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「春と修羅」宮沢賢治

2014-10-12 21:29:43 | 日記
心象のはいいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様
(正午の管楽よりもしげく 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾(つばき、か、つばさ)し はぎしり ゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼地をかぎり
れいろうの天の海には
聖玻璃の風が行き交ひ
Zypressen 春のいちれつ
くろぐろと光素(エーテル)を吸へば
その暗い脚並みからは
天山の雪の稜(りょう)さへひかるのに
(かげろふの波と白い偏光)
まことのことばはうしなはれ
雲はちぎれてそらをとぶ
ああかがやきの四月の底を
はぎしり燃えてゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(玉髄(ぎょくずい)の雲が流れて
どこで啼くその春の鳥)
日輪青くかげろえば
修羅は樹林に交響し
陥りくらむ天の椀から
雲の魯木の群落が伸び
その枝はかなしくしげり
全て二重の風景を
喪神の森の梢から
ひらめいて飛び立つ烏(からす)
(気層いよいよすみわたり
ひのきもしんと天に立つころ)
草地の黄金(きん)を過ぎてくるもの
ことなくひとのかたちのもの
けらをまとひ おれを見るその農夫
ほんたうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
(かなしみは青々ふかく)
Zypressen しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截(き)る
(まことのことばはここになく
修羅のなみだは土に降る)

新しく空に息づけば
ほの白く肺はちぢまり
(この体空のみぢんに散らばれ)
いてふのこずえ またひかり
Zypressen いよいよ黒く
雲の火花は降りそそぐ

参考文献
名詩の絵本2
~新しい季節~
編集者 川口晴美
出版社 ナツメ者
出版年月日 2010年12月30日

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