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「はかる」の同訓異義

11月1日は「計量記念日」ということで、計量記念日にちなんで、「はかる」と読む漢字の話をしたい。



なお、「はかる」の語源については「はかどる」「はかぐち」「はかる」を見てね。

「計量」の「計」も「量」も「はかる」と読む。「はかる」と読む漢字は常用漢字表にあって国語辞典に必ず載っている分をあげると「計る、量る、測る、図る、諮る、謀る」の6通りあり、国語辞典では6者それぞれ別見出しで立っていることが多い。

大まかな使い分けは下記の通り
計る:①時間などを調べる(数える)。②ころあいを見計らう。③計画を立てる。
量る:①量、重さを調べる。②推量する。
測る:①長さ、深さなどを調べる。②推測する。
図る:企てる。良いように工夫し、行動する。
諮る:相談する。意見を聞く。
謀る:だます。悪事を企てる。

「はかる」と読む漢字の中で一番早く習ったのは「計」(小2)なので、私が小学生のころは「程度を調べる(調べて数値を出す)」という意味の「はかる」はすべて「計る」でカバーできると思っていたけど、国語辞典で調べると「計る」は時間ぐらい…意外と狭いのね。「計量」は「量を計る」という動詞目的語構文からきた熟語と思ってた。つまり「量」は名詞で、「量」という目的語に対する動詞には「計る」を使うものだという感覚を持っていた。計量・計測関係はすべて「計る」で書けるという考えもありだろう。辞書によっては「量る」、「測る」の見出しにそれぞれ「『計る』とも」と書かれていることもある。『新明解国語辞典』(三省堂)では見出し語として「計る」はあるが「量る」、「測る」はなく、備考に「『量る』、『測る』とも書く」とある。体重計、身長計など「○○計」とつく器具を使う場合は「計る」で書くことができるという考え方もある。「量を量る」のように「量」という字を2回繰り返すのを嫌って「量を計る」という表記を好む人もいるだろう。

さまざまな目的語から「はかる」の漢字表記の使い分けをまとめてみた(ものによっては2通りないし3通り使えることもある。「計る」は全般的に使えるという考えもあるが、単なる「量る」や「測る」の代用と思われる場合は割愛した)。↓
時間:計る
重さ、分量、体積(かさ):量る
長さ(距離、高さ、身長)、面積、水深:測る
体重:量る、測る
温度(気温、体温、熱):計る、測る
湿度:計る、測る
血圧、電圧:測る、計る
音量、放射線量:測る、計る(+量る?)
水道・ガス・電気使用量:量る、計る、測る
速度:測る、計る
歩数:計る

体重は重さなので「量る」だが、身長と共に身体測定の項目の一つなので「測る」が使われることもある。「身長を測る」と「体重を量る」を一文にまとめて「身長と体重をはかる」と言うことも少なくない。この場合、身長も体重も「測定する」に言い換えが可能なため「測る」が優先され「身長と体重を測る」、または「身長と体重を計る」とするのが妥当。括弧付きで併記するという手もある。「身長と体重を測(量)る」と。
温度や圧力など、近代以降生まれた概念で長さとも量とも時間とも関係ないものは「測る」または「計る」と書く。一本に伸びた針(動きを感じないもので、水銀式を含む)の付いた器具を使うものは「計る」と書くことが多い。体温は「計る」が優勢。血圧は、水銀の針が付いたアナログの血圧計もあるが、早くからデジタルへの移行が進んだこともあって、「測る」が優勢。横に振り動く針は主に重量関係なので「量る」との関連が深い。
水道・ガス・電気使用量は、量なので「量る」とも、使用量に応じて金額を計算することから「計る」とも、測定という意味合いから「測る」とも書ける。水道使用量は水道メーターに時計に似た針と目盛りが付いていることから「計る」のイメージが強い。
量は量でも、音量や放射線量といった形がなく使って減るものでもない量には「量る」は使わないみたい。ヤフーで「音量を測る/計る/量る」、「放射線量を測る/計る/量る」でフレーズ検索した結果、「量る」のヒット件数が極端に少なかった。
速度は距離と時間の両方が関わっていて、「測る」か「計る」で書く。
「数える」の言い換えとしての「はかる」は「計る」。通例人が行う場合は「数える」、器械を通す場合に「計る」と言う(例「万歩計で歩数を計る」)。
時間は「計る」だが、「時間を計る」と「時間を測る」をヤフーでフレーズ検索してみたところ、後者のヒット件数の方が多かった。時計は基本的に時間を「見る」ための道具なので(時計自体は時間を計り続けているが)、「時計で時間を計る」とはあまり言わない。「時間を計る」と言う時は普通、タイマー(主に調理)やストップウォッチ(主にスポーツ)を使う。ストップウォッチはほぼ全てデジタルで、アナログは皆無に等しい。やはりデジタル機器を使うと「計る」というより「測る」という感覚になるのかしら?「タイム測定」とも言うし。

