宇部興産専用道路

見学記です

ジャパントラックショー2022を見学しましたⅢ

2022-10-30 04:23:27 | ジャパントラックショー2022

ジャパントラックショー見学の続きで、これが最終回。今回は、トラック部品のメーカー他色々について。

 

トラックのドレスアップを手掛けるビッグリグカスタムが出品した4t車です。よくあるデコトラとは方向性がまるで違う、アメリカンなドレスアップをしています。煙突マフラーや円筒形の燃料タンク等を部分的に取り入れたドレスアップは時々見かけますが、ここまで凝った車両は見た事がありません。写真ではわかりにくいですが、運転席内部もコテコテでしたゾ

今やトラックドライバーの間ではすっかり有名になったドレスアップブランド「セノプロトラックス」が出品した車両です。「機能的でカッコいいトラック」がコンセプトで、こんな方向性のドレスアップならいいですね。全て合法だそうです。でもここまでドレスアップすると、おいくらかかるでしょうね? ドアの内側まできっちり塗装するだけでも、かなりの金額がかかるそうですから

 

エムケー精工の大型車向け洗車機です。企業のイメージにも直結する車両の洗車ですが、大型車の洗車は時間がかかるもの。長時間労働に対する世間の目が厳しくなっている昨今、4分弱で完了するこんな装置はそこそこ以上の規模の物流企業にとっては不可欠ですね。寒い地方では有難い下部洗浄システムもありますし(オプション)、センサーによって車両毎に違う形状に対応可能だそうです

 

今度は、ダイフクの大型車向け洗車機です。ブラシでこするのではなく、高圧の水を噴射することによって洗車をします。これだと、複雑な形状の特装車(ごみ収集車等)も洗車可能になるわけです

 

ALFAの、事故車を移動させる装置です。事故車、特に衝撃によってタイヤ周りが破損した車両は、劣化したキャスター(車輪)みたいに思うように動かせません。そこでこの装置に載せて移動させることによって、二次破損を防ごうという優れモノ。製品も凄いけど、事故車も凄いですねえ(笑)

ミシュランが出展していた、リトレッドタイヤです。リトレッドタイヤとは、摩耗した古いタイヤの溝を削って新たな溝を貼り付け、再使用するタイヤのことで、乗用車のタイヤでは構造上不可能な大型車ならではのタイヤです。以前からこんなタイヤはありましたが、新品と比べると台タイヤと貼り付けた部分が剝がれやすいなど見劣りする部分がありましたが、現在は品質も良くなり、こんなタイヤもありかもしれません

 

そして、今回出展されていた展示物の中で、私の中での一等賞はこちら。

関東車輛が展示していた、大型車向けのスノーソックスです。いわば布製のタイヤチェーンというわけで、メーカーはあのスパルコ。性能や耐久性は金属製と比較しても申し分無く、脱着は数分でできて軽量・省スペース。トラックの金属チェーンの取扱いに四苦八苦した経験があるだけに、あまりの良いことずくめに虜になってしまった(笑) お世辞抜きで、乗用車用まで欲しくなってしまいましたよ。またこちらの会社は車両の陸送もやっておられるとのことで、その件でも盛り上がってしまいまして…陸送の苦労等、色々と語って頂いたお陰で、思わぬ長居をしてしまった(大笑) 関東車輛様、その節はありがとうございました(爆)

 

写真はありませんが、モーダルシフトの受け皿ということで、カーフェリーやRORO船の運航をしている商船三井フェリーも出展していました。あの「さんふらわあ」でお馴染みの運航会社です。私の会社はフェリーを介した輸送はやっていませんが、たまに利用する名門大洋フェリーを引き合いにしてフェリー旅の魅力をつい語ってしまいました(苦笑)

というわけで、レポートはこれにて終了。他にも、紹介しきれない程の車両や架装メーカー、部品や関連サービスの出展がありました。4年ぶりに開催されたこのトラックショーですが、期待以上の展示物の盛り上がりでした。2年後の開催も既に決まっていて、こちらも当然参加します。主催者や出展企業の皆さん、ありがとうございました。

