(記事より一部抜粋です。)
大阪府八尾市の住宅街にある喫茶店「ザ・ミュンヒ」。コーヒーだけで約100種類あるメニューには「想定内」「想定外」「超想定外」と、店主の味へのこだわりが付記されている。長いもので4時間かけて抽出する至極の1杯を求め、その道の通が訪れる。
「飲み物というより料理」と自負するコーヒーは、口に含むと強烈な香りが鼻孔へと抜け、ナッツのような木の実特有の甘みが広がり、じわじわと深い苦みが喉の奥底まで染みわたる。「僕の人生の全てを1杯に込めてんねん」
コーヒーは趣味の詩作に通じると、田中さんは信じる。言の葉の魅力が凝縮された詩のように、雑味を出さない技術と経験によって凝縮されたコーヒーのエキスが生まれる。「うちでしか味わえない突き抜けた体験をしてもらいたい」
田中さんは、年中無休で午前6時から翌午前3時まで店を開けている。「誰でも、いつでも、ふらりと立ち寄れる店」にしたいからだ。ひとり静かに詩を詠み、時にはまどろみながら、辛抱強く客を待ち続ける。
「つぶれそうで、つぶれへん店ぐらいがちょうどええねん。最高の1杯ができあがるまで一緒にのんびりと話でもしましょうや」