今日気になった記事 PCはどうなる?
2016年に起きるPC市場の“二極化”とは?
ITmedia PC USER 1月1日(金)5時25分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160101-00000012-zdn_pc-sci
Microsoftがついに自ら投入したハイスペックノートPC「Surface Book」。この製品が他のPCメーカーに大きな影響を与えようとしている
2016年は世界のPC事情が大きく変化しそうだ。国内だけを見ても大手PCメーカーの合弁会社のウワサが出ており、ビジネス市場向けに特化したパナソニックと、中国Lenovoとの合弁で事業を進めているNECパーソナルコンピュータを除けば、従来ながらの国内大手PCメーカーはほぼ1~2社に収れんしつつあると言える。今回は年始1回目の記事ということで、PC業界で今起きつつあることと、今後数年の動向を探ってみよう。
【解説画像とともに見る「PC市場の二極化」】
http://image.itmedia.co.jp/l/im/pcuser/articles/1601/01/l_tm_1501_win10J_1_02.jpg
2016年以降はPC業界内の3種類のグループが大きな動きを見せると予想する。これはPC業界だけでなく、スマートフォン業界についても当てはまる傾向だろう。
・グループ1 市場を去る、あるいは大きく組織体制を変更するメーカー
・グループ2 これを機会にさらに攻めに転じるメーカー
・グループ3 新規参入メーカー
●グループ1――次の市場を見据えるプレイヤー
グループ1について、この転換点は「MicrosoftによるSurface Bookの発表」の影響が大きい。Surface Bookそのものが市場で大きなシェアを獲得するわけではないと思うが、既に事業縮小や市場撤退などを考えていたメーカーが「Microsoftが“このクラス”のPC製品で自ら参入してくるようでは今後も厳しい」と考えるには十分なインパクトがある発表だった。
IDCが10月に発表した2015年第3四半期(7~9月期)のPC市場調査報告によれば、PC全体の出荷台数は前年同期比で約10%の減少となっており、近年台数を伸ばしていたAppleを含め、PCメーカー全体に波及している現象だ。
現在の世界PCメーカーのトップ5は上から順番にLenovo、HP、Dell、Apple、Acerとなっているが、この5社で市場シェアの7割近くを占めている。恐らくこれより下の水準のメーカーは市場縮小の影響がさらに大きく、これまでの体制や組織規模では事業を継続するのは難しい状態になりつつある。
現在、国内では東芝と富士通がPC事業の合弁会社を計画しているというウワサが話題になっている。東芝は2015年12月21日にPC事業の組織改編を発表し、2016年4月1日以降は新体制に移行する計画だが、これも将来的な(他社との合弁も含めた)国内PC業界再編をにらんでの動きだと言われている。同様に富士通も2015年12月24日、PC事業を2016年2月1日付で分社化し、新会社を設立すると発表した。
この国内のPCメーカー再編に関して、VAIOも合併候補の1社に挙がっているというウワサが出ているが、同社はこれを否定している。ただ、恐らくは今回が国内最後のPCメーカー大再編であり、その機会を逃してはならないと考えた一部の関係者が「VAIOを巻き込もう」と動いているのではないだろうか。いずれにせよ、国内各社入り乱れてのPC販売合戦はほぼ収束に向かうというのが全体の流れだ。
PC業界再編の動きを見せているのは日本国内だけではない。世界のトップグループとて例外ではない。例えば、業界2位のHewlett-Packard(HP)は2015年11月より「Hewlett Packard Enterprise」と「HP Inc.」の2つの組織に分割され、主にエンタープライズとコンシューマー向けソリューションの2社体制へと移行している。
かつてPC事業の売却で前任のCEOだったレオ・アポテカー氏が会社を追い出される騒動になったり、同氏の後継として2011年の就任時点では分社化に否定的だったCEOのメグ・ホイットマン氏だが、最終的に分社化を進める立場となった。分社化の理由はいろいろと言われているが、HPに移ったPCやプリンタ事業とEnterprise側のクラウドソリューションやデータセンター事業では、成長性も事業体制も大きく異なることが大きいだろう。
2015年10月にはDellがストレージ大手のEMCを買収すると発表したが、これもHPの分社化に近い動きだとみられる。エンタープライズやデータセンター事業は成長性も利益率も高い一方で、トップベンダー間での競争は激化しており、この競争力強化のために各社がしのぎを削っている。ストレージ最大手のEMCと傘下企業であるVMwareの獲得は、競争を優位にするための戦略の1つだ。