 


ジャパントラックショー2022を見学しましたⅡ

2022-10-30 04:21:52 | ジャパントラックショー2022

続編をやっと作りました。5月に開催された「ジャパントラックショー2022」見学記の続きです。

今回は、主に架装メーカーを中心に報告致します。予め説明しておくと、架装メーカーとは、トラック等のシャーシに荷物を載せるための箱や台、または作業をするための装置を製作して架装する企業のことです。一部上場クラスから町工場クラスまで、大小様々なメーカーが存在するんですよ。

これは信濃車体製作所が出品した重機運搬車です。作業を省力化するため、歩み板(重機を載せるため、荷台と地面の間に渡す板)を引き出し式にするなど多数の工夫を凝らしたボデーです。これらは大部分が顧客の要望に応じて一から図面を引いて製作されるフルオーダーメイドのボデーで、メーカー系架装メーカーには対応しにくい仕様ですね。これらのボデーに対応するのが、中小架装メーカーの生きる道なのかもしれません

大型冷凍ボデーのシェア首位を誇る矢野特殊自動車が製作した、航空給油車です。給油時に必要なチェック事項をデジタル管理するシステムを組み込んだ最新車両で、他にも大きな転落防止柵を設置するなど安全性にも配慮した設計が盛り込まれている様子。車両の様子からして、公道走行が可能と思われます

メーカーの標準ボデー製作したり、トレーラーボデーのシェア首位でもある日本トレクスが出品した、スワップ冷凍フラットパネルバンボデーです。脱着可能なボデーで、積み下ろしをしている間にシャーシは別のボデーを輸送する、な事も可能な訳ですね。冷却装置は、ボデー先端にサーモキングのノーズマウント式冷凍機が設置されています

セミトレーラー式車載車といえばこのメーカー!の浜名ワークスが出品した、セミトレーラー式の6台積みの車載車です。EV化により大きく重くなる一方の乗用車を輸送するには従来の大径シングルタイヤでは対応しきれなくなったようで、小径ダブルタイヤを採用しています。また後軸スライド機構を不要にしたのとフレームの薄肉化などにより、大柄な車両に対応できるようにしたボデーです

 

国内だけでなく、海外の架装メーカーの出展も多かったです。

 

イタリアのROLFO社製の車載車です。柱が殆ど無いのが特徴で、車幅のあるこれらの車両を積載するにはぴったりですね。それにしてもこれらの車、よく集まりましたね!?

 

ドイツのケスボーラーが製作する、セミトレーラー型ダンプです。最大積載量は29tで、日本でよく見られる箱型ではなく、V字型の断面を持つ独特のデザイン。全長が9m弱ですが、比重の大きな土砂を積載するにはこれ位の長さがいいのでしょうね

 

同じケスボーラー社製のコンテナシャシーで、ボデーの伸縮により20~45ftの海上コンテナ各種を積載できる、万能なシャシです。これで保有台数を削減できる、というのがセールスポイントなのです

 

オランダのファン・エック社製の、二段のフロアを持つトレーラーです。超低床ゆえ、高さ1,7mまでの荷物を2段積めます。しかも車軸が無いシングルタイヤなので、タイヤの間まで2段積みが可能なのが凄いですね。同社では、自動車レースのチームが所有するモーターホームも製作しているようです

 

同じファン・エック社製と思われる、空港間の地上保税輸送で使われているトレーラーです。こちらは航空コンテナや航空パレットを2段積みにできる構造で、こんな構造は日本の架装メーカーで対応できるでしょうか? 車軸レスでこんな超低床、滅多な事では作れそうにありません

 

このトラックショーでは、何故かレッカー車の出品がやたらと充実しています。今回もヤマグチレッカーを筆頭に、城南ホールディングスなど多数の企業が出展していました。それも全て、アメリカやイタリア、中国からの輸入モノを架装しています。日本では作っていないのでしょうか? 全て紹介していたらきりがないので、そのうちから1台だけ紹介します。

 

