鞄を腕にかけた制服姿を改札口に見つける
遅れてごめんって声をかけると
本から目をあげて ううん と微笑む
何を読んでいたの?と興味を示すと
源氏物語と予想外の名前が返ってくる
一生懸命だったけど面白い?って聞くと
うん でもゲンダイゴヤクだよと答える
ゲンダイゴヤク?
初めて聴く音が語に結ばない
その日なんだか本のことが気になって
会話に集中できなかった
帰り道 駅前にある角の小さな本屋に寄る
棚をひとつひとつ丁寧に辿ると
文庫本のコーナーに見つかった
源氏物語 現代語訳
挿絵もなくびっしり並んだ小さな文字
あの瞬間 知識とは似て非なる教養と呼ぶ扉が
私の中でほんの少し開いたのかも知れない
… たぶん