想像する、予想する、おしはかる、という意味の「はかる」は、物理的な予測をするという場合は「測る」、(人の)事情や心情を想像するといった感情がからんだ場合は「量る」を使う。「おしはかる」はニュアンスによって「推し量る」または「推し測る」と書き、それぞれ「推量する」、「推測する」に言い換えが可能。「推測」は物理的な予測、「推量」は事情や感情の想像の他、頭で考えて想像することを含み、「推測」の意味も包含している。「おしはかる」の漢字表記に「推し量る」のみが載っている辞書も少なくない。「推し計る」という表記は普通しないが、「計る」に「おしはかる」の意味も含まれると考えられ、「計り知れない」は「推し量れない」という意味になる。事の成り行きを予測する「計算」にも通じるだろう。

計画の意味がある「図る」と「計る」の使い分けは、「図る」は「工夫して行動する」とか「試みる」という意味で、「合理化を図る」のように使う。「計る」は時間的な意味合いがあり、「将来を計る」(将来の計画を立てる)のように使う。特定の物事を計画する場合はどうかと思って、「開催を図る」と「開催を計る」をヤフーでフレーズ検索したら、前者が多く後者は極端に少なかった。
「図る」と「謀る」の使い分けは、「『図る』は良いことに使い、『謀る』は悪いことに使う」と説明されることもあるが、それだけで区別するのはちょっと違う。「謀る」は「だます」、「(悪事を企てて)人を落とし入れる」の意味。自殺は悪いことだから「自殺を謀る」だという人もいるが、自殺の多くは精神的に追いつめられたことに起因することや、自殺は悪いことではないという思想もあること、「人を落とし入れる」という意味合いがないことなどから、単に「試みる」という意味の「図る」が妥当。新聞でも「自殺を図る」という表記を用い、「自殺を謀る」は使わない。「警察24時」という番組でよく聞く「逃走をはかる」は、逃走することは悪いことだからといって「逃走を謀る」と書くのは不適切。悪いことをして警察に目を付けられて、捕まりたくないから逃げるという二次的なことなので、これも「逃走を図る」が妥当。また、「謀る」は軍事的策略を立てるという意味もある。

「○○が○○の指標となる」という抽象的な意味の「はかる」は、普通は「測る」と書き(例「選挙で民意を測れるのか」)、「○○指数」(幸福度指数、民主主義指数など)などといった数値で表す場合は「計る」と書く傾向がある。

「はかる」と読む漢字が組み合わさった「計量」、「計測」、「測量」という熟語がある。
「測量」とは土地の面積や長さを測定することで、「測」とは関係あっても「量」とは関係なさそうだが…「測」という漢字のなりたちは水にものさし(則)を入れて深さを測るようすを表現したもの。おそらく、水深を測ると同時に水量も量れることから、「測量」という言葉が生まれたんじゃないかな。現在、「測量」は「測地」とほぼ同義で使われている。測量業者は設計も兼ねていることも多く、その場合会社名が「○○測量設計」となっていることが多い。「測量設計」では「測」「量」「計」と「はかる」と読む漢字が三つ使われてるね。
「計量」は統計を用いて予測することも表し、「計量経済学」、「計量政治学」などがある。これを「計(る)」、「量(る)」との関係で考えると、「計」は「統計」や「計算」、そして「将来を計る(計画を立てる)」ことに役立つものである点。物理的な予測なので「量る」というより「測る」という感じだが、(頭で考えて)「推量する」、「推し量る」というニュアンスで「量る」とも関連している。あと「数量」という点で「量」と関わっている。

漢和辞典の同訓異義一覧に載っている「はかる」と読む漢字は他に、料(→量)、衡(→量・計・測:「衡」はてんびんなどを使って均衡を調べるという意味)、詢(→諮)、議(→諮)、画(→図・計)などがある(常用漢字表に「はかる」の読みが載った範囲内では「→」で示した漢字で表すことができる)。
2017年の新語・流行語大賞に選ばれた「忖度」の「忖」と「度」も「はかる」と読む。忖度とは人の気持ちを推し量ることなので、常用漢字に置き換えると「量る」になる。

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