これが一番凄かった。ヤマグチレッカーが出品した、日本最大という75tクレーンを装備したレッカー車です。通常のトラックやトレーラーだけでなく、建設現場等で使われる大型クレーン車の引き起こしにも対応可能な仕様とのこと。牽引力だけでなく、PTO(メインエンジンから作業のための動力を取り出す装置)のモニタリングシステムを装備するなど、最新鋭の装備も備えています。こんなボデーを搭載したシャーシも凄くて、スカニアのP500というシャーシです。エンジンは約13,000ccの500PSを誇り、8×4の(日本流に言えば)高床4軸という、日本の公道では殆ど見られないシャーシを採用しています。もう、オーラが普通ではありません。値段は億単位だそうです


ジャパントラックショー2022を見学しました

2022-07-03 11:07:21 | ジャパントラックショー2022

先日、横浜のパシフィコ横浜で開催された「ジャパントラックショー2022」を見学しました。実に4年ぶりの開催です。本来は2年前の5月に開催されていた筈ですが、コロナ云々で中止。あの時期はイベントどころか外出さえままならなかった時期ですから、当然でしたが。
このイベントは、トラックメーカーはもちろんのこと、架装メーカーに部品メーカー、リース会社や業界誌などなど…輸送に関わる企業が一堂に集うトレードショーなのです。業界人でなければこのショーの魅力はわかりにくいかもしれませんが、我ら業界人にとっては魅力溢れるイベントなのです。以前から見学を狙っていていた4年ぶりのショーについて報告致します。

まずは車両そのものの展示から。大手からベンチャー系まで様々なメーカーの展示がありますが、日野自動車が例のスッタモンダで開催直前に出展辞退となってしまったのが残念ですが。

三菱ふそうの電気小型トラック「eキャンター」です。私の会社の関連会社にも入ったようですが、航続距離にしても充電に必要な時間からしても集配車両向けの内容ですね

電動車だけあってギアボックスが無いから、シフトレバーの段?はこれしかありません

 

これはフツーのキャンターですが、最近フルモデルチェンジ?された新型です。FMCとは言ってもキャブは20年くらい流用していますし、実質フェイスリフトという印象ですが。最近の商用車のFMCは、こんなのばかりです

いすゞの大型車「ギガ」の、液化天然ガス車です。満タンで1000km走れてパワーは330PSあるので、スペックや航続距離では問題無さそう。でも充填する時間は実際のところどうかな?と思いますが

 

UDトラックスが(日本国内向けとしては)唯一自社生産している大型車「クオン」です。ステアリングのブレ等を電子制御で微修正して疲労を軽減する「アクティブステアリング」を搭載しています。これがどんな運転感覚なのか、興味津々ですよ。これはフルキャブのGKで10.8ℓのエンジンですが、モデルによっては7.7ℓのエンジンもあるとか。最近のエンジンのダウンサイズはとどまるところを知りません

 

日本では正規販売されていない、メルセデスベンツの大型車「アクトロス」をベースとしたモーターホームです。ベース車でさえ殆ど見られないのに、こんなモーターホームが見られるとは! トラクタしかないと思っていたのですが、こんな6×2の単車があるのにも驚きです。尚、この車両は今のところ日本の公道は走れません

 

トラックのリースや販売、買取などを手掛けるタカネットサービスのブースです。個人所有の乗用車と違って、商用車についてはこんなリースで調達することも多く、私の会社の車両も自社保有している車両は意外と少ないですね。展示されているのはスカニアで、みんなが乗りたがる車両ですが、左のミラーが畳めないなど不便な部分も意外と多いそうです

 

あの「ウニモグ」の輸入代理店のワイ・エンジニアリングが展示した、メルセデスベンツのエコニックという大型車です。車両総重量が26tで、後々軸が操舵可能なシャシ。しかもキャブがかなりの低床で、主に消防車やゴミ収集車向けの特装車向けの設計ですね。日本では実質大型車なのに、運転席のステップが2段しかないのにはびっくり!

