のんびりまったり気まぐれに流れる時間。

#0 プロローグ

いつも通りの時間、いつも通りのラッシュアワー。
人々はホーム上で自身が乗る列車を待つ。
列車のドアが開き、人々は乗り降りをする。
そして時間通りに列車は駅を出発し、次の停車駅へと向かう。


車内はラッシュアワーということもあり、混雑している。
外の景色を見る人、他人の邪魔にならないよう新聞や雑誌を読む人、自分の世界に没頭するかのようにスマホを操作する人。
乗客は自信が下車する駅までの時間をそれぞれつぶしている。
車掌や自動放送で次の駅の案内をする。


・・・誰もこの時は気づかなかった。
乗務員室の中に手のひらサイズの生き物がいたことを。


列車は停車駅に到着し、車掌は列車のドアを開けようとする・・・。

 

 

「しゃしょうさーん」

 

 


明らかに車掌を呼ぶ声がした。
車掌は声のする方へと顔を向けてみた。

「す、スライム・・・? 私たちは異世界にでも迷い込んだのか?」
「まよいこんでないよー。しゃしょうさんたちがみえるようになっただけだよー。」

車掌は自信が異世界に迷い込んだのではないかと疑ったが、目の前にいるスライムが否定した。
今まで見えなかったものが見えるようになったと、スライムはそう言った。

「見えるようになったのは、車掌である私だけか?」
「ちがうよー。いきてるひと、みんなみえるようになったんだよー。」
「生きている人、全員・・・。つまり、乗客もか。」
「そうだよー。」

どうやら車掌以外も見えるようになったらしい。
スライムは話を続ける。

「ぼくたちはね、"ろせんすらいむ"ってよばれる、てつどうろせんの"けしん"なんだよ。
こんかいはね、みんなにおねがいをしたくて、こうやっておはなししてるの。」
「お願い? いったいどのような?」
「すらいむたちのおねがい、かなえてほしいの。」
「・・・。」

スライムが車内放送用のマイクのスイッチを入れていたらしく、この会話の一部始終は列車の乗客全員に知れ渡った。
ついでに運転指令部にも伝わったらしい。

「ぼくは、どこのろせんにもしょぞくしていない、ただのろせん。
ほかのみんなは、ぼくみたいなすがたで、ちゃんとろせんめいがかかれている、なふだをつけているよ。
ひとつのえきに、1たいだけ、とはかぎらないよ。
ぼくたちは、にんげんがだいすきなんだよ。」

そういうと、スライムは車掌の頭の上に飛び乗った。

「ドア、開けてもいいかい?」
「あけてもいいよー、おじゃましてごめんね。」

スライムはちゃんと謝ってくれた。
いいことと悪いことの区別がついているのかどうかは微妙なところだが・・・。

「お客様にはご迷惑をおかけしました、すぐにドアを開けます。」

 

---


ラッシュアワーも過ぎ、乗客の流れも落ち着いたころ、人々は朝の出来事が自分の乗っていた列車だけの出来事かどうか、SNSなどを見て確認していた。
どうやら、この出来事はすべての鉄道会社のすべての路線で発生していたらしい。

「スライムからのお願いってさ、いったいどんな内容なんだろうな?」
「もしかしたら無理難題じゃないの?」
「まさか俺らが犠牲になるようなお願いが含まれていたりして・・・。」
「願いことかなったら何かもらえるのかな?」
「・・・たぶんないんじゃないのかな? あとは私たちが達成感を味わえるような内容とか。」

乗客の学生はそのような内容ではないかと推測してみたり、報酬があるかどうか、割とどうでもいいような内容の会話が飛び交っていた。
そのほかの乗客も結構似たような話をしていたとかなんとか。


ネットニュースにもなるかどうかと騒がれていたものの、何一つ報道されなかった。
気にするほどのレベルではないだろう、と判断されたと思われる。


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