フランス☆スター

パリから来る話題やフランスのエンターテイメント系情報について

ワイルド・サイド

2004年06月19日 21時15分00秒 | フランス映画
2004年/107分/カラー
監督:セバスチャン・リフシッツ
脚本:ステファン・ブーケ、セバスチャン・リフシッツ
出演:ステファニー・ミシュリニ、ヤスミン・ベルマディ、エドゥワール・ニキティヌ

社会から疎外された3人の若者がパリで出逢う。一人はロシアからの不法移民。一人はトランスセクシャルの街娼。もう一人はマグレブ人(旧フランス植民地からの移民の総称)。孤独な感情を抱えた3人は自然に惹かれあい、やがてそれぞれの腕の中に慰めを見出していく。アンダーグラウンドな生活と、身近な人の死という出来事を経て、3人の絆は一層深まっていく…。

本作は2004年のベルリン映画祭のパノラマ部門に出品され、最も素晴らしいゲイフィルムに贈られるテディベア賞を受賞した。ゲイフィルムというカテゴリーを越え、人間の魂を繊細に描写して、マスコミにも絶賛され「新しい才能の誕生」と大きな注目を浴びた作品だ。

くびれた腰、赤いマニュキュア、白くて細い体、大きな胸…最後に男性の陰部、というトランスセクシャルの街娼の裸体を、冒頭から見せて観客を驚かせた。その後も街娼が買われているシーン、少年がトイレで体を売るシーンと続き、世間で隠されているような暗部が次々と現れてくる。そして、「死んだお父さんは今のあなたに逢わなくて良かった」という母親の台詞、「愛してるならどうして「やめろ」と言ってくれないの」という自身の台詞など、登場人物たちがそう生きるしかなかった哀しみが端々から伝わってくる。負の感情を持つ者同士は共鳴する。同じように疎外されざるを得なかった3人が惹かれあっていくのも、たった一つ拠り所が欲しいから。

彼ら3人は双方共に愛し合っており、三角関係というわけではない。一人対二人の関係ではなく、3人が一組になってまるで共同体のようだ。壊れそうな者たちがやっと身を寄せ合う関係は、普段目にする恋愛関係とは違っており、少し奇妙な印象も与えるかもしれない。けれど、そのような感情や世界がこの世に存在しているという事実を観客に知らせること。観客側も、受け入れられるかどうかは別にして、そのような存在も認められること。このフィルムがそんなキッカケになり、今までと違った関係を打ち出すのかもしれない。

スターは俺だ!

2004年06月19日 18時45分00秒 | フランス映画
2002年/90分/カラー
監督:ヤン・モワクス
脚本:オリヴィエ・ダザ、ヤン・モワクス、アルチュール=エマニュエル・ピエール
出演:ブノワ・ポールヴールド、ジャン=ポール・ルーヴ、ジュリー・ドバルデュー
6月19日(土)18:45

名前、ベルナール・フレデリック。職業、クロード・フランソワ。70年代屈指の人気歌手。そう、彼の職業はスターに成り代わることなのだ。ベルナールの野心、それはゴールデンタイムに全国放送されるそっくりさんコンテストで優勝することだった。しかし、妻のヴェロは迷惑そうだ。栄光への渇望と妻への愛との間で板ばさみになり、身動きの取れなくなったベルナールは、ひとつの選択に迫られていた…。

クロード・フロンソワとは…。62年から「Belles,Belles,Belles」「Marche tout droit」「Pauvre petite fille riche」などのヒットを連発。日本ではフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」とカップリングされた「ドナ・ドナ」が大ヒット。しかし70年代から坂道を下り始め、コンサート中に発作に襲われ、ついで自動車事故を起こす。さらに脱税容疑。78年、浴槽の中で感電死する。死後、彼の楽曲は多数のリミックス音源として使われている。