小型の商用EVも、多数展示されていました。

北九州のEVモーターズ・ジャパンが展示した「6t物流車」です。FFの低床シャシなので床が低いですし、しかもウォークスルー。この天井の高さは、家具や観葉植物の輸送に向いていそうな気がします。航続距離は250km以上で最大積載量は2t弱。通常のトラックみたいなフレームが無いから、こんな積載量なのでしょうね

 

京都のファブレスメーカー「フォロフライ」が展示したEVバンです。ハイエースに近いサイズで、全長4.5mで最大積載量は950kgです。バッテリーを格納する関係で床が少々高めなのが惜しいですが、まあその分、タイヤハウスの出っ張りが少ないですけど

これらの車両は、いずれも中国の車両メーカーに作ってもらった車両です。共通しているのは、どれもホイールベースが長いこと。これでは、日本の道路事情に今一つ合いません。これでは、クイックデリバリー(ヤマトのウォークスルーバン)やハイエースで入れた場所に入れなくなる事が続出することでしょう。日本でこれらの車両を普及させるには、その点がカギかもしれませんね。

今回はこれまで。次回は、トラックの荷台部分を製作する「架装メーカー」を紹介予定です。


宇部興産専用道路を見学しました

2017-06-15 23:03:15 | 宇部興産専用道路

先日、総合化学メーカー・宇部興産が山口県に所有する「宇部興産専用道路」を、熾烈な予約競争を制して見学しました。その様子を報告します。こんな社会科見学は、約11年前に日野自動車の工場を見学して以来です。

まず、その専用道路について。これは山口県美祢市にある宇部興産の伊佐セメント工場と宇部市の工場を結ぶ、全長約32kmに及ぶ「私道」で、日本最長の私道と言われています。同社が生産するセメントの原料(クリンカー)や石炭などを輸送する専用の道路で、もちろん関係者以外は立入禁止。そこを行き交う輸送車両も、セミトレーラの後ろにもう一両トレーラを連結した「ダブルストレーラ」と言われる極めて特殊な車両です。

いすゞの重量物を牽引するための2デフトラクタ「重トレ」がけん引する、ダブルストレーラ(以下、特大車とします)です。車両総重量(車両の自重と積載可能な重量を足した重量)120tで全長が30mに達する巨体で、このサイズと重量では公道の走行は不可能。そのため、公的なナンバープレートの無い「構内専用車」です。この巨体がカーブを通過する姿は圧巻です

何故、自社専用の道路を確保してまでこんな輸送をしているのでしょうか。かつては鉄道による輸送を行っていましたが、その路線(美祢線)が駅と信号場でしか行き違いが出来ない単線で輸送力に限界があった事と、当時の国鉄による毎年の如く実施される運賃値上げに頻発するストライキ、そして積荷の積み下ろしに時間がかかる事が重なったため、輸送効率に優れたトラック輸送に切り替えたそうです。ただ一般道では輸送量に限界があるうえ、定時性に難があることから、こんな専用道路を建設したのですね。何ともスケールの大きな話です。

以前はこんな特大車だけでなく、更なる輸送力の増強のために補助エンジン付きの3両目を連結した「トリプルストレーラ」も走っていました。エンジンの出力はメインと補助を合わせて800馬力に及び、車両総重量が150tに達するお化け車両だったのです。ところが当時の制御技術ではメインエンジンと補助エンジンの総括制御がうまくいかず、動きがギクシャクして故障が頻発。また、急制動をかけると後ろのトレーラが暴れ出して手が付けられない危険な状態に陥ることもあり、使用を停止しました。

まず見学したのが、美祢(みね)市にある伊佐セメント工場でした。

バスの車窓から撮影した、セメント工場の全景です。この煙突の高さは200mあるそうです

工場の隣にある鉱床から掘り出した石灰石に灰など様々な物質を混ぜ、ロータリーキルンと呼ばれる筒状の窯で焼き(1,400℃もの高温です)、クリンカーと呼ばれる半製品を作っているのが、この工場です。この窯は直径6メートルで長さが100mくらいありそうな大型の窯で、世界最大級だとか。また発生する熱も膨大で、バスの窓を開けただけで猛烈な熱気に襲われました。その世界最大級の窯の画像が欲しいところですが、工場内では残念ながら撮影禁止でした。

