桐野夏生,2021,砂に埋もれる犬,朝日新聞出版.(1.31.25)
貧困と虐待の連鎖――。母親という牢獄から脱け出した少年は、女たちへの憎悪を加速させた。ジャンルを超えて文芸界をリードする著者の新たな傑作。予定調和を打ち砕く圧倒的リアリズム!小学校にも通わせてもらえず、日々の食事もままならない生活を送る優真。母親の亜紀は刹那的な欲望しか満たそうとせず、同棲相手の男に媚びるばかりだ。そんな最悪な環境のなか、優真が虐待を受けているのではないかと手を差し伸べるコンビニ店主が現れる――。ネグレクトによって家族からの愛を受けぬまま思春期を迎えた少年の魂は、どこへ向かうのか。その乾いた心の在りようを物語に昇華させた傑作長編小説。
人は、虐待を受けて育った子どもが、逆境を乗り越えて、真っ当な人生を送る、そんなストーリーを好む。
しかし、現実は、なかなかそうはいかない。
主人公の優真は、自らに善意の手を差し伸べる大人たちを、おぞましいばかりの悪意で操ろうとする。
そして、好意をもった女の子への、歪みに歪みきった羨望、欲望と、その裏返しの憎悪。
救いようのない、残酷な運命とその帰結を、これ以上ないというくらいリアルに描き出した、その力量に感心するばかりだ。
桐野夏生,2021,インドラネット,KADOKAWA.(1.31.25)
平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない―取り柄のないことにコンプレックスを抱いてきた八目晃は、無為な生活を送っていた。唯一の誇りは、高校の同級生で、カリスマ性を持つ野々宮空知と、彼の美貌の姉妹と親しく付き合ったこと。だがその空知が、カンボジアで消息を絶ったという。空知を追い、東南アジアの混沌に飛び込んだ晃を待ち受けていたのは、美しい3きょうだいが持つ凄絶な過去だった…。数多の文学賞受賞の著者が到達した「現代の黙示録」。
カンボジアを舞台に繰り広げられる、壮大なサスペンスと群像劇が楽しめる傑作長編エンタメ小説。
やり過ぎと思わないわけではない、あまりに劇的な展開に、「リアルさ」を小説に求める向きには不満が残るかもしれないが、エンタメを極めるとこうなるだろうな、という振り切り具合がスゴい。
VUメーターが振り切れっぱなしで、一気読みすること必至。