「スターへの夢を追うのに年齢は関係あるか?」と聞かれたら、希望も含めて「関係ない」とたいていの人々は答える。しかし、中年になったおじさんがモノマネを復活させたら、たいていの妻は嫌がるだろう。ベルナールもご多分にもれず、妻の猛反対を受けながら、そっくりさんコンテストに挑んだ。このそっくりさん・・・クロード・フロンソワへの熱意は相当のもので、自宅(といっても、マンションのオープンルームで住んでいる)の地下一階に専用の衣裳部屋もあり、ダンスの練習には余念がない。その打ち込む情熱を見ていると可笑しくもあり、そこまでスターな自分を渇望する姿は、呆れるのも通り越して感動してしまうのだった。展開自体には多少無理も見えるが、内側からエネルギーが勢いよく噴火するように進んでいくので、観ていると元気になる。最近ちょっと疲れたな、現状に流されてるな、という方はベルナールのエネルギーを頂いてもいいかもしれない。


いつか会える

2004年06月19日 13時30分00秒 | フランス映画
2004年/95分/モノクロ
監督・脚本:ブノワ・ジャコ
出演:イジルド・ル・ベスコ、ウアシーニ・アンバレク、ロランス・コルディエ、ニコラ・デュヴォシェル

19歳の少女が恋に落ちた相手は、とんでもないならず者。ある日彼は銀行強盗を働き、殺人まで犯してしまう。行く当てのない彼をかくまった彼女は、翌日ある選択をする。彼と共に逃亡する、と!それは、堅苦しい父親とのアパルトマン生活、淡々とした毎日…という今までの自分の人生からの逃亡でもあった。かくして彼女は、自分が望んでいた人生へと突き進み始めるが…。

平凡で決まりきった毎日から抜け出したい、という逃避願望はあれど、実行に移せる者はそういない。しかし主人公は銀行強盗をした彼との逃亡というキッカケで、飛び出してしまった。愛する人と朝から晩まで共にし、盗んだお金で豪遊する生活は、まるで最高のバカンス。お金をストッキングの中に隠したり、税関を何気なく通り過ぎることさえも、美味しいスパイスになる。嬉しそうに「不良少女だから」と自ら語ってしまうあたり、状況に酔っていて、事の重大さどわかっていない。その姿は奔放すぎて、少し浅はかなようにも見える。けれども、19歳の頃、誰とも違う特別な生き方を望んでしまう気持ちは、誰しも思い当たるフシがあり、それがある意味、不器用な純粋さでもあった気がする。

しかし、彼女は行き過ぎた。果てしなく続くバカンスは存在しなかった。お金も尽きた頃、苛立ちが広がり、それが彼女を現実と向き合わすことになる。そして、最後には彼らとはぐれてしまう。愛する彼を失った喪失の表情からは「浅はか、だけれど純粋な想い」を真っ直ぐに捧げていた事実を知らせ、観ている者をせつなくさせる。

モノクロの映像が、彼女が時折描くデッサンの線を美しく際立たせ、感情の光と影をきめ細かく表現する。その繊細で触れると壊れそうなシーンの美しさは、若さという一瞬のきらめきにも似ているものがある。

ぼくセザール 10歳半 1m39cm

2004年06月19日 11時00分00秒 | フランス映画
2003年/99分/カラー
監督:リシャール・ベリ
脚本:エリック・アスス、リシャール・ベリ
出演: ジュール・シトリュク、マリア・ド・メデイルシュ、ジャン=フィリップ・エコフェ、ジョゼフィーヌ・ベリ

ぼくの名はセザール・プチ。ちょっと太めだけど、そのことはあまり言われなくない。ぼくの親友はモルガン。成績優秀、スポーツ万能、その上大人っぽい。でも彼にも一つだけ悩みがある。父親を知らないこと。そして、学校一の美女、サラ!彼女のためなら命も惜しくない。でも10歳の女の子に“男は中身”だってことをわからせるのは簡単じゃない。ちょっと小太りなことの“羞恥心”、甘い物への“執着心”、モルガンへの“友情”とサラへの“愛情”……そんな様々な葛藤に悩み、行動し、変わろうとするセザールの日常の大冒険を描いた爽やかな物語。