工場内を通り、未舗装の坂を上って展望台に到着しました。ここから、石灰石を掘り出す鉱山が見られました。鉱山と言ってもトンネルを掘るタイプではなく、海外で多い露天掘りで、直径1,2km・深さ100mにも及ぶ広大な穴が掘られているのです。

遠近感が狂いそう! 階段状に掘られた鉱山です。写真1枚には到底収まらず、またこの迫力は写真だけでは伝えようがありません

そこで使われるダンプも、公道を走りようが無い特大ダンプです。

コマツ製の、60t積み特大ダンプです。車幅5mに高さ5mなど、全てが桁外れのスケールです


石灰石を山盛りにして走るダンプです。全長が意外と短くて高い位置に60tも積むので、まるでトレーラを牽引するトラクタの「しゃくり」のような振動があるようですね

雨水が底に溜まった鉱山の底で活躍する特大ダンプ達です。特大サイズの筈ですが、まるで蟻のように見えますね。尚、鉱山内は35km/hの制限速度があるそうです

 

荷台を持ち上げ、集積所で荷卸中の場面です。その轟音は数百メートル離れた展望台にも伝わって来ます。※展望台から撮影

 

展望台にある、特大ダンプのタイヤです。これだけで、直径が2,7mあって重量が1,4tもあります。1本100万円とのこと

展望台での見学を終え、次はいよいよ宇部興産専用道路を走ります。展望台を出る前に、私たち見学者を乗せたバスの車体(特にタイヤ周辺)を念入りに洗車します。これは工場外の道路を石灰で汚さないための配慮で、ここで洗車しない限りけして外に出られないそうです。他にも鉱山で発破を仕掛ける際には周辺の民家で騒音や振動の測定を実施し発破の時間を正午に限定するなど、住民への配慮が厳密に行われています。他にも、事務所で使用する文具の一つをとっても地元の商店から調達するなど「地域との共生」を徹底している、とのことでした。

工場の見学を終えた後は、同社の専用道路を走ります。工場から一旦出て、専用道路に進入しました。

 

ゲートを通過して、いよいよ専用道路に入ります。ここから先は、特大車最優先で関係者以外立ち入り禁止の、言わば聖域です

バスの車窓限定という限られた条件下での撮影は苦労しました。基本的に片側2車線の高速道路のような道路ですが、標識の数が少なくて部外者には内容がわからない標識があるのが印象的です。最高速度は70km/hですが、所々でそれ以下の速度制限がありました


途中にはトンネルもあります。伊佐トンネルといい、ここは3%の上り坂。特大車の場合はエンジン全開でも7分かかって速度が30km/h台に低下するので、そのためオーバーヒート等のトラブルが一番発生しやすい場所だそうです

 

宇部工場の手前にある「興産大橋」で、これも専用道路の一部です。この道路のためにこんな巨大な建造物を作ったとは、何と言っていいやら…

 

バスの運転席にあるサンバイザーが恨めしい写真ですが…橋の下を大型船が通過できる高さ(35m)を確保するため、全長1km余りの長さで6%の勾配があります。ここを走る特大車にとっては難所で、平地で勢いを付けて登り始めても最終的には20km/h以下まで速度が落ちます。この橋の上り勾配で停止状態から発進できること(もちろんフル積載状態)が車両の選定条件でもありますが、ドライバーにとってもこの上り坂で坂道発進補助装置を使わず発進させる運転技術が求められます

 

一般道と平面交差する場所には、専用道路のための踏切もあります。これは、特大車を極力停車させないための設備だとか。私達(観光バス)が通過するためにも、遮断機を下げて頂きました。すみませんね(笑)

 