しかしDellは2013年の非上場化に際して投資ファンドらの多くの資本参加のほか、670億ドルという膨大なEMCの買収金額で資金が切迫しているという事情から、傘下企業であるSecureWorksのIPO(市場公開)など、市場からの資金調達を急いでいるとみられる。
何度かウワサに上っている「PC事業の売却」もこの延長線上にあると言われており、今後の成長性確保と会社体制維持のためにPC事業の切り離しが現実味を帯びつつあるというわけだ。Dellは現在非上場のため定期的な決算報告が求められていないが、先日米証券取引委員会(SEC)に登録された情報によれば、売上と利益ともに減少している。
今後の成長と流動資金確保のために事業売却が続く可能性が高いとみられており、事業規模こそ大きいものの、成長性に疑問符が付くPC事業はその筆頭候補になるのかもしれない。
●グループ2――買収でブランドと市場を獲得するLenovo
グループ1とは対照的に、「ここがチャンス」とばかりに事業をスケールすることでライバルとの差を広げようとしているのが、グループ2に該当するLenovoだ。
前述のように2番手以降には厳しいPC市場だが、もしここで頭1つ抜きん出てシェアを確保できれば、その調達力や効率性から利益面や競争面でさらに優位に立てる可能性がある。前述のように現在のLenovoは世界トップだが、市場シェアでいえば21%と、2位のHP(19.6%)とそれほど差がない。
Lenovoは「市場シェア30%獲得」を目標に据えており、ライバルに対して優位に立つだけでなく、いわゆる「残存者利益」を享受すべく動いている。同社はまだ今後、ライバルの脱落が続くことを見込んでおり、PC市場における最後の覇者を狙っているのだ。恐らくLenovoがPC市場でこの目標を成し遂げることは可能だろう。
一方でLenovoはIBMから買収した「PCサーバ事業」と、Motorolaの買収で得た「スマートフォン事業と特許」でも相応のシェアや売上を獲得すべく動いている。どちらも買収以前からLenovo内で抱えていた事業ではあるが、どちらかといえば中国を中心とした市場展開を行っており、今後さらに世界展開やハイエンド市場を狙ううえで「技術とブランド」がどうしても必要だったという位置付けだ。
Motorolaは南北アメリカを中心に事業展開しており、逆を言えばそれ以外の地域を苦手としているが、これは北米進出を狙うLenovoにとっては大きな足掛かりだ。特許問題をある程度クリアにできるのも大きい。Motorolaの買収を経て、同社は日本進出への足掛かりを得ることも可能になり、今後ハイエンドだけでなく、主に中国市場をターゲットとしていたミドルレンジ以下の端末が売られるようになるのも、そう遠い未来の話ではないかもしれない。
恐らく、Lenovoにとって最もチャレンジな市場はPCサーバの「エンタープライズ事業」だ。事業売却したIBMとは引き続き提携関係が続いているものの、IBMというある意味で世界最強のビジネスブランド下でやってきた事業と、PC市場シェア世界1位とはいえ中国のLenovoではそのブランド力に大きな隔たりがある。
とはいえ、製品や技術者はIBMからそのまま移籍しており、Lenovoに移ったからといってエンタープライズ事業での信頼性が悪化したり、技術開発力が落ちたりすることは考えにくい。
筆者は実際に、同社のサーバ開発部門がある米ノースカロライナ州ラーレイ(Raleigh)=ダーラム都市圏のLenovoキャンパスを訪問したが、ここはもともとIBMの研究開発拠点があった場所であり、現地の資産や人員がほぼそのままIBMからスライドしてきた状態だ。勤続年数の長いベテランと思われる社員も多く在籍し、継続的な投資が行われる一方で、社名とマネジメント体制が変化した新オフィスで研究開発が続けられている。
ライバルが一様にエンタープライズにリソースを集中してくるため、Lenovoは厳しい戦いを強いられると思われるが、同社はサーバ需要の旺盛な中国市場を抱えて有利な立場にもあるため、当面は中国と既存顧客との関係を維持しつつ、新規市場を開拓して事業拡大の方策を模索することだろう。
●グループ3――新規のプレイヤーたち
先日、米MicrosoftのOEM部門担当コーポレートバイスプレジデントであるニック・パーカー氏と話す機会があったが、ここでの最大の収穫は市場へ新規参入してくるプレイヤーたちの存在と、それを支援するMicrosoftの活動の一端を知ったことだ。同氏は米国でのWal-Martの例を挙げたが、世界最大の小売店であるWal-Martが自社ブランドのタブレットを市場投入したことは大きなトピックだろう。
