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本と音楽とねこと

仲人の近代

阪井裕一郎,2021,仲人の近代──見合い結婚の歴史社会学,青弓社.(電子書籍版有)(1.14.2023)

 「仲人」の意味と機能の変容から、明治期以降の日本社会における婚姻制度、セクシュアリティ、家族のあり方等の変遷を読み解く。
 提示される歴史資料が興味深いものばかりで、それらにもとづく論考がおもしろくないわけがない。
 男女を結びつける「仲人」の機能には関心がないが、夫婦の「第二の親」として、家族リスクの低減に寄与する機能にはおおいに意味があるように思う。DVや子ども虐待の防止と被害者保護において、福祉行政の機能には限界がある。人々が中間集団の庇護を受けることができなくなっているからこそ、「疑似親」としての「仲人」が果たせる役割は大きいと思う。
 実践的課題は、「(未)成年後見」制度に、こうした「仲人」機能を取り込み、家族リスクの軽減をはかることにあろう。

1990年代まで「結婚」や「家」と密接な関わりがあった仲人は、どのように広まり定着したのか。また、なぜ衰退して現在では見られなくなったのか。
明治時代以前の村落共同体では見合いが浸透していなかったが、教育勅語や家制度によって仲人が急速に普及する。明治期の家族主義と個人主義、大正期以降に登場する恋愛などとのせめぎ合いのなかで、見合い結婚が「正しい結婚」として位置づけられ、強固に維持されたことを史料を渉猟して明らかにする。
また、明治期に民間の結婚相談所が設立されたが、戦時下の人口政策に組み込まれ厚生省が結婚媒介を統制するに至って、優生思想とも接続しながら全国に結婚斡旋網が形成されたことも掘り起こす。
そして、戦後の民主化や高度経済成長によって見合い結婚は封建的と見なされるようになりながらも、仲人は恋愛結婚や職場結婚と折衷して1990年代まで存続し、2000年代に消滅するプロセスを跡づける。
村落共同体、家、国家、企業と、時代ごとに個々人の帰属先と密接に結び付いてきた仲人の近・現代史から、近代日本の家族や結婚をめぐる価値観の変容を照射する。

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