『助けてと言えない』は、リーマンショック後に失職し、窮乏化していった北九州の人々を取材して編まれている。(もとは大反響を呼んだTVドキュメンタリーである。)
生活困窮者への伴走的支援で名高い奥田知志さんと、ホームレス一人一人とのかかわりがとても印象に残る。
『助けてが言えない』は、精神医学、臨床心理学、看護学、ソーシャルワークの専門的な議論が展開されている書物だ。
「援助希求」ができる、つまり「助けて」と言えるのは、「心理的逆転」、すなわち、過酷な「小児期逆境体験」等により、治そうと思いながら不治の衝動に負けて自己破滅しゆく人々には難しい。
医師の「助けて」と言わせようなんざ傲慢ではないのか、という指摘は重い。治癒を急ぐべきではない。熊谷晋一郎さんが指摘するように、「助けてとはなかなか言えないよね」ということばをかわせる関係性を、当事者、援助者のなかにつくっていくことが大切なのだろう。
NHKクローズアップ現代取材班,2013,助けてと言えない──孤立する三十代,文藝春秋.(9.10.2020)
孤独死した三十九歳の男性が便箋に残した最後の言葉は「たすけて」だった―。今、社会から孤立する三十代が急増している。なぜ、彼らは「助けて」と声を上げないのか?就職氷河期世代の孤独な実態を描き、高視聴率を上げた番組を文庫化。作家・平野啓一郎の「三十代の危機」と新章「3・11後の併走型支援」を併せて収録。
松本俊彦編著,2019,「助けて」が言えない──SOSを出さない人に支援者は何ができるか,日本評論社.(9.10.2020)
目次
1 助けを求められない心理
1 「医者にかかりたくない」「薬を飲みたくない」ーー治療・支援を拒む心理をサポートする……佐藤さやか
2 「このままじゃまずいけど、変わりたくない」ーー迷う人の背中をどう押すか……澤山 透
3 「楽になってはならない」という呪い ーートラウマと心理的逆転……嶺 輝子
4 「助けて」ではなく「死にたい」ーー自殺・自傷の心理……勝又陽太郎
5 「やりたい」「やってしまった」「やめられない」ーー薬物依存症の心理……松本俊彦
6 ドタキャン考ーー複雑性PTSD患者はなぜ予約が守れないのか……杉山登志郎
2 子どもとかかわる現場から
7 「いじめられている」と言えない子どもに、大人は何ができるか……荻上チキ
8 「NO」と言えない子どもたち ーー酒・タバコ・クスリと援助希求……嶋根卓也
9 虐待・貧困と援助希求ーー支援を求めない子どもと家庭にどうアプローチするか……金子恵美
3 医療の現場から
10 認知症のある人と援助希求ーーBPSDという用語の陥穽……
大石智
11 未受診の統合失調症当事者にどうアプローチするかーー訪問看護による支援関係の構築……廣川聖子
12 「人は信じられる」という信念の変動と再生についてーー被災地から……蟻塚亮二
13 支援者の二次性トラウマ、燃え尽きの予防……森田展彰・金子多喜子
4 福祉・心理臨床の現場から
14 「助けて」が言えない性犯罪被害者と社会構造……新井陽子
15 薬物問題を抱えた刑務所出所者の援助希求ーー「おせっかい」地域支援の可能性……高野 歩
16 性被害にあい、生き抜いてきた男性の支援……山口修喜
5 民間支援団体の活動から
17 どうして住まいの支援からはじめる必要があるのかーーホームレス・ハウジングファースト・援助希求の多様性・つながりをめぐる支援論……熊倉陽介・清野賢司
18 ギャンブルによる借金を抱えた本人と家族の援助希求ーーどこに相談に行けばよいのか……田中紀子
19 ゲイ・バイセクシュアル男性のネットワークと相談行動ーーHIV・薬物使用との関連を中心に……生島 嗣
座談会:「依存」のススメーー援助希求を超えて……岩室紳也×熊谷晋一郎×松本俊彦
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