現在、中国は深センを中心としたエリアにPCやスマートフォンの関連会社が集まっており、世界の工場として機能している。サプライヤーや組み立て工場だけでなく、それぞれの強みを持ったODM(Original Design Manufacturer)やEMS(Electronics Manufacturing Service)が存在しており、これらと提携することで、自社に工場や専門の設計部門を持たずとも製品開発や製造が可能になるわけだ。
現在、世界市場で売られているPCやタブレット、スマートフォン製品の多くはこれらODMやEMSを介して開発/製造されたものだが、Microsoftは製品開発にあたって技術を持つODM/EMSや関連会社をリストにまとめており、Wal-Martのような新規参入プレイヤーが自社ブランドでの製品投入を望めば、必要な人員のアテンドや関連会社を紹介している。
これは日本マイクロソフトも例外ではなく、Windows 10 Mobile発表のタイミングで次々と登場した同OS搭載スマートフォンの数々は同社の力添えがあって誕生したものだ。本連載でも何度か紹介しているが、スマートフォン初参入となるトリニティの「NuAns NEO」の開発も、こうした日本マイクロソフトの仲介と中国現地の事業者あってこその成果と言える。
この辺りの背景はあらためてフォローアップしていきたいが、NuAns NEO以外にも、長らく停滞していた日本のWindows Phone市場を開拓したマウスコンピューターの「MADOSMA」、求めやすい価格でSIMロックフリー端末市場に風穴を開けようとしているFreetelの「KATANA 01/02」など、従来の端末メーカーや携帯キャリアの組み合わせでは開拓されることのなかった市場が、フットワークの軽い中小メーカーや新規参入メーカーによって実現されつつある。
恐らくは、今後のPCとスマートフォン市場は大きく2分されることになると考えている。1つはLenovoなど大手と呼ばれるメーカーが市場の多くを握る一方で、比較的小規模な多くのメーカーが端末のバリエーション増加や細かいユーザーニーズのキャッチアップを担う……といった区分けだ。
前述の東芝と富士通の合弁がもし成立した場合は、どちらかといえばビジネス市場の確保を中心として動くと予想されるため、多くの一般コンシューマーの細かいニーズを満たすのは大手以外のメーカーになるのではないだろうか。
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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最終更新:1月1日(金)5時25分
ITmedia PC USER
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2016年に起きるPC市場の“二極化”とは?
ITmedia PC USER 1月1日(金)5時25分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160101-00000012-zdn_pc-sci
Microsoftがついに自ら投入したハイスペックノートPC「Surface Book」。この製品が他のPCメーカーに大きな影響を与えようとしている
2016年は世界のPC事情が大きく変化しそうだ。国内だけを見ても大手PCメーカーの合弁会社のウワサが出ており、ビジネス市場向けに特化したパナソニックと、中国Lenovoとの合弁で事業を進めているNECパーソナルコンピュータを除けば、従来ながらの国内大手PCメーカーはほぼ1~2社に収れんしつつあると言える。今回は年始1回目の記事ということで、PC業界で今起きつつあることと、今後数年の動向を探ってみよう。
【解説画像とともに見る「PC市場の二極化」】
http://image.itmedia.co.jp/l/im/pcuser/articles/1601/01/l_tm_1501_win10J_1_02.jpg
2016年以降はPC業界内の3種類のグループが大きな動きを見せると予想する。これはPC業界だけでなく、スマートフォン業界についても当てはまる傾向だろう。
・グループ1 市場を去る、あるいは大きく組織体制を変更するメーカー
・グループ2 これを機会にさらに攻めに転じるメーカー
・グループ3 新規参入メーカー
●グループ1――次の市場を見据えるプレイヤー
グループ1について、この転換点は「MicrosoftによるSurface Bookの発表」の影響が大きい。Surface Bookそのものが市場で大きなシェアを獲得するわけではないと思うが、既に事業縮小や市場撤退などを考えていたメーカーが「Microsoftが“このクラス”のPC製品で自ら参入してくるようでは今後も厳しい」と考えるには十分なインパクトがある発表だった。
