先日ヘアエピテーゼ協会の前理事長・木野高宏さんが、季刊誌「なのはな通信」の取材を受けました。
ウィッグを必要とされる方、またウィッグを取り扱う方々にも大変参考になる話が満載です。
ぜひお読みください。
季刊誌「なのはな通信」より↓
抗がん剤治療などの影響で髪を失った方に、医療用ウィッグ「ヘアエビテーゼ」を用いて 治療中でも自分らしくありたいという思いに寄り添い、専門的な研修を経て認定される再現 美容師。見た目だけでなく心のケアについてもサポートできるよう、日々研鎖を積まれている美容室アンジェリークオーナー木野高宏氏にZoomインタビューいたしました。
木野高宏氏のプロフィール
19xx年 静岡県浜松市出身
20xx年 美容室「アンジェリーク」で医療用ウィッグの制作を開始
20xx年 ヘアエビテーゼ協会会長
20xx年 ヘアエビテーゼ協会講師
【再現美容師を目指したきっかけについて教えて下さい】
きっかけは十数年前になりますが、私の伯母が白血病になり、治療のため脱毛した姿を見 た時に大変なショックを受けたことでした。伯母は私にとってとても大切な存在でしたので、 美容師として何か役に立ちたいと思い、NPO法人「日本ヘアエビテーゼ協会」が運営する 「かつらの学校」で医療用ウィッグのノウハウを学び再現美容師の資格を取得しました。とにかく早く伯母にウィッグを作ってあげたかったのですが、残念ながら伯母の為にウィッグ を作ることは叶いませんでした。患者さんたちにウィッグを作ることを、きっと伯母は見守っていてくれるだろうとじています。
【美容室について、またどのくらいの患者さんにウィッグを制作されましたか?】
JR総武線の本八幡駅(千葉県市川市)から徒歩約5分の所に、一軒家風の「美容室アンジ エリーク」があります。一般のお客様と顔を合わせることが無いように、ウィッグのお客様は2階の個室にご案内しています。窓はありますが外からは見えないので、脱毛時でも安心してウィッグのカットや調整を受けて頂けます。お客様からは隠れ家のようで落ち着く、少しずつ気持ちを解放しながら、色々な悩みや普段話しにくいことを話せると好評です。 また、銀座にも店舗(シェアサロン)があります。遠方から来られる方にはアクセスが良い銀座店をおすすめしています。 再現美容師としてウィッグの制作を始めて15年程経ちました。日本全国から患者さんが来店して頂き、これまでに1,500人程の患者さんにウィッグをお作りいたしました。
【医療用ウィッグの必要性や工夫している点、心がけていることを教えてください。】
皆さまにとってウィッグというのは、単にヘアスタイルのことだけを考えると思うのですが、私たち はお客様がウィッグをつけて生活することを想像 し、その方が置かれている立場や日常の背景まで理解して作ることがとても大切だと思っています。
例えばその方が母親という立場であれば、お子さんやご主人から見て「いつもの元気なお母さんでい てほしい」という思いが必ずあります。ウィッグを作る時には当店の個室に一家総出のご家族でいらっしゃることも多いのです。
患者さんご自身の希望やお気持ちが最優先ですが、治療が始まってもいつものお母さんでいてほしい、ご家族も患者さんご自身もそう思えるためにウィッグは必要であり、その方がご家族の中でかけがえのない存在とされていることを思い、自分もそのご家族の一員になったかの様に力が入ります。
当店で扱うヘアエビテーゼは、ベースとなるウィッグをご自身で付けて頂きご希望を伺いながらカットを進めていくという特徴があります。
最初はまだ脱毛していない状態なのでどうしても違和感はあるのですが、脱毛の状態に合わせてウィッグを縫って頭の形にフィットするように調整し、形状記憶の施術をして級いカーブを付けます。
段階を進めていく途中に一度ご自宅でシャンプーをして頂き、ご自身の普段のシャンプーのやり方を経た状態できれいに整えられるように、最終カットとフィッティングを行います。
仕上がりが近づくとご家族からも「お母さん、すごく素酸!病気がわかる前よりも今のウ イッグの方がいいね!」と言って頂けるほどに喜んで頂いています。これまでと変わらない雰囲気でその方に生活して頂くために、段階的に丁寧に作っていくことを大切にしています。 そしてやはりいちばん心がけているのは、患者さんの不安を安心に変えてさしあげる”ことです。
最初のカウンセリングの際にまずはじっくりとウィッグに関わることだけでなく、病気が見つかった経緯や治療についてなど、色んな不安を抱えていらっしゃるお気持ちをご本人から聞かせていただいています。
様々な気持ちを共有することからスタートして、徐々にウィッグの作成・調整 とウィッグをはずすための自毛デビューまでの約1年~1 年半程の期間のスケジュール、治療の影響を受ける髪の変 化について具体的なイメージやサポートの流れを説明しながら「髪に関してはお任せください、しっかりサポートさせていただきます。ご安心ください。」とお伝えします。
不安が和らいで笑顔になっていただけるよう、ちょっと したお顔の表情も見逃さないように心がけ、どのようにお伝えすれば安心していただけるかを、その方の状況に合わせて接し、お気持ちに寄り添いながら元のスタイルに近づけることが出来るよう工夫を重ねています。 その一つがウィッグに前述の形状記憶の技術を取り入れて自然なスタイルが作れるようになったことです。
少しずつ形づくられていくと、患者さんがだんだんと笑顔を見せて下さることが我々の喜びに繋がります。 また、ちょっとした質問などにもすぐにお答えできるようLINEを活用しています。脱毛する前の髪型の写真を送って頂いたり、予想より早く脱毛が始まった等のご相談、自毛デビ ュー前の状態を写真で確認させて頂くなど、話では伝えきれない事やふとした不安をすぐに解消できるよう工夫を重ねています。
脱毛後に生えてくる毛が縮れてしまうのは、毛穴が緩んで楕円形になってしまうためだと いうことがわかっています。毛穴というのは家の土台のようなもので、毛が抜けたことで丸が楕円形に緩んでしまった土台から生えてくる毛はクセ毛になってしまうのです。治療後に生えてきた癖を矯正することは大変難しいのですが、15年の経験と一般のお客様も含めた結正とトリートメントについて勉強をしたことで、自毛デビューの施術についてはさらに進化出来ていると思います。
私としては、脱毛のためにウィッグを作るというのは、「マイナスをゼロにする」ことだと思っています。患者さんたちは髪のある状態、これまで通りの普通の生活を送りたいだけで、高価で華美なウィッグは必要としていないのです。その思いをしっかり支えて差し上げたいと思っています。
サポートの1年が経った頃にお客様より「おかげさまで助けていただきました。」とありがたいお声をいただきます。
ウィッグを卒業した後でも当店に10年以上も通って下さっている方がとてもたくさんいらっしゃいます。そのお客様方からのご紹介がとても多く、実体験をされた方が「私も助 けてもらった」と紹介して下さるということは本当にありがたいことだと思っています。
【ウィッグ制作以外でのサポート活動について教えて下さい】
以前は、都内の大学病院で「外見ケアイベント」に参加し、患者さんにウィッグを試着し て頂いたりご相談を受けたりという活動を4年間させて頂きましたが、コロナ禍以降、病院内でのイベントが難しくなり現在はその類の活動は行っていません。 また、医療用ウィッグ等がん治療中の外見の変化をカバーする補正具に対して購入費の補 助がないことを残念に思い、ヘアエビテーゼ協会が患者支援の市民活動として署名を集め厚 生労働大臣に請願を行い、私自身も市川市の市議会議員の方に働きかけました。かなり時間 はかかりましたが、徐々に補正具の購入費の一部に対する助成が行われるようになってきま した。市川市や隣接する東京都江戸川区でも助成されており、長年活動をしてきた立場としては婚しい限りです。
【これまでに感動した・嬉しかったことはどのようなことですか?】
美容師という職業はお客様からお手紙をいただくということはあまり無いと思うのですが、 ウィッグ制作に関わるようになってから、本当にたくさんの方から暮しいお手紙やメッセージをいただき、感謝の言葉が溢れるメッセージを読む機会に恵まれ本当に感激いたしました。 ご主人からの「妻が今気で明るく生活できるのも、あの時助けていただいたおかげです。」 とのお手紙や、自毛デビューの日に来られた方からのお手紙には、「普通であることの幸せを 噛みしめています。今日は一生忘れられない記念日になりました。」と書かれていて、どちら もとても嬉しく胸が熱くなりました。また、治療を終えて数年後にご結婚されたということをお客様が報告に来てくださった時は、感慨深い気持ちでいっぱいになりました。 そのほか、テレビやメディアのがん治療に関する特集で、再現美容師としての活動につい て取り上げていただきました。その際はウィッグを制作させて頂いたお客様にもモデルとしてご協力をいただくことができました。
この仕事をして本当によかったと心から思える、素敵な瞬間がたくさんあります。
【これからの将来の目標などについて教えてください】
インターネットで購入できるウィッグは多々ありますが、その患者さんにとって自然で快 適なヘアスタイルを提供することだけでなく、不安なお気持ちを少しでも軽くして差し上げ られるようお一人お一人に向き合ってサポートすることができるのは、私たち再現美容師の なせる技です。「かつらの学校」で学ぶために全国から美容師の方が集まってきますが、ウィ ッグのカットは普通の美容院で行うカットとは全く異なります。カリスマ美容師であることより、患者さんの気持ちに寄り添うことができることの方が再現美容師