この道路は一般的な道路と違って私有地なので、道路交通法など公道で課される法律の適用外。そのためこんな特大車が走れるのですが、それゆえけん引や大型どころか、普通車の運転免許さえ無しで運転したとしても公的なお咎めはありません。しかしそこは安全最優先、公道の運転で必要なけん引までの免許取得は勿論の事、1か月程度の見習い期間(助手席に同乗など)を経て試験をパスし、ようやく専用道路を運転できるライセンスが発行され、運転できるのだそうです。
晴れてライセンスを取得して運転できるようになっても油断はできず、速度違反が発覚すればライセンスにパンチで穴が開けられ、2回目にはライセンス没収という厳しいペナルティーが待っているとのこと。また関係者であれば誰でもこの道路を利用できるわけではなく、理由を明記して利用申請書を提出し、それが認められて許可証が発行され、初めて利用可能とのこと。実際にこの道路には、数分おきにやって来る特大車以外に構内で作業をするその他のトラック(公道走行可能な車両)がちらほら見られる程度。不特定多数の車が行き交う無法地帯の公道とは比べ物にならない安全性が確保されていると思いました。

 


専用道路の途中にある、整備工場の隣にある駐車スペースで車両の見学もしました。日本ではここでしか見られない、特大車を間近で見られる極めて貴重な機会です。まずは、牽引される側のボデーから。

 


2両1組に編成されたバルク(ばら積み)トレーラです。上のハッチから積み込み、下のハッチから排出するので迅速な積み下ろしが可能な構造ですね。1両40t積みですが、トレーラ側だけで4軸もあるのは凄いです。一見どれも同じに見えるトレーラですが、実は国産(東亜自動車工業製)とインドネシア製のトレーラが混在しています

 

次は、牽引するトラクタです。

 


いすゞ・ギガのトラクタです。直列6気筒で520馬力のエンジンを搭載し、トランスミッションは重量物牽引車ならではの16段MTです。一見普通の2デフトラクタですが、一回り大きな特殊サイズのタイヤに変更し、ディファレンシャルギアをそれに合わせたギア比に変更するなど、ちょっと見ただけではわからない改造を施された特注生産のトラクタです

 トラクタとトレーラを繋ぐカプラ(連結器)です。グリスがこってり塗られていました

いすゞ車に限らず、特大車が履いているブリヂストン製のタイヤで「13R22.5」という、特殊なサイズ(直径114cm)のタイヤです。アルコア製のアルミホイールを履いていました

そして…

 

日本では殆ど見られない、アメリカのケンワースのトラクタ「C500」です。ボンネットスタイルの車体に、円筒形の燃料タンクや煙突マフラーがいかにもアメ車らしいですね。アメ車ではありますが、本来はオーストラリア仕様なので右ハンドルです。ボンネット車ゆえホイールベースが長く、狭い場所ではハンドル操作に特に神経を使うそうです

 

嬉しいことに、キャブ内にも入れて頂けました。巨体とは裏腹に運転席内は必要最小限のスペースしかなく、日本の2t車(小型トラック)なみに狭いのが意外です。助手席のコンソールボックスに手が届きそうでした

 

イートンフラーの18段トランスミッションです。ギアチェンジするにはシフトレバーの途中にあるレバーで更なる操作をするのですが、難解です。しかもノンシンクロらしく、要ダブルクラッチ。こんなお化けミッション、マスターしたいです

 

運転席と助手席の間には、ボデーの操作パネルが設置されていました。積荷が違うとは言え、スイッチだけで積荷を出し入れできるのは、特積屋としては少々羨ましいです

 


こちらはケンワースの新しい車両「T609」です。同じアメ車でも実はオーストラリア製で、アメリカ製の右ハンドル仕様の製造が中止されたため、オーストラリア製に切り替えたそうです。このトラクタだけでも全長が長いのですが、本場の大陸横断仕様の車両と比べるとこれでも小さい方。キャブは「デイキャブ」と言う、日本車で言うショートキャブ仕様ですが、本国ではこの後ろに「スリーパー」と呼ばれる居住スペースを設置します。全長もホイールベースもその分長くなります。
またこのケンワースに限らず大部分のアメ車のトラクタは、旅客機のジェットエンジン同様にエンジンメーカーを選べるのが特徴です。デトロイトやキャタピラーなど社外のエンジンを選べるのですが、この車両はカミンズの赤いエンジンが搭載されています。カミンズの場合、日本に日本法人「カミンズジャパン」と取扱ディーラーが各地に点在するので、最寄りのディーラーでアフターサービスを受けられるのが魅力だそうです。尚、アメリカ製の方はキャタピラーのエンジンです。