IDCが10月に発表した2015年第3四半期(7~9月期)のPC市場調査報告によれば、PC全体の出荷台数は前年同期比で約10%の減少となっており、近年台数を伸ばしていたAppleを含め、PCメーカー全体に波及している現象だ。
現在の世界PCメーカーのトップ5は上から順番にLenovo、HP、Dell、Apple、Acerとなっているが、この5社で市場シェアの7割近くを占めている。恐らくこれより下の水準のメーカーは市場縮小の影響がさらに大きく、これまでの体制や組織規模では事業を継続するのは難しい状態になりつつある。
現在、国内では東芝と富士通がPC事業の合弁会社を計画しているというウワサが話題になっている。東芝は2015年12月21日にPC事業の組織改編を発表し、2016年4月1日以降は新体制に移行する計画だが、これも将来的な(他社との合弁も含めた)国内PC業界再編をにらんでの動きだと言われている。同様に富士通も2015年12月24日、PC事業を2016年2月1日付で分社化し、新会社を設立すると発表した。
この国内のPCメーカー再編に関して、VAIOも合併候補の1社に挙がっているというウワサが出ているが、同社はこれを否定している。ただ、恐らくは今回が国内最後のPCメーカー大再編であり、その機会を逃してはならないと考えた一部の関係者が「VAIOを巻き込もう」と動いているのではないだろうか。いずれにせよ、国内各社入り乱れてのPC販売合戦はほぼ収束に向かうというのが全体の流れだ。
PC業界再編の動きを見せているのは日本国内だけではない。世界のトップグループとて例外ではない。例えば、業界2位のHewlett-Packard(HP)は2015年11月より「Hewlett Packard Enterprise」と「HP Inc.」の2つの組織に分割され、主にエンタープライズとコンシューマー向けソリューションの2社体制へと移行している。
かつてPC事業の売却で前任のCEOだったレオ・アポテカー氏が会社を追い出される騒動になったり、同氏の後継として2011年の就任時点では分社化に否定的だったCEOのメグ・ホイットマン氏だが、最終的に分社化を進める立場となった。分社化の理由はいろいろと言われているが、HPに移ったPCやプリンタ事業とEnterprise側のクラウドソリューションやデータセンター事業では、成長性も事業体制も大きく異なることが大きいだろう。
2015年10月にはDellがストレージ大手のEMCを買収すると発表したが、これもHPの分社化に近い動きだとみられる。エンタープライズやデータセンター事業は成長性も利益率も高い一方で、トップベンダー間での競争は激化しており、この競争力強化のために各社がしのぎを削っている。ストレージ最大手のEMCと傘下企業であるVMwareの獲得は、競争を優位にするための戦略の1つだ。
しかしDellは2013年の非上場化に際して投資ファンドらの多くの資本参加のほか、670億ドルという膨大なEMCの買収金額で資金が切迫しているという事情から、傘下企業であるSecureWorksのIPO(市場公開)など、市場からの資金調達を急いでいるとみられる。
何度かウワサに上っている「PC事業の売却」もこの延長線上にあると言われており、今後の成長性確保と会社体制維持のためにPC事業の切り離しが現実味を帯びつつあるというわけだ。Dellは現在非上場のため定期的な決算報告が求められていないが、先日米証券取引委員会(SEC)に登録された情報によれば、売上と利益ともに減少している。
今後の成長と流動資金確保のために事業売却が続く可能性が高いとみられており、事業規模こそ大きいものの、成長性に疑問符が付くPC事業はその筆頭候補になるのかもしれない。
●グループ2――買収でブランドと市場を獲得するLenovo
グループ1とは対照的に、「ここがチャンス」とばかりに事業をスケールすることでライバルとの差を広げようとしているのが、グループ2に該当するLenovoだ。
前述のように2番手以降には厳しいPC市場だが、もしここで頭1つ抜きん出てシェアを確保できれば、その調達力や効率性から利益面や競争面でさらに優位に立てる可能性がある。前述のように現在のLenovoは世界トップだが、市場シェアでいえば21%と、2位のHP(19.6%)とそれほど差がない。
Lenovoは「市場シェア30%獲得」を目標に据えており、ライバルに対して優位に立つだけでなく、いわゆる「残存者利益」を享受すべく動いている。同社はまだ今後、ライバルの脱落が続くことを見込んでおり、PC市場における最後の覇者を狙っているのだ。恐らくLenovoがPC市場でこの目標を成し遂げることは可能だろう。
一方でLenovoはIBMから買収した「PCサーバ事業」と、Motorolaの買収で得た「スマートフォン事業と特許」でも相応のシェアや売上を獲得すべく動いている。どちらも買収以前からLenovo内で抱えていた事業ではあるが、どちらかといえば中国を中心とした市場展開を行っており、今後さらに世界展開やハイエンド市場を狙ううえで「技術とブランド」がどうしても必要だったという位置付けだ。
