「利他」とは何か

伊藤亜紗・中島岳志・若松英輔・國分功一郎・磯崎憲一郎,2021,「利他」とは何か,集英社.（電子書籍版有）（1.16.2023）

　利他の行為とは、損得勘定をぬきにして、できれば匿名の存在でありつつ、他者の幸福につながることを行うことだと思う。もちろん、他者の幸福のあり方を勝手に想定することが、悪しきパターナリズムにつながることに警戒しつつ。
　わたしたちが、自らの属性や業績をもって他者にマウントしようとしたり、SNSで自己顕示したりすることを、ときに吐き気をもよおすほどに嫌悪するのは、それらが「利他」と対極にある卑しい行為であるからだろう。　
　また、利他の衝動は、郡司ペギオ幸夫さんの著作のタイトルを借用すれば、「やってくる」ものであり、自らが「容器」となって、利他の行為の連鎖を他者とともにつなげていくことである。そこに善意という「意思」が介在すれば、たちまちその善意は「利他」の受け手に対して、返済不能な「負債」を課すことになる。
　わたしは、社会保障を、「匿名の自己と他者」による、「贈与」のしくみとして意味づけなおす論考を構想しているのだが、本書には、國分功一郎さんの「中動態」の議論も含め、参考になる論点がいくつかみられた。

【コロナ時代。他者と共に生きる術とは？】
コロナ禍によって世界が危機に直面するなか、いかに他者と関わるのかが問題になっている。
そこで浮上するのが「利他」というキーワードだ。
他者のために生きるという側面なしに、この危機は解決しないからだ。
しかし道徳的な基準で自己犠牲を強い、合理的・設計的に他者に介入していくことが、果たしてよりよい社会の契機になるのか。
この問題に日本の論壇を牽引する執筆陣が根源的に迫る。
まさに時代が求める論考集。

【目次】
はじめに――コロナと利他　　　　　　　　　　　伊藤亜紗
第１章：「うつわ」的利他――ケアの現場から　　伊藤亜紗
第２章：利他はどこからやってくるのか　　　　　中島岳志
第３章：美と奉仕と利他　　　　　　　　　　　　若松英輔
第４章：中動態から考える利他――責任と帰責性　國分功一郎　
第５章：作家、作品に先行する、小説の歴史　　　磯崎憲一郎
おわりに――利他が宿る構造　　　　　　　　　　中島岳志