三田村 哲哉 研究室

兵庫県立大学 環境人間学部 建築史・意匠研究室

研究テーマ Subjects

2012-01-03 | 研究テーマ Subjects
1.近代フランスにおける建築・都市計画に関する研究
 伝統的な造園の設計技術を有するフランスでは、20世紀の初頭から建築家が都市に対する具体的な新提案を行うようになり、それらはパリをはじめとする博覧会の会場計画や、第一次世界大戦による被災都市の復興計画、さらに植民地や保護領における都市計画に反映され、その技術は飛躍的に向上した。20世紀フランスの近代建築は、鉄筋コンクリート造に代表される技術革新やヨーロッパ各国で勃興した芸術運動と同様に、都市計画による多大な影響を受けている。1925年にパリで開催されたアール・デコ博における会場の計画過程と展示館の建築造形に関する研究(拙著『アール・デコ博建築造形論』)は、こうした観点からまとめられたものである。
 建築家・都市計画家アンリ・プロスト(1874-1959)を中心としたフランスの建築・都市計画は次の主題であり、アール・デコ博の会場と展示館に関する研究と同様に、建築作品のみならず都市計画にも考察の視点を当てた研究を遂行している。プロストは総督リヨテの命を受けて、モロッコの5大歴史都市カサブランカ、マラケシュ、メクネス、フェズ、ラバトの建築と都市計画を手がけた後、パリで中心市街地の保全とその郊外の新都市建設を提案した『パリ地域圏計画』をまとめ、さらにイスタンブールの建築・都市の近代化による発展を主導した偉人である。プロストの功績は、近代化が全盛の時代に地中海を跨いだ3カ国で実現した建築・都市の遺産保全と近代化の両立であり、その理論と実践が本研究の主題である。今日の歴史遺産の「保全」思想の興隆の解明という観点からも欠かせぬ研究テーマであると言える。
【科研費(若手B)(2011-2013年度)(代表者)モロッコにおけるアンリ・プロストの都市計画とアール・デコの建築に関する統合的研究】
 
2.歴史的建造物・建築ストックの改善に関する建築史・意匠研究
 我が国の建築界における重要な課題のひとつに、既存の建築を再生する新たな手法の開拓が挙げられる。その基本は修復、修繕、復元を主体とするいわゆる「建築保存」である。一方、欧米の建築先進国では、こうした従来の手法を中心としつつも、それとは明らかに異なるコンバージョン(用途変更)やリノベーション(建築改修)といった新たな方法で、歴史的建造物や建築ストックを有効に活用する事業が興隆を成している。 こうしたタイプの建築が、先進国の抱える環境負荷の軽減、遺産保全の推進、不動産価値の向上、観光事業の促進、産業移転対策、人口移動の改善、空洞化した都市への対応、軍事施設の転用などの諸課題に柔軟に応える形で、建築の新たな動向を形成している。このような秀作の紹介とその手法の解明は、建築史・意匠学の新たな研究領域であり、文献調査に基づいてイタリア、アメリカ、フランス、ベルギー、ドイツ、フィンランド、イギリス、スペイン、スウェーデン、デンマーク、オーストリア、スイス、中国ノルウェー、オランダにおいて実地調査を実施し、その成果の一部を拙著『世界のコンバージョン建築』にまとめた。こうした「新建築」を開拓し、現代建築の新たな側面を追究している。
2-1「世界のコンバージョン建築に関する調査研究」
【科研費(基盤C)(2006-2007年度)(分担者)ルイス・サリヴァンの建築思想・造形手法に関する分析と作品の保存更新活用実態調査】
【科研費(基盤B)(2009-2012年度)(分担者)コンバージョン建築海外事例の開拓とデータベースの拡充およびデザイン手法の分析】
【財団法人鹿島学術振興財団(2011年度)(分担者)コンバージョン建築海外事例に関する調査研究-日本国内におけるコンバージョン・デザインの向上を目指して】
2-2「歴史的建造物と現代建築の融合に関する研究」
【科研費(若手B)(2005-2006年度)(代表者)パリにおける近代建築の改修事例に関する意匠考察と作品データベースの構築】
【科研費(若手B)(2008-2010年度)(代表者)歴史的建造物と現代建築のデザインの融合-フランスにおける再構築事例に関する考察-】

3.アール・デコの建築に関する研究
 建築や美術に関心がある向きなら、「アール・デコ」という言葉を一度は耳にしているに違いない。19世紀末に流行したアール・ヌーヴォーに続く新造形が、第一次世界大戦後、建築、絵画、彫刻のみならず装飾、家具、鉄工、陶芸、硝子、宝飾、服飾、装丁など、実に幅広いジャンルの作品に見られるようになる。我々はこの新しい芸術全体を捉えて「アール・デコ」と呼んでいる。アール・デコの建築といえば、ニューヨークのクライスラー・タワーなど、斬新で煌びやかな作品が思い浮かぶかもしれない。とはいえ、モダニズム建築を中心に展開されてきた近代建築史では、このような装飾建築は1960年代半ばまで排除される傾向にあった。その後、研究が進み、ベルギー、イギリス、アメリカ、カナダといった先進国はもとより、北アフリカや東南アジアや東アジアの保護領、さらには南米諸国、ニュージーランド、南アフリカに至るまで、世界の主要都市でアール・デコの建築が次々に「発見」されている。新たな総合芸術と関連産業の世界覇権を目論み、フランスが1925年にパリで開催した現代装飾美術・工芸美術国際博覧会(アール・デコ博)の成果が、こうして今、世界各地で明らかにされつつある。一方、フランス国内への波及は限定的で、パリの一部の映画館や集合住宅、および後続の博覧会の展示館などにとどまると解釈されてきた。しかし、戦間期のフランスで発行された主な建築専門誌を繙いてみると、アール・デコの建築がフランス全土に多数建設されたことが確認できるばかりか、これまで詳細なフランス近代建築史にも全く登場しなかった優れた作品が認められるのである。また近年、地方の美術館や自治体などが、文化活動や観光事業を目的として地道に蓄積してきた研究の成果を、地域独自の出版物や展覧会やブックレットの形で次々に発表している。アール・デコの作品は周囲の古建築とも調和するという、モダニズム建築にはない優れた特徴を有している。そのため人知れず存在していることもしばしばある。本研究では、フランス内外の各都市に埋もれた傑作を丹念に洗い出す作業から始めたい。
【財団法人トステム建材産業振興財団(2012年度)(代表者)フランスにおけるアール・デコ様式の居住施設に関する意匠研究