Motorolaは南北アメリカを中心に事業展開しており、逆を言えばそれ以外の地域を苦手としているが、これは北米進出を狙うLenovoにとっては大きな足掛かりだ。特許問題をある程度クリアにできるのも大きい。Motorolaの買収を経て、同社は日本進出への足掛かりを得ることも可能になり、今後ハイエンドだけでなく、主に中国市場をターゲットとしていたミドルレンジ以下の端末が売られるようになるのも、そう遠い未来の話ではないかもしれない。
恐らく、Lenovoにとって最もチャレンジな市場はPCサーバの「エンタープライズ事業」だ。事業売却したIBMとは引き続き提携関係が続いているものの、IBMというある意味で世界最強のビジネスブランド下でやってきた事業と、PC市場シェア世界1位とはいえ中国のLenovoではそのブランド力に大きな隔たりがある。
とはいえ、製品や技術者はIBMからそのまま移籍しており、Lenovoに移ったからといってエンタープライズ事業での信頼性が悪化したり、技術開発力が落ちたりすることは考えにくい。
筆者は実際に、同社のサーバ開発部門がある米ノースカロライナ州ラーレイ(Raleigh)=ダーラム都市圏のLenovoキャンパスを訪問したが、ここはもともとIBMの研究開発拠点があった場所であり、現地の資産や人員がほぼそのままIBMからスライドしてきた状態だ。勤続年数の長いベテランと思われる社員も多く在籍し、継続的な投資が行われる一方で、社名とマネジメント体制が変化した新オフィスで研究開発が続けられている。
ライバルが一様にエンタープライズにリソースを集中してくるため、Lenovoは厳しい戦いを強いられると思われるが、同社はサーバ需要の旺盛な中国市場を抱えて有利な立場にもあるため、当面は中国と既存顧客との関係を維持しつつ、新規市場を開拓して事業拡大の方策を模索することだろう。
●グループ3――新規のプレイヤーたち
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現在、中国は深センを中心としたエリアにPCやスマートフォンの関連会社が集まっており、世界の工場として機能している。サプライヤーや組み立て工場だけでなく、それぞれの強みを持ったODM(Original Design Manufacturer)やEMS(Electronics Manufacturing Service)が存在しており、これらと提携することで、自社に工場や専門の設計部門を持たずとも製品開発や製造が可能になるわけだ。
現在、世界市場で売られているPCやタブレット、スマートフォン製品の多くはこれらODMやEMSを介して開発/製造されたものだが、Microsoftは製品開発にあたって技術を持つODM/EMSや関連会社をリストにまとめており、Wal-Martのような新規参入プレイヤーが自社ブランドでの製品投入を望めば、必要な人員のアテンドや関連会社を紹介している。
これは日本マイクロソフトも例外ではなく、Windows 10 Mobile発表のタイミングで次々と登場した同OS搭載スマートフォンの数々は同社の力添えがあって誕生したものだ。本連載でも何度か紹介しているが、スマートフォン初参入となるトリニティの「NuAns NEO」の開発も、こうした日本マイクロソフトの仲介と中国現地の事業者あってこその成果と言える。
この辺りの背景はあらためてフォローアップしていきたいが、NuAns NEO以外にも、長らく停滞していた日本のWindows Phone市場を開拓したマウスコンピューターの「MADOSMA」、求めやすい価格でSIMロックフリー端末市場に風穴を開けようとしているFreetelの「KATANA 01/02」など、従来の端末メーカーや携帯キャリアの組み合わせでは開拓されることのなかった市場が、フットワークの軽い中小メーカーや新規参入メーカーによって実現されつつある。
恐らくは、今後のPCとスマートフォン市場は大きく2分されることになると考えている。1つはLenovoなど大手と呼ばれるメーカーが市場の多くを握る一方で、比較的小規模な多くのメーカーが端末のバリエーション増加や細かいユーザーニーズのキャッチアップを担う……といった区分けだ。
前述の東芝と富士通の合弁がもし成立した場合は、どちらかといえばビジネス市場の確保を中心として動くと予想されるため、多くの一般コンシューマーの細かいニーズを満たすのは大手以外のメーカーになるのではないだろうか。
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最終更新:1月1日(金)5時25分
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