あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

被写体は硝子細工(峰賢)

2020年04月02日 | 図書室のネヴァジスタ関連

 

これは「図書室のネヴァジスタ」という同人サークルのゲームのSSです。

多数の登場人物が出て来ますので、詳細はwiki先生か、

ゲームの紹介https://booth.pm/ja/items/1258でご確認下さい。

少しでも興味を持って下さった方はプレイしてみて下さい。

下記のSSSはネタバレでもあるので、ご注意下さい。

大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<被写体は硝子細工>


和泉と辻村が妙なパーティから帰巣してから数日後の事である。
辻村の誘いを受け、渋々幽霊棟へやって来た賢太郎は、急に白峰の自室に連れ込まれた。
それから数分としない内に、珍しく苛立った白峰の細く通る声が廊下まで響き渡って来た。
階下でホームパーティを続けている他の寮生達には聴こえない。

「賢太郎。俺を信頼してよ。綺麗に撮るから絶対!」
「…断る。俺が脱いだ写真を誰かに見られるくらいなら死んだ方がマシだ」
「誰にも見せないよ。第一、……俺が見せたくないし」

口論の内容は、些細な事だった。
石野が撮れなかった賢太郎のヌードを白峰が撮りたいと言い出したのだ。
最初は鼻で笑って、相手にしていなかった賢太郎だったが、
余りにも白峰が執拗に食い下がるので、次第に苛立ち始め、やがて口論に発展してしまったのだ。
賢太郎は唇を噛み切りそうな程、固く引き結んで、白峰を睨み付けている。
絶対意地でも脱ぐものかという意思表示なのか、
長袖Tシャツの胸元を拳が白くなるほど握り締めている。
気の所為で無ければ怒りで少し震えているようだった。
賢太郎を冷静に見詰めていた白峰だったが、やがて大きく息を吸い込むと肩を落とし、
身体全体で溜息を吐いた。
それに賢太郎はびくりと反応を示す。

「…もういいよ。ヌード写真はカメラマンとモデルの信頼関係だって、石野さんが言ってたし」

賢太郎はその先を予見しているかのように、真っ青になって白峰を凝視している。

「…結局。賢太郎は俺を信頼なんてしてないって事だよね」
「……何でそうなる…、……いや、そういう訳じゃ……」

動揺しているのか、いつもの賢太郎ではないように、歯切れの悪い物言いだった。
狼狽して、必死に言葉を探して視線が彷徨う。
しかし白峰は容赦しなかった。更に賢太郎を責め立てる。

「そういう事でしょ。
俺達が学校を卒業して、大人になって自立すれば、賢太郎は俺達から離れようと思ってる。
道で逢ってもまるで他人のような顔して擦れ違うつもりなんだ」
「……違う!そんな事、思ってな……!」
「大きな声を出さないで。都合悪くなると賢太郎はすぐに怒鳴る。
…やっぱり図星なんだ。それなら納得出来るよ。赤の他人にヌードなんて晒せないよね」

賢太郎は更に怒鳴り付けたいのを堪え、ぐっと言葉を呑み込んだ。
そのまま暫くすると賢太郎は目を細め、白峰から視線を逸らすと何かを考えているようだった。
それでも怒りは収まった様子は無く、怒りの炎は更に高温の青い静かな炎へと変化して、
ちらちらと危なげに揺れているようだった。
そして呟く。

「…お前…いい加減にしろ。そんなに俺の裸を撮りたいってなら、いいさ。脱いでやる」
「……え?」
「それで俺の気持ちの証明になるってなら、勝手に撮ればいいだろう」

賢太郎の投げ遣りな台詞に、白峰は嫌な予感がして言葉を失った。
賢太郎の本音を知りたくて乱暴な物言いを続けたが、それは失敗に終わり、
ただ悪戯に賢太郎を傷付けてしまっただけだと知る。
何か話そうと口を開閉している白峰を放ったまま、賢太郎は徐に長袖Tシャツを脱ぎ出す。

