中高年男性で勃起不全(ED)に悩む人は多い。富永ペインクリニック院長の富永喜代さんは「EDは動脈硬化の初期症状ともいわれる。性器の劣化を防ぐためにも、私は60代以降の患者さんに『週4回のオナニー』を勧めている」という――。

▶ EDは「動脈硬化の初期症状」

 「勃起」と聞くと、一般的にはペニスに血液が流れ込むことをイメージする人も多いでしょう。「ペニスが脈打つ」という表現もあります。男性の場合、性的な刺激を受けると、まず脳の中枢神経が興奮し、その情報が脊髄神経を通ってペニスに伝わります。すると、これが勃起のGOサインとなり、一酸化窒素(NO)が放出され、血管が拡張し、陰茎海綿体に血液が流れ込んで勃起が起こります。

 しかし、そうやってペニスの海綿体に流れ込んだ血液がすぐに心臓に戻ってしまえば、また元通りになってしまいます。大量に流れ込んだ血液をペニスにとどめておくことによって初めて、勃起状態が維持できるわけです。簡単にいえば、勃起には、

①血液が滞りなく流れ込むこと、

②流れ込んだ血液をペニスにとどめておくこと、

の2つの機能が必要になります。

 それでは、まず血液の流れについて考えてみましょう。血液は心臓から全身を巡り、再び心臓に戻るわけですが、心臓から血液を運ぶ「往きの道路」が動脈です(「帰りの道路」が静脈となります)。

 動脈は体に必要な酸素や栄養分を運んでいますが、この動脈の壁にコレステロールが溜まってしまうと、血管は硬くなり柔軟性を失い、血液の流れが悪くなってしまいます。この症状が「動脈硬化」です。

▶ 動脈が非常に細く、影響を受けやすい

 動脈硬化による血液の詰まりは、全身で進みます。動脈硬化が脳で起これば脳梗塞に、心臓で起これば狭心症や心筋梗塞に、ペニスの動脈(陰茎背動脈)が詰まるとEDに陥ってしまいます。

 しかも、心臓の冠状動脈の太さは3~4mm、心臓から脳へ血液を送る内頸動脈の太さは5~7mmであるのに対して、陰茎背動脈の太さはわずか1~2mm。つまり、非常に細い陰茎背動脈は、動脈硬化の影響を真っ先に受けやすい血管であるといえます。そのため、「EDは動脈硬化の初期症状」ともいわれます。

 心臓から送り出された血液がペニスにたどりつくまでには、長い道のりを経ています。心臓からスタートし、背骨に沿って動脈を下降し、骨盤の後ろ、さらに骨盤の底(骨盤底筋)を通って、ようやくペニスにたどりつきます。

 心臓からペニスまで、体内の長い旅を経た血液が行きつく先は、わずか1~2mmの陰茎背動脈。そのとても細い血管が、動脈硬化によって硬くなってしまったとしたら……血液の流れが悪くなるのは、イメージしやすいかと思います。

▶ 使わないと性器は劣化する

 常日頃、私が主宰するオンラインコミュニティ「秘密の部屋」で口にする言葉に、「使わないと性器は劣化する」というものがあります。定期的なセックスやマスターベーション、適切なケアをしないと、男性ならペニスが小さく縮み、女性なら腟が萎縮して挿入を伴うセックスが難しくなってしまいます。

 そもそも性器に限らず、耳たぶに開いたピアスの穴でも、長年放置していれば閉じてしまいます。寝たきりの状態が長く続くと、足の筋肉が衰えて歩けなくなります。つまり、使わない機能は、体が「もうこの臓器は必要ないのだな」と判断して、使えなくなってしまうのです。

 ご存じのように血液は、酸素やタンパク質、ミネラルなど人体を構成する細胞に必要な栄養素を運んでいます。しかし、セックスやマスターベーションをせず、男性なら陰茎海綿体に血液が流れ込まない状態が長く続くと、陰茎海綿体は栄養不足に陥ってどんどん縮こまっていきます。これを線維化といいます。

▶ いくら刺激を受けても反応しなくなってしまう…

 長い間、放置されて硬くなってしまった台所スポンジをイメージするとわかりやすいかもしれません。ひとたび線維化が起こってしまうと、再び柔軟性を取り戻すのは至難の業です。萎縮し、線維化したペニスには、血液が送られにくくなり、ますます機能の低下が進んでしまいます。

 最終的には、ペニスをヒヤッと冷たく感じる「コールドペニス」と呼ばれる状態になり、こうなるといくら刺激を受けてもピクリとも反応しなくなってしまいます。

 ですから、セックスおよびマスターベーション、またはビガーなどを使って定期的に勃起する“クセ”をつけておくことは、ペニスの血管や海綿体組織を若々しく保つために重要です。いわば、ペニスのアンチエイジングトレーニングです。

 ビガーを試した70代の患者さんは、「ビガーで勃起をした自分のペニスを目にすると『まだまだ自分はいける』と思えるようになった」と語っていました。勃起には、機能面の効果だけでなく、勃起した自分のペニスを目にすることで失われていた自信を取り戻す心理的な効果もあります。「性」は、生きる自信を取り戻す、まさに「生」なのです。

▶ 熟年こそ「週4オナニー」を勧める理由

 体の機能は、使わなければ「不要」とみなされて、やがて衰えてしまいます。しかし、だからといって毎日セックスするのは、現実的ではありません。そもそも「パートナー不在」という状況もあります。ですから、セックスができないときは、マスターベーション、つまりオナニーでも構いません。

 中高年にとって、オナニーは性的快楽だけではなく、性機能維持のためのトレーニングです。私もよく患者さんに「何もせずにペニスを放置しておいたら、陰茎海綿体は線維化してしまうのだから、オナニーは機能訓練、リハビリよ! 今日からガンガンやってください」とお話しします。すると患者さんは目を丸くしたり、噴き出す人もいます。もちろん私は、大真面目にお話ししています。

 先ほどの「使わないと性器は劣化する」という言葉のとおり、セックスでもオナニーでも、定期的に勃起によってペニスに血流を促し、射精で前立腺を刺激していかなければ、ペニスは萎縮し、線維化してしまいます。目安は週に4回、もちろん毎日しても構いません。

 かつて「オナニーをしすぎたら、頭が悪くなる」という言説がまことしやかにかれていた時代がありました。しかしそのような言説は、なんら根拠がありません。心身ともに悪影響どころか、機能維持の側面では好影響を及ぼすので安心してオナニーしてください

▶ 前立腺がんになるリスクが低減する研究も

また、「勃起のトレーニングで、射精までしてもいいのですか?」とよく質問されます。もちろん射精までしてください。射精をすれば、前立腺の血流が良くなり、精巣の働きも活発になります。

オナニーは、すればするほど健康になる」のです。

 また自律神経の観点からいえば、勃起を司るのは副交感神経ですが、射精を司るのは交感神経です。簡単にいえば、副交感神経は体を休め、リラックスモードにする神経。片や交感神経は、体を活動モードにする神経です。

 通常、セックスの際は「勃起→射精」という一連の流れを踏み、その際、副交感神経と交感神経の2つの神経がうまく切り替わっています。この「交感神経→副交感神経」の切り替えのトレーニングとして、定期的なオナニーによる射精は有効です。

 ただし、あまりに強い力でペニスを握ったり、床に下半身を押し付けるような体勢でのオナニーは、遅漏や腟内射精障害のリスクがあるので避けたほうがいいでしょう。

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<参考>

・富永喜代『女医が導く60歳からのセックス』(扶桑社新書)