 

整備工場の外にはバルボリン製のカミンズ向けエンジンオイルの青いドラム缶が並んでいました

このオーストラリア車の運転席も見せて下さいました。ステップや バーの位置が国産車とまるで違うので、乗り降りは緊張しました

運転席から前方を撮影したものです。キャブオーバー(通常の箱型キャブ)の運転席しか知らない私にとって、前方にボンネットが突き出た眺めが何とも新鮮…ですが、前方視界はその分悪いです。特にボンネット直前は確認用ミラーも無いので一切見えません

 

 

木目のインパネに、ゴールド縁のアナログメーターがずらりと並んでいます。それにこの内装の内貼りって…標準仕様とは思えないゴージャスな雰囲気に、言葉がありません

何故、こんなアメ車まで輸入しているのか? この車両が販売されているオセアニア方面では、トレーラを3両も4両も連結した「ロードトレイン」が当たり前に走っているので、牽引するトラクタ側もそれに対応していて、エンジンの出力もそれなりに対応(600馬力級まであります)しているうえ改造が最小限で済むからだとか。ただ日本に正規輸入ディーラーが無いので、英語しかない取扱説明書や補修部品を発注してもなかなか届かず、忘れた頃に届く「コアラのような仕事ぶり」など、苦労も多いそうです。

上記のいすゞやケンワース以外にも、様々な車両が走っています。

最近初めて導入された、スカニアのトラクタ「R580」です。現在はスカニア以外では殆ど生産されないV型8気筒のエンジンで、580馬力あります。また、ここで使われている特大車群の中で唯一の2ペダル車(12段AMT)でもあります

 

同じスカニアの特装系単車「G450」で、日本では非常に珍しい車両です。これも構内専用車ですが、オフロード走行を前提とした車両のようですね。日本ではナンバー取得が不可能と思われます

この他にも、ボルボ・トラック(乗用車のボルボとは別会社)やいすゞの新型ギガの姿もありました。

これらの車両と設備を使って、朝6時30分から21時まで365日年中無休で工場を往復し、輸送を行っています。ドライバーは途中で交代するものの、この時間の間に1日10往復程度、1日の走行距離が約700kmに達します。トラクタの場合は8年間で160万キロ程度走行してから廃車されるパターンだそうですが、走行可能な距離が意外と長いですね。やはり、専用道路ゆえ発進・停止を少なくできるのが理由と思われます。また燃費はリッター700m程度ですが、総重量120t・積載量80tでこの燃費はなかなか優秀ではないでしょうか?  10t車(ナンバー取得可能な全長12mの大型単車)の燃費がおよそリッター3km台なので。

念願が叶って、いつか見学したいと切望していたこの施設を見学出来て、感無量です。この見学ツアーを開催して下さった協議会の皆さんや宇部興産株式会社様に感謝します。また、ここに辿り着くまでは数多くの困難がありましたが、多くの方々の尽力のお蔭で見学が実現しました。この場を借りて、お礼を申し上げます。


 

以下、余談です。 


帰りに利用した広島空港で目撃した、航空機に給油するための航空給油車です。燃料タンクだけでなく、翼にある給油口に辿り着くための昇降機や燃料圧送ポンプなどが設置されています。それゆえサイズも重量も大きくなるので、本来は輸出専用で車両総重量30t級のシャシ「高床4軸」をベースに昭和飛行機が製作した、典型的な構内専用車ですね。他にも航空機の搭乗に使われるタラップ車や特大ランプバスなど、空港は構内専用車を含めた特殊車両の宝庫です