風立ちぬをみました。
素晴らしいの一言でした。
弟に送った感想を書き直したものです。
これは私の主観による感想と考察なので実際の解釈のものとは異なる場合がありますが、ご了承ください
そしてネタバレを多いにしています。
戦争が始まる中の行き詰まったノスタルジックな時代を抽象的な夢や空のロマンを交えて中和させつつ、生きることの大切さを説いているスタンスはやっぱり宮崎作品。
ひとつのものに没頭する不器用さと、最初あった時はそれほどでもなかったにもかかわらず「帽子をとってくれた時から愛してた」とかいう都合いい卑怯さが男性としてのリアリティが出てる。
夫婦の会話も、もののけ姫のカップル(アシタカがサンにアプローチするシーンが多かったので若さゆえのギラギラした性的な色気があった)とは違った生々しさと情緒がこの作品の魅力の要だとおもう。
戦争中で人種や日本人同士でもギスギスしている背景をだしつつ、主人公たちの周りは人としての尊厳を失わない人たちばっかりでそれもまた尊い。。。
綺麗な所だけみせて、ラストの夢の中で日本が負けて菜穂子はずっと前に死んでるっていう、夢から覚めたらボロボロの二郎の状況をさりげなく伝えてるものまた表現がとてもとても上手い。
戦後が終わってからも二郎はずっと生き続けてなんなら後妻とかもらって(二郎は多分そんな男)生きていくんだろうけど、若かりし頃の綺麗な思い出として残っていくんだろうなというのがよくわかる。
良い飛行機を作りたいってつくったものが、多くの日本人を死なせたっていう悲しさもちゃんと表現している。あの二郎の「一機も戻ってきませんでした」という言葉は淡々としているけど日本人としてきくと刺さる。
メインは二郎の飛行機作りだから出てこないのは当たり前だが、クライマックスに出てくる菜穂子の存在感がすごい。他の作品に比べたらさりげない描写ばかりなのにドラマチックに表現している宮崎先生は流石。駅で出会うシーンとかマジで上手いよなぁ。
結婚式のシーンからひたすらに泣いていた。三男がティッシュで涙をふいてくれた
黒川夫人の「綺麗なものだけ 好きな人にみてもらったのね」で号泣。な、菜穂子ーーーーーー
二郎は結局己の夢しか愛せない男。二郎は確かに菜穂子を愛しはしたけど、(特高に目をつけられたというのもあるが)飛行機を設計することがなによりも大切。だから菜穂子の前でタバコも吸える。
では、菜穂子は不幸せだったかというと、女としてみると菜穂子はとても幸せだったとおもう。子どもの時に白馬の王子様と思った人と奇跡的にであい、病気の身の自分をうけいれてくれて愛された。最後まで菜穂子にとって二郎は白馬の王子様だったとおもう。
菜穂子の大人な所は、二郎は自分だけを愛しているわけではないということをちゃんとわかっていることだ。二郎が自分ではなく絹に気があることも知っていて(菜穂子は子どもだったのでその時に好きになるのもどうかとおもう)プロポーズの時に「帽子をうけとめてくれた時から」という二郎の嘘に「風があなたを運んできてくれた時から」という あなた意識するよりも前に好きだった、と暗にいっている気がするのだけど、気のせいかな。
傘を受け取った時よりも、すでにその前から二郎が同じホテルにとまってるって気づいてたよね?
(もしかしたら、菜穂子が実際に意識したのが軽井沢で傘を受け取ってくれた時でそれまで二郎は絹にとっての白馬の王子様だったとしたら、「風が運んでくれた時から」のセリフがまた違った意味になるなぁ。それも面白い)
でも、二郎は夢のことしか考えないダメな男かというとそうではない。
子どもの時は下級生を身体をはって守ったし、下心もあるかもしれないが絹を助けてあげたし、子どもにシベリアをあげようとした。彼は優しさや自分よりも弱い者を守ろうとする人として大切なものをきちんともっている。菜穂子が二郎に惹かれたのもそういう所じゃないかとおもう。
そして、そんな男が夢をおいかける姿にノックアウトしたのだろう。夢を全力でおいかける男は本当にカッコイイ。布団の中で仕事をしている二郎をみていた菜穂子は幸せだったとおもう。
「うつります」「綺麗だよ」のシーンも私はいいとおもう。体調崩して寝ている姿って健康な時よりも美しくはない。でも、そんな弱った彼女を綺麗っていえる二郎は、やっぱり菜穂子の存在そのものを愛していたんだと思うなー。
個人的に、震災の時に菜穂子が自分の荷物をもたずに二郎の荷物を運んでいるシーンがすごく好き。
宮崎作品の好きな所は、男性はみんな包容力があって女性はみんな自立している所だけど、菜穂子もそんな自立した女性なのがわかるシーンだった。
映画をみてから主人公の声をした人をしったのだけど、あまり違和感はなかった。確かに最初は ん? と思ったし もっと感情をこめてもいいのでは とおもった時もあるけど、飛行機しか興味のない悪く言うとオタクっぽい人の喋り方ならこんな感じだよなーと。
宮崎映画は映像をみなくても、セリフだけでどんな気持ちでいっているのかがありありとわかる。目をとじて声だけきいてキャラクターの気持ちを考察したりするのが好きだ。どのキャラクターの声も自然で耳障りがいい。そしてその声質や喋り口調でどんな人間性なのかがわかるのが凄い。
みんな好きだけれど、西島秀俊さんと野村萬斎さんが特に凄くよかった。もう、声だけでその人のすべてがわかる。本庄のせっかちだけど人情家な所とカプローニの飄々としているけど愛情深い人間な所が実際の役者さんのイメージとも重なった。
そういう意味では、常に机にかじりついている仕事の庵野監督が二郎の声でよかったのかも。
黒川夫婦がいい。西村雅彦さんのなんだかんだいいながらも面倒見のいいキャラクターがいいし、そんな夫をうまく転がしながら妻として女として菜穂子の気持ちを一番理解している黒川夫人の愛情の深さがなんか、もう、いい。
カストルプいいよねー。さりげなく二郎と菜穂子の恋を見守っているところ、好きだ。そんな人が自国の政権をうれいている所にやるせなさをおもう。そうなんだよ、みんながみんな戦争に賛成しているわけじゃないんだよ。嫌なんだよ。「この夏いい夏です」が切ない。
淡々とした中でドラマチックでよく計算されて美しい、とてもよい作品だった。引退作品とのことだったけれど、個人的にそれにふさわしい作品だったとおもう。音楽も相変わらず素晴らしい。久石先生マジすごい。日本の宝だ。
ラストの菜穂子の「生きて」が印象的でとても美しかった。よかった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます