【国際ニュース解説】米国寄りの日本の報道だけで理解できる本当のウクライナ情勢
日本のガソリン価格とウクライナ情勢の関係。アメリカの焦りとロシアの戦略。NATOの内部分裂。中国の方針転換。
NHKなどはじめ、日本の報道は極端にアメリカ寄りで報道しており、ウクライナ情勢に関してもあるいは台湾海峡に関するニュースも、すべてアメリカの主張をそのまま垂れ流している有様だ。
これではミスリードされて本当の情勢は何もわからないので、様々な当事国の報道を比較し、要点をまとめてウクライナ情勢の実態を浮き彫りにする。
まず抑えておきたいのはロシアによるウクライナ東部二州の併合とウクライナのウォロディミルゼレンスキー右派政権によるNATO加盟のチキンレースだ。
欧米、そしてそれらに追従する日本の報道では、野心むき出しのロシアとプーチンが強引にウクライナ東部を侵略しそうだというアメリカ国務省や諜報機関筋の主張をそのまま無批判に垂れ流しているが、実態はもちろん異なる。
そもそもウクライナ東部は歴史的にロシア系住民が多く、2012から13年前後にアメリカの支援によるクーデター(欧米はクーデターという言葉は使いたくないのでしきりに"民主革命"と呼称してる)によって親ロシア的な左派政権が力づくで倒され、親アメリカ的な右派の傀儡政権が誕生した。
ウクライナの右派政権はロシア系住民をもとより敵視しており、彼らの多く居住する東部の自治区(親露左派政権時代は平和に暮らしていた)に弾圧を加え、アメリカの支援も受けて「民兵団」を組織し、武力攻撃・侵攻を2014年以降続けている。まずこれが「ウクライナ内戦」の元凶である。
自治区であり、歴史的にも親ロシア的風土の強いウクライナ東部の各州自治区はロシアとの結び付きが強く、ウクライナ政権側の侵攻に対しロシア系住民が中心となってロシアの支援を受けてやはり「民兵団(自警団)」を結成。
2014年以降、政権側の民兵団や政府軍と交戦し続けている。
ロシアおよびプーチンから見れば、アメリカに支援されたクーデター政権が東部自治区のロシア系住民を弾圧し虐殺しているのを見過ごすことはできない。同胞の命を守るために軍事支援を続けているわけだ。
クーデター政権が少数派の住民を弾圧し虐殺している構図はミャンマーと全く同じである。
ここまでが今回の騒動の下地である。これすら日本の大手メディアはほとんどきちんと報道していない。
そして、いま最大の問題となっているのが冒頭に記載した
ロシアによるウクライナ東部二州の併合とウクライナ右派政権によるNATO加盟のチキンレースである。
ロシアとしては、ロシア系住民が多く歴史的に結びつきの強いウクライナ東部二州を併合してしまえば、
ウクライナ東部二州への軍隊の移動は「侵略」ではなく「国内地域の移動」となる。
ロシア国民の多くが「同胞」の多く住むウクライナ東部二州の「防衛」と併合に賛成しており、
その民意を受けてロシア下院でもプーチン大統領に対しウクライナ東部二州の併合を求める議案が
成立する見通しとなっている。実際、2022年の1月19日には野党側から合併案が議会と大統領に提出されている。
これにプーチンの与党が乗っかりGOサインを出せば即、合併は開始されることになる。
一方、ウクライナ政権側としては、早くNATOに加盟したい。
なぜなら、NATOに加盟すればウクライナ東部二州へロシア軍が「侵攻」した場合、それは集団安全保障の取り決めにより米国及び欧州各国にウクライナ防衛の法的な義務が生じからだ。
つまりそれはウクライナを舞台にアメリカとロシアの軍事衝突を招来する。
昨年からしきりにプーチンが「ウクライナのNATO加盟は絶対に許さない」と何度も発言しているのはこのためである。
単独では到底ロシア軍に対抗できないウクライナ政権側としては一刻も早くNATOに加盟したいところである。
ただし、加盟にはNATO加盟国による全会一致の可決が必要で、親分であるアメリカがいくら強気でもそれだけではどうにもならないのである。
ドイツやフランスなど、エネルギーや安全保障の問題でロシアとの決定的な対立を避けたいNATO加盟国はウクライナの加盟に消極的で、反ロシアが露骨な米英やポーランド、バルト三国などと意見が合わず内部分裂を起こしている。