『ぼくセザール 10歳半 1m39cm』というタイトル通り、全ての映像が10歳半の気持ち、1m39cmの背丈から語られる。こどものまなざしに変わると、世界は一変するのだ。「どうしてこどもには敬語を使わないの?」「危険なヤツだと言ってた人のお葬式なのに、何故泣いてるの?」「大人はこどもに説明しないで、命令する」「色とりどりのケーキを眺めるのは最高!」「田舎に行くのは追放された気分だ…」こども同士では口には出してもいても、普通なら絶対に聞けない本音が聞けてしまう。そして、大人になった私たちが忘れていた、懐かしくも甘酸っぱい感情がよみがえってくる。こどもの頃は毎日まるで世の中の大発見をしているかのようだった。今一度、こどもの感性を通して、生きるということがどういうことなのか探っていくのだ。

大人から見ると過小評価しがちなこどもの悩み…例えば初恋や、初めての旅行のドキドキ、外見のコンプレックス…等、を本作では真っ向から撮影している。そうすることで、ささいな出来事さえも、こどもは妥協しない真っ直ぐな姿勢で向かい合っている、という事実に気がつかされる。小さな体を思い切り弾ませて、目を見開いて、体当たりで目の前の出来事をクリアして成長していくのだ!彼らの一人前になろうとする姿が愛らしく、時には大人よりも一生懸命にみえて、私たちは、そっと隠しておいた宝物を発見した気分になるでしょう。また俳優のかわいらしさ、映像の美しさは、大ヒットした『アメリ』にも匹敵する、という噂も立つほど。何度も、何度も繰り返し観たくなる映画です。


刺繍する女

2004年06月18日 14時30分00秒 | フランス映画
2004年/88分/カラー
監督:エレオノール・フォーシェ
脚本:エレオノール・フォーシェ、ガエル・マーセ
出演:ローラ・エマルク、アリアンヌ・アスカリッド、マリー・フェリックス

まだ17歳の若さで子どもを宿していることを知ったクレアは、生みの親が子どもの出生を届け出ず親権を放棄する「匿名出産」で子どもを産むことにした。周囲の人間から妊娠を隠すためにクレアが身を寄せたのはオートクチュールの刺繍職人メリキアン夫人の家だった。日を追うごと、刺繍の一針ごとに、クレアのお腹が大きくなるにつれ、2人の間が変わっていく。メリキアン夫人から、刺繍の技巧だけでなく、親・子・母・娘といった人間関係の愛情というものが伝授されていく…。

子どもを授かるが育てない決断をしたクレアと、事故で息子を亡くしたメリキアン夫人。二人がやり取りをする様は、刺繍を一針一針、ゆっくり細やかに進めていくかのように、静かで美しい。窓から射す柔らかな光、刺繍の美しさ、少女の白い肌と赤い髪、など映像の美しさは、まるでフェルメールの絵画のよう。台詞も少なく、淡々とした印象だが、それが逆に高尚な雰囲気となり、まるで上質な文学作品を眺めているようだった。

倒れたメリキアン夫人をクレアが毎日見舞いにいき、お腹が大きいクレアをメリキアン夫人が気遣うさまは、確かな愛情が流れていて本物の家族よりも、家族らしかった。「匿名出産」という制度も日本では存在しないため、フランス独自のテーマとなっている。妊娠して子どもが生まれた後の選択の多さ、擬似家族のような関係など、多様な家族のあり方を容認するフランス文化がふんだんに現れた作品である。


マリアージュ!

2004年06月18日 12時00分00秒 | フランス映画
2004年/101分/カラー
監督・脚本:ヴァレリー・ギニャボデ
出演:マチルド・セニエ、ジャン・デュジャルダン、ミウミウ・リオ、アレクシス・ロレ
6月18日(金)12:00

「愛することは素晴らしい」と神父が熱意を込めて語っても、フランスでは3組に一組の夫婦が離婚するご時世だ。そんな中、25歳の2人が結婚する。しかし、参加した結婚10年目の35歳の夫婦はお互いにいがみあっている。45歳の夫婦は既に離婚した。他の夫婦を見ても、結婚の理想像が崩れていくばかり。それぞれの夫婦が疑惑に揺れ、気持ちの変化に戸惑い、式を混乱させていく…。

