大腸がん検診の陽性率 痔の人はどのくらい? 内視鏡検査を受けたいタイミング…直腸がんが見つかったケースも
2024/11/04 05:00
痔じ を持つ人は日本人成人の3人に1人とも言われ、時に出血を伴います。大腸がん検診で便潜血反応検査が行われていますが、痔の出血であっても検知されれば陽性になるので、「痔だろう」と思って放置してしまう方もいることでしょう。しかし、もしがんだったら。しかも、肛門に近い直腸がんだと、位置や進行度によっては、直腸の切除手術に伴い、肛門をふさいで腹部に開けた穴から便を排出する人工肛門にせざるを得ないこともあります。まぎらわしい痔と直腸がんの症状について考えます。
便潜血反応検査陽性だったが
長年、痔と付き合ってきたAさん(59)は、時々出血すると、かかりつけ医で処方された内服薬と塗り薬を使っていました。デスクワークが多く、長時間座っているのも痔には望ましくありませんが、仕方ありません。毎年の健康診断の際、便潜血反応検査を受けていて、陽性になることもたびたびありましたが、「痔のせい」と考えて、大腸内視鏡による精密検査を受けたことはありませんでした。
ところが、下血がひどくなり、なんとなくおかしいと感じて、私のクリニックで大腸内視鏡検査を行ったところ、肛門から3センチのところに6センチ大に隆起した病変(ポリープ)が見つかり、組織を採取して病理検査をすると直腸がんの診断。近隣の総合病院の消化器外科を紹介しました。
放射線治療と手術の併用で人工肛門回避
ある程度進行したがんだったので、直腸を切除して人工肛門になる可能性もありましたが、近年はさまざまな工夫で、できる限り肛門の機能を残す方向で治療が行われています。Aさんの場合も、最初に放射線治療を行ってがんを小さくしてからがんを切除することで肛門の機能を残すことができました。
「がんとは考えたくないし、出血は痔のせいだと自分で納得していましたが、もっと早く大腸内視鏡検査を受けておけば良かった」とAさんは話していました。
肛門の痛みがないのに下血、何かおかしい
大腸がんは男女ともに増えていますが、特に女性ではがん死のトップです。B子さん(52)も痔があり、便秘気味の時など便が硬いと、肛門痛とともに、トイレットペーパーに血液がにじんでいることがありました。逆流性食道炎による胸焼けなどの症状もあり、症状が強いと度々近くの「外科・内科」を 標榜ひょうぼう するクリニックを受診し、併せて肛門の診察も受け、裂肛や痔核など痔の診断を受けていました。
ある時、肛門の痛みがないのに下血があり、「何かおかしい」と私のクリニックを受診され、大腸内視鏡検査を実施。すると肛門から2センチのところに4センチ大の隆起性病変が見つかりました。組織を取って病理検査を行うと、直腸がんとわかりました。
出血の原因を痔としてすませない
総合病院の大腸を専門にする消化器外科医に紹介しました。これだけ肛門に近いと以前なら人工肛門になったかもしれません。しかしB子さんの病変はある程度大きくても深く進んでいない早期のがんだったので、粘膜下層 剥離はくり 術という病変をそぎとる内視鏡手術を受けることができました。
Aさん、B子さん、いずれもがんの転移はなく、元気で過ごしています。患者だけではなく医師も、明らかに痔があると、出血の原因を痔と考えてすませてしまうことがあります。せっかく受けた便潜血反応検査で陽性となっても「痔の出血だから」と考えて放置してしまっては、検査を受ける意味がありません。痔を自覚している患者さんの便潜血反応陽性率は8.2%とする報告があります。痔があるからと言って、多くが陽性になるわけではない、ということです。
ですから便潜血反応検査で陽性、あるいは出血が続くようなら一度は大腸内視鏡検査を受けていただきたいと思います。(松生恒夫 消化器内科医)
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