「待って!待ってよ!納得してないのに、何で脱ぐの?
賢太郎を撮りたいのは確かだけど、大切なのは其処じゃないんだってば!
さっき言った事、聴いてなかったの?」

長袖Tシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になった賢太郎は、射殺すような強い視線を白峰に向けた。
背筋が凍るような嫌な汗を掻いて白峰は折れそうになる心を保とうと必死だった。
此処で中途半端にしては、二度と賢太郎と話せないような気がした。
今、賢太郎は大人の余裕を保てなくなっている。
素の青年になっている。
賢太郎が持つ危うい、脆い部分が露になっているのだ。
和泉と辻村が教えてくれた、石野が言ったという台詞。

(彼は信頼されることは得意ですが、信頼することは不得手なんです)

何故、賢太郎は人を信頼出来ないのか。
人は彼にとって、自分を傷付ける敵ばかりなのだろうか。
それ程に酷い傷を負って、今でも彼を苦しめているのだろうか。
白峰は言葉をもっと慎重に選んだ。

「ゴメン。もう無理になんて言わない。賢太郎が撮って欲しくないなら、俺は撮らないよ」
「だから、撮っていいって言ってるだろう」

頑なに賢太郎は譲ろうとしなかった。
手負いの獣のようだ。
爛々と目を光らせ、相手の喉笛に喰らい付く隙を狙っている。
白峰は一端休戦するしかないと悟った。
此処で言い争いをしても話は平行線のままだ。
賢太郎に白峰の意思を理解して貰うには、まだまだ時間が必要なようだった。

「…賢太郎。…俺を赤の他人じゃないって少しでも思ってくれてるなら、服を着て。
いつか、賢太郎が俺に撮ってもいいって本気で思える日が来るまで、俺、ずっと待つから」

攻撃的な物言いだった白峰の雰囲気が、いつもの優しい感じに戻った事に気付き、
漸く賢太郎は肩の力を抜いた。
そして一呼吸入れると切れ長の目を少し下がらせ、脱ぎ捨てた長袖Tシャツを拾い上げる。
片手でそれを掴んだまま、賢太郎は暫く口を閉ざしたまま黙り込んでいた。
立ち尽くしたまま、無言でいる賢太郎を心配して、白峰が声を掛けようとした、その時だった。

「………お前の言いたい事は分かってる。
……分かってるが……俺はどうしたらいいか分からない。
風呂も一緒に入ってるし、お前の前で裸になる位、何でも無い事だ。…それなのに…」

言い淀んで賢太郎は唇を噛み締めた。
その様子を見て白峰は息を呑む。
身体中の毛穴が開き、毛が逆立つような気がした。
賢太郎は妖精のような大きな釣り目に涙を一杯に溜めて、震えていたのだ。

「…世間一般でいう信頼とは違うかも…しれないが、
……俺なりに…お前達を信頼…してる…つもりだ」
「…うん、ゴメン。俺も…言い過ぎたよ」

泣かないでなんて言ったら速攻否定される事は分かり切っていたので、
白峰は黙って賢太郎をベッドに座らせしゃくり上げる頭をそっと胸に引き寄せ抱き締めた。
賢太郎はされるがままになっている。

「……お前達が卒業して…珠にしか連絡が付かなくなっても…、
俺は……ずっとお前達を見守っていくつもりだ。……本当だ……」
「……うん、分かってる。ゴメン」

白峰はただ頷き、涙を堪え続ける賢太郎の表情を見ないように抱き締める。
複雑に入り組み、本人にさえ形が分からなくなってしまっている賢太郎の心を、
少しずつ解していくかのように白峰は、頷き続ける。
それはいつしか形を変えて信頼という言葉に変わると信じながら。


<了>

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ホントは泣きながら脱いで最後の一枚で泣いちゃうとか萌える。←鬼
まぁ、賢太郎は人前では絶対泣かないけどね!自立した大人だから。格好いいけど哀れ。

寧ろ石野家で考えていたので、その内に書きたい!

 

 


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