「結婚に希望はあるのか?」と溜息をつきたくなってしまう。今まさしく希望に溢れたカップルが結婚しようとしているのに、周りの夫婦たちは結婚にまつわるトラブルのオンパレード。結婚10年目で、奥さんに興味がなくなり、努力をしなくなった夫。無関心な夫に腹立ち、他の男と不倫をする妻。別れた奥さんの目の前で新しい恋人といちゃつく男。自分の夫の浮気を25年も黙認してきた妻。セックスをしたのは既に15年前の夫婦…。これぞ、フランス流、結婚問題のフルコースである。こんな彼らが織り成すエピソードの数々は、観ていて飽きる事はなく、お笑い人生劇場のように楽しめてしまう。けれど、ふと我に返って、「明日はわが身」という皮肉さも感じてしまう。これから結婚する人には踏絵のようなフィルムであり、既に結婚した人には、あまりのリアルさに身につまされるかもしれない。結婚する意味はどこにあるんだろう、という疑問を投げかける本作だが、最後にちゃんと温かいヒントが隠されている。結婚というものに悩んだことのある者同士、観終わった後に、語り合いたくなる映画だ。

ギニャボデ監督による鮮やかな脚本と世代の違う魅力的な俳優たちのアンサンブルが見ものの本作。フランスの結婚式の実情が見られるのも面白い。4月のフランス公開では、公開1ヶ月を待たずに百万人以上の動員を記録する大ヒットとなっている。


お先にどうぞ

2004年06月17日 16時00分00秒 | フランス映画
2003年/110分/カラー
監督:ピエール・サルヴァドーリ
脚本:ブノワ・グラファン、ピエール・サルヴァドーリ、ダニエル・デュブロー
6月17日(木)16:00

名前、ベルナール・フレデリック。職業、クロード・フランソワ。70年代屈指の人気歌手。そう、彼の職業はスターに成り代わることなのだ。ベルナールの野心、それはゴールデンタイムに全国放送されるそっくりさんコンテストで優勝することだった。しかし、妻のヴェロは迷惑そうだ。栄光への渇望と妻への愛との間で板ばさみになり、身動きの取れなくなったベルナールは、ひとつの選択に迫られていた…。

クロード・フロンソワとは…。62年から「Belles,Belles,Belles」「Marche tout droit」「Pauvre petite fille riche」などのヒットを連発。日本ではフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」とカップリングされた「ドナ・ドナ」が大ヒット。しかし70年代から坂道を下り始め、コンサート中に発作に襲われ、ついで自動車事故を起こす。さらに脱税容疑。78年、浴槽の中で感電死する。死後、彼の楽曲は多数のリミックス音源として使われている。

「スターへの夢を追うのに年齢は関係あるか?」と聞かれたら、希望も含めて「関係ない」とたいていの人々は答える。しかし、中年になったおじさんがモノマネを復活させたら、たいていの妻は嫌がるだろう。ベルナールもご多分にもれず、妻の猛反対を受けながら、そっくりさんコンテストに挑んだ。このそっくりさん・・・クロード・フロンソワへの熱意は相当のもので、自宅(といっても、マンションのオープンルームで住んでいる)の地下一階に専用の衣裳部屋もあり、ダンスの練習には余念がない。その打ち込む情熱を見ていると可笑しくもあり、そこまでスターな自分を渇望する姿は、呆れるのも通り越して感動してしまうのだった。展開自体には多少無理も見えるが、内側からエネルギーが勢いよく噴火するように進んでいくので、観ていると元気になる。最近ちょっと疲れたな、現状に流されてるな、という方はベルナールのエネルギーを頂いてもいいかもしれない。


ワーク・ハード、プレイ・ハード

2004年06月17日 13時30分00秒 | フランス映画
2003年/99分/カラー
監督:ジャン=マルク・ムトゥ
脚本:オリヴィエ・ゴルス、ジスレン・ジェグ=エルゾグ、ジャン=マルク・ムトゥ
出演:ジェレミー・レニエ、ローラン・リュカ、シリア・マルキ