結果、ズルズルとウクライナのNATO加盟は先延ばしになっているのが現状だ。
ウクライナの東部以外の世論は、日本の対中国や対北朝鮮と同様に、米英のプロパガンダ策によって極度のロシア敵視に陥ったままで、ウクライナ政府が東部2州と話し合いをすることは不可能になってしまっている。
本来は東部2州に自治を再付与することを目標にしたミンスク合意が締結できていれば今回の危機は避けられたのである。
ちょうど、日本で安倍政権が政権の求心力維持のために北朝鮮への敵視を煽り、制裁制裁とわめき続け、北朝鮮との外交ルートすら潰してしまいまともな話し合いすら出来なくなった無様な事例と似ている。
その挙げ句、安倍晋三元首相はこの20年間でひとりも日本人を北朝鮮から取り戻せていない。
ついでに菅義偉政権ですらこうであった。
で、韓国とてそう言うことだ。
更にこれらの情勢に加えてロシアが強気でいられる大きな要因が中国の方針転換だ。
中国はウクライナの内戦に関しては2014年以降、一貫して表向きは実は「中立」を主張してきた。
もちろんアメリカに配慮しての中立宣言であったのだ。ところが、コロナ以降、威信の低下し続けている米国は露骨に中国を敵視し攻撃するようになり、大規模な経済的「米中戦争」まで勃発する有様となった。
事ここに至って、もはや米国との敵対は避けられないと思い知らされた中国はようやく重い腰を上げてロシアへの支援を明確にするうよになった。習近平の姿勢は先日の中露首脳会談で明らかになった。
更に、欧州各国がロシアへの経済制裁の一環としてロシアの天然ガスや石油の不買を続けていたが、そのほぼ全量を中国が買い取ることになり、ロシアとしては欧米による経済制裁の最大の攻撃を無効化することが出来るようになった。
すでにロシアではパイプラインの送付先変更も準備ができている。あとは、実際に欧米からの制裁が強化された後、これまで欧州に送っていた石油ガスを中国に送るよう、シベリアやウラルにあるいくつかのバルブを開閉するだけだ。
むしろ、ロシアからエネルギー供給を受けられない西ヨーロッパ諸国は、エネルギー供給不足に陥りアメリカへ支援を求めることになるが、ところがアメリカは民主党政権がインフレ対策の一環として米国内の天然ガスを外国に売ることを制限し始め、欧州各国に売らないという「泣きっ面に蜂」の有様となっている。
アメリカはさらなるロシアへの経済制裁として、ドルなどの銀行間国際決済のシステムである「SWIFT」からロシア勢を除名し、ロシアがドルを使えないようにする構想も明かしている。
だがロシアは、このことを予期して何年も前から中国やイランなど非米諸国と組み、ドルでなく相互の「自国通貨で決済して国際取引を続ける新システム」を導入し、拡大してきた。
皮肉なことに、アメリカの強気の姿勢が非米各国の自立を促し、「アメリカなき世界秩序」の構築を進めさせてしまっているのだ。
そう、アメリカは経済制裁の話ばかりして形ばかりのNATO増強は行ってもウクライナに米軍を配備しようとはしていない。
バイデン大統領は昨年末頃からしきりに「ロシア軍がウクライナに侵攻するぞ」詐欺を繰り返し喚き、「ロシアに対し、これまで見たことのないようなすごい経済制裁をしてやる」と何度も恫喝しているが、彼が強調するのはいつも経済制裁に偏重しており、ウクライナに米軍を入れる話は全くしていない。
アメリカはイラク・シリア・アフガンとロシアに三連敗しており、正直ロシアとはもう戦いたくない。
米国は、アフガンでは同盟国の人員を見捨てて自分たちだけ逃げ出し、国際社会からの信用を失墜させている。
ロシアはウクライナ問題でも「勝利」してアメリカの影響力を中東や東ヨーロッパから完全排除するつもりだ。
この「アメリカの弱腰」もまた、ロシアの強気の一因となっている。
こうした情勢の影響もあって世界のエネルギー価格は上がり続けている。
日本では「最近ガソリン価格が上がっちゃって困るなぁ」なんてボヤキがよく聞こえるが、それはウクライナ情勢ともつながっているのである。
世界に関心を持つと日本の今が見えてくる。
しかしこれら世界情勢に機敏になっている我らが日本国である。
だからG7の本気を出す時が来たと言う訳である。
ロシアが実際にウクライナを侵略すれば、経済制裁が問答無用で発動する。