を受く。比丘尼法中、何を以てか式叉摩那有りて、然る後に具足戒を受け得るや。
 答えて曰く、仏の在世時、一りの長者婦有り、懐妊を覚えずして、出家して具足戒を受く。其の後、身、大いに転現し、諸もろの長者、比丘を譏嫌す。因みに此に二歳学戒有りて制し、六法を受けて、然る後に具足戒を受く。
 問うて曰く、若し譏嫌と為るは、式叉摩那、豈に譏に到らざるや。
 答えて曰く、式叉摩那、未だ具足戒を受けざるは、譬えば小児の如し、亦た給使の如し。罪穢有ると雖も、人、譏嫌せず。是れを式叉摩那、六法を受けると名づく。
 是の式叉摩那に二種有り。一つには、十八歳の童女、六法を受く。二つには、夫家、十歳して六法を受くるを得る。
 若し具足戒を受けんと欲すれば、応に二部僧中、五衣、鉢盂を用って、比丘尼を和上及び教師と為し、比丘を戒師と為して、余に戒法を受けるが如くすべし。略説すれば則ち五百戒、広説すれば則ち八万戒なり。第三羯磨訖りて、即ち無量の律儀を得て、比丘尼を成就す。
 比丘、則ち三衣、鉢盂、三師十僧有りて、戒法を受けるが如し。略説すれば二百五十、広説すれば則ち八万なり。第三羯磨訖りて、即ち無量の律儀法を得る。
 是れを総じて戒と為すと名づけ、是れを尸羅と為す。
    龍樹尊者『大智度論』巻13「釈初品中讃尸羅波羅蜜義第二十三」


上記の内容だが、沙弥は十戒を受ければ、その後、そのまま具足戒を受けることが出来る(年齢制限などはある)。だが、比丘尼の場合、十戒を受けて沙弥尼になっても、すぐに具足戒を受けることが出来るわけではなく、「式叉摩那」という学ぶ期間を要するのである。そこで、『大智度論』では、その理由について、世尊の在世時に、長者の妻がいて、自らの妊娠に気付かずに出家して、具足戒を受けた。だが、その後、妊娠していたので身体の様子が変わり、在家信者が比丘達を批判したという。つまり、出家してから他の比丘と性行為を行い、妊娠したのではないかと疑われたのである。

しかし、実際には出家する前に妊娠していたのだが、そもそも誤解を受ける状況こそが問題になったのである。そのため、2年間、六法を受けて学ぶ期間を設けたが、それを式叉摩那というのである。つまり、沙弥尼になる前に妊娠していても、式叉摩那の時にそれが発覚すれば、すぐに世間に戻れるわけである。

つまり、男性と女性とでは、具足戒を受けるための経緯が異なることを明示していることになる。比丘尼になる場合、五衣(これは、比丘が用いる三衣よりも二衣多い。これはこれで議論の対象であり、何かの機会に採り上げることもあるだろう)と鉢盂を以て、比丘尼を和上(出家してから仕える先生)と教師(様々な作法などを教えてくれる敎授阿闍梨)とし、比丘を戒師として受戒しなくてはならなかったのである。

なお、比丘尼戒については、少なく数えれば五百戒、多く数えれば八万戒であり、白四羯磨を経て比丘尼になる。

一方で、比丘は三衣・鉢盂を得て、三師七証の十僧がいれば、略せば二五〇戒、多く数えれば八万戒なのである。同じように白四羯磨を経て比丘となる。

この男女の違いについて、果たして現代ではどう捉えられるのであろうか。まぁ、最近では妊娠についても2年間という経過期間を得なくても、検査薬などもあるようだから、不要という話もあるかもしれない。とはいえ、伝統は伝統でもあるし、当方で結論が出せることでは無いことは明らかである。
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