フィリップは育ちの良い25歳の青年。都会でチャンスを掴み、大企業コンサルタント会社に入社した。その出社初日、彼は若きシングルマザーエヴァに出会い、恋に落ちる。2人が愛を育む中、彼の初仕事は工場買収のための、解雇リストの作成だった。自身に階級差別意識などないと感じていた青年が、仕事を通じてヨーロッパ社会に根強く残る階級差に葛藤するようになる。そして、人情や良識を大切にする価値観を持ったエヴァと、効率と利益を求められる価値観の企業という狭間で悩み始める。リアルでオリジナルな描写が絶賛された、新人監督の挑戦作だ。

はじめて社会に出た日。希望と理想に心をふくらませる青年。エリートばかりの職場の一員になり、自分も大きなチャンスを掴もうと思っている。しかし現実は違った。初めての仕事は工場の解雇リスト80名分の作成。社員を面接してみるものの、対象となるのは弱い立場の人ばかり。その上、仕事内容を恋人エヴァに否定される。仕事を辞めようか悩むが、苦労して手に入れた今のポジションをたった3ヶ月で降りることもできない。そして心を鬼にして、仕事を着手することにした。工場員の批判は絶えないが、自身の保身を覚えていく青年…。そして良識ある青年は、徐々に会社の「ワークハード・プレイハード」という精神を受け入れるようになる…。

会社を存続するためにリストラを決断する人、リストラ要員を選ぶ人、リストラされる人……それぞれの立場に正当な思いがあり、誰が正しいわけでも間違っているわけでもない。この作品では、その事実に対して肯定も否定もせず、葛藤しながら変化していく青年像を描いている。筆者の普段の人間関係でも、大きな組織に入って、組織と個人の見識の違いに悩む人を多く見てきただけに、この青年像がとてもリアルに見える。そして、作品では、この変わっていく青年への判断を観るものにゆだね、解答は自分自身で出してください、と語りかけているようだった。観た後にどんな感情が残るかで、自分自身の価値観もみえてくる、奥の深い作品だ。

父と息子たち

2004年06月16日 20時00分00秒 | フランス映画
2002年/97分/カラー
監督:ミシェル・ブージュナ
脚本:エドモン・バンシモン、ミシェル・ブージュナ
出演:フィリップ・ノワレ、パスカル・エルベ、シャルル・ベルリング、ブリュノ・プズル

レオは一家の年老いた父。彼は今や気持ちがバラバラになってしまった息子3人の愛情を取り戻すためなら、何でもしたい気になっている。ある日彼はちょっとした病で倒れた。それをいいことに、心配する息子たちに重大な手術が必要なんだと嘘をつき、その前に皆で旅行に行きたいと願う。さすがの息子たちも同行を断れなかった。かくして父と息子たちはカナダに旅に出るが…。

『赤ちゃんに乾杯!』などで知られるベテラン俳優ミシェル・ブージュナの初監督作品。彼はこの不協和音を奏でるカルテット(4人の家族)の見事な指揮者となっている。はじめはバラバラでどうなる事かと思った家族が、ぴりりと効いたユーモアと、温かい眼差しという魔法の指揮を持ってして、見事なハーモニーに変えられていく。家族は時にすれ違うことがあっても、お互いが向かい合って時間を過ごすことで、いつだってまた愛し合うことができるのだと気がつかせてくれる作品である。

父親レオの、垂れた目、丸い鼻という外見もさながら、息子達への奮闘ぶりがあまりにも可愛い。「クジラを見にカナダに行く?シーズンオフだよ。」という言葉には、「絶対いるのー!」と無理に押し通す。薬をこっそりチョコレートに変えて、息子達の前でいかにもなフリをして飲む。療法士の所に連れて行かれたら、大樹に巻きついたり、気を受けたり、怪しい治療もなんのその。時に子供のように駄々をこねたり、時に仙人のように悟ってみたり、レオの魅力だけで惹きつけられるものは充分。その上、個性の違う息子3人の織り成す兄弟喧嘩や助け合いは、身近に感じられて頷けるものばかり。「おまえはいっつもスープを音を立てる。こうだ、こう。」「えっ、こう?」「そう、いいね。」なんて、彼らが確実に家族だと認識させ、言葉に出さない温かさが伝わってくるのだ。フランスで100万人も動員させたというのも頷ける、必見のヒューマンコメディだ。


フランス映画祭2004 作品レビュー

2004年06月16日 09時27分11秒 | フランス映画
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