最大の誤算は一対一で互角の勝負に持ち込まれたこと
日本は、コロンビアとともにグループHを勝ち抜けた。
決勝トーナメント行きの2枚の切符を手にするのは、コロンビアとセネガルであると確信していた我々にとって、日本がポーランドとセネガルを制して勝ち抜けたことはサプライズであった。しかし、2-2のドローを喫した彼らとの第2戦で、セネガルは心底苦戦を強いられたと言わざるをえない。
実際、日本チームのパンチにこれほど威力があるとは、我々は予想していなかった。批評家たちの多くは、日本はグループ内の他国の監督にとって『サンドバッグ』、つまり、ここで勝ち点を稼いでおこうと考える対象だと捉えていた。
ポーランド代表では、バイエルンのロベルト・レヴァンドフスキやナポリのアルカディウシュ・ミリク、パリサンジェルマンでもプレーしたグジェゴシュ・クリホヴィアク、コロンビアではかつてレアルでプレーした現バイエルンのハメス・ロドリゲスやモナコのラダメル・ファルカオらが大会前から国内でもよく知られた存在であり、そして我々のチームには、リヴァプールのサディオ・マネや、ナポリ所属のカリドゥ・クリバリらがいた。その点サムライブルーには、ドルトムントの香川真司以外には、欧州五大リーグの強豪チームで名を馳せている選手は多くない。そういった単純な理由からも、日本はある意味、未知の存在だった。
しかしこの大会で日本は見事その前評判を覆し、セネガルを苦しめた。ライオンたちは、西野朗監督がしかけた罠にまんまとかかり、敗退の憂き目をみることになったのだ。
この日本戦でセネガルは、強みであるフィジカル能力を全面に出しながら、良くオーガナイズされた、前へ前へとたたみかける理想的なプレーを展開した。
しかし20分も過ぎると、ライオンたちは徐々に押し込まれ、相手にスペースを与えるようになっていた。日本側は対照的に、ショートパスを素早く交換しながら、巧みなコンビネーションと俊敏さを生かした、真に組織的なプレーを展開した。
大柄なセネガルの選手たちが手を焼いたのは、小柄な日本勢の細かい動きだった。
アリウ・シセ監督も痛感していた。
「大柄で屈強な体躯であるということは、フットボールにおいては大した強みではないとわかった。この試合、競り合いにおいて両者は互角だった。それぞれのチームが自分たちのやり方で競り合いに挑んでいたが、我々の選手たちと日本の選手たちの間に違いはなかった」
エカテリンブルクでのこの対戦が、いかにセネガル勢にとって難しいものだったかは、スコアを見ても明らかだ。キャプテン、サディオ・マネが12分に先制点を決めたあと、ムッサ・ワゲも71分に得点をあげてセネガルは2度リードを奪ったが、最初は乾、そして次は本田と、2度とも同点に返されている。しかも本田は72分にピッチに上がってからほんの数分後に得点を決めている。
緩急をつけた日本のプレーに対応しきれず……
活力にあふれた日本のプレーに対峙していくうちに、ライオンたちは徐々に自分たちのサッカーを見失っていった。そうなれば、おのずとピッチ上のパワーバランスは崩れ出す。それほどサムライブルーの圧は高かった。
「後半はとくに、日本の緩急をつけたプレーに対応するのがものすごく難しかった」と漏らしたのはパワフルなフォワード、背番号19のムバイ・ニャンだ。MFアルフレッド・エンダイエは「セットプレーのチャンスがまったく生かせなかった。こっちの方が体格では勝っていたのに……」と自分たちの強みが生かせなかったことを悔やんだ。
なんとか流れを変えようと、後半セネガルは、フィジカル面でインパクトを与えるべくパワーゲームに挑んだ。しかしボールが地についた状態で、インターバルを武器にプレーすることこそが自分たちにとって得策だと知っていた日本勢は、安易にこちらの策に乗ってはこなかった。彼らは依然としてポゼッションを主体としたゲームを貫き、テンポよくサイドを変えながらボールをキープし続けた。
そんな彼らの真骨頂ともいえたプレーが65分。乾のシュートは惜しくもクロスバーに弾かれたが、大迫との見事なコンビネーションから生まれたアクションだ。
もともとセネガルは、伝統的にもボール・ポゼッションに長けたチームではない。我々がボール占有率で勝った試合は記憶にないほどだ。
よってこの試合でも、日本が前半戦で55%、後半戦では54%と、より多くのボールを支配したことは大きな驚きではない。ボールキープ時のスピードでは日本が上だったが、前へ仕掛けるオフェンス時のスピードではセネガルが勝っていた。
しかし驚くべきは、一対一のデュエル成功率で、日本がセネガルと遜色ない数字をあげていた点だ。とくに、体格差で勝るセネガルを相手に、空中戦のデュエルでも拮抗していたのは特筆するに値する。シセ監督の言葉にもあったように、競り合いは体格差だけで決まるものではないということが実証された思いだ。
個人的には、ディフェンスラインの手前で体を張っていたキャプテン長谷部の渾身のプレーが強く印象に残っているが、守備陣の予想以上のタフさは、紛れもなくこの試合の結果に大きく貢献していた。
また、シセ監督も「14番(乾)と15番(大迫)は我々にとってトラブルの種だった」と白旗を揚げたように、サイドアタッカーの乾とトップの大迫の2人が、ひんぱんにサイドを変えながらピッチ上で絶え間なく動き回ったことはセネガル勢を大いに苦しめた。2人はときにスピード自慢のセネガルのDF陣に走り勝ち、サリフ・サネとカリドゥ・クリバリの、そびえ立つような屈強なセンターバックにさえ競り勝った。フォローが追いつかずにスペースを空けてしまうことで、日本側に攻め込む隙を与えてしまったのだ。
乾は27本中23本のパスを成功させ、2本打ったシュートのうち1本をゴールにつなげた。大迫もパスの成功率は83%に上る。監督の言葉どおり、この2人はセネガルにとって偉大なるトラブルメーカーだった。
結果は2-2のドローに終わったが、試合の内容からみれば、日本の勝利にふさわしい一戦だったと言ってもおかしくはない。シセ監督もそう感じていた1人だ。
「ピッチ上でより良いプレーをしていたのは日本の方だ。がしかし、良いゲームをしたほうが必ずしもスコアで勝るとは限らないのがフットボールだ。この試合をコントロールしていたのが日本側だったのは間違いない。我々は先制点をあげ、リードするチャンスを得た。後半にもやはり同じようなチャンスが巡ってきた。それなのにそれをものにできなかった理由は、我々に激しさや集中力が欠けていたからだ。そしてこのレベルのコンペティションにおいて、それは莫大なツケを払わされるという結果を招く」
マネの試合後のコメントにも、実感がこもっていた。
「我々が対峙したのは、非常によく組織されたチームだったということを認識すべきだ。彼らは本当に多くのチャンスを作った」
日本は、得意とするパスゲームをベースとしたチームプレーでセネガルに挑んだ。加えて、多彩なサイドチェンジや緩急のきいたインターバルが、ライオンたちを大いに苦しめた。そしてなにより、我々の強みであるはずのデュエルでも対等に競り合ったという事実。
このドローは、勝利にも等しい、印象的なプレーの成果だった。
(文:パ・ラミン・ンドゥール(セネガル/スタッド紙記者)/翻訳コーディネート:小川由紀子『フットボール批評21』を転載)
.
パ・ラミン・ンドゥール