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本と音楽とねこと

【名作】美は乱調にあり、諧調は偽りなり【斜め読み】

 たぶん、わたしと同じ伊藤野枝さん好きのブレイディみかこさんの影響だと思うが、伊藤野枝というと、Siouxsie SiouxやPauline Murrayのような、パンクロッカーを想起してしまう。
 伊藤野枝伝としては、栗原康の大傑作、『村に火をつけ,白痴になれ』があるが、あまりに栗原の知とパトスが野枝のそれとシンクロしすぎて、あたかもバチバチ業火が燃えさかるかのごとき激しい内容であった。寂聴さんの作品は、冷静な筆致で、伊藤野枝、大杉栄、辻潤、神近市子等の人物群像が詳細に、生き生きと描き出されており、これらの人々がつい最近を生きていたかのようによみがえった、そんな印象だ。
 大杉栄が、堀保子、神近市子、伊藤野枝と、「自由恋愛」の実験を重ねた挙句、神近市子に短刀で首を刺される(日蔭茶屋事件)ところで『美は乱調にあり』は終わるが、ひきつづき、関東大震災のあと、甘粕正彦等により大杉と野枝、そして幼子の橘宗一が惨殺されるまで、『諧調は偽りなり』は一気に読ませる。平塚らいてう、武林無想庵、有島武郎等、同時代を生きた人々の人物造形もそれぞれに深く、すばらしい。
 アナーキスト、大杉や野枝たちの人と人生を丹念にふりかえる、寂聴さんのまなざしがとてもあたたかい。それに対し、「朝鮮人たちを扇動し破壊活動を行う不逞無政府主義者」と短絡し、野枝たちを惨殺した、国粋主義者、甘粕正彦を見る目は厳しい。のちに満州国を陰で支配し、敗戦を迎えるや、宴席をもうけ、日本人女性たちに、自ら貯えた宝石を与えると称す甘粕。女性たちが、包みのなかをあけてみると、それは宝石ではなく、青酸カリだった・・・。そのほか、大杉、野枝の子、魔子さんを福岡に訪ねたときの逸話も興趣をそそる。
 若い人たちに読みつがれてほしい名作だ。


瀬戸内寂聴,2017,美は乱調にあり──伊藤野枝と大杉栄,岩波書店.(9.12.2020)

「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」(大杉栄)瀬戸内寂聴の代表作にして、伊藤野枝を世に知らしめた伝記小説の傑作が、続編『諧調は偽りなり』とともに文庫版で蘇る。婚家からの出奔、師・辻潤との同棲生活、『青鞜』の挑戦、大杉栄との出会い、神近市子を交えた四角関係、そして日蔭茶屋事件―。その傍らには、平塚らいてうと「若い燕」奥村博史との恋もあった。まっすぐに愛し、闘い、生きた、新しい女たちの熱き人生。


瀬戸内寂聴,2017,諧調は偽りなり──伊藤野枝と大杉栄(上)・(下),岩波書店.(9.12.2020)

「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」(大杉栄)四角関係による刃傷沙汰、日蔭茶屋事件を経て、深く結びついたアナーキスト大杉栄と伊藤野枝。大杉の幼少期から関東大震災直後の甘粕正彦らによる虐殺まで、二人の生と闘いの軌跡を、神近市子、辻潤、武林無想庵、有島武郎ら、行き交うさまざまな人物の人生とともに描いた、大型評伝小説。名著『美は乱調にあり』から一六年の時を経て成就した、注目の完結編。栗原康氏との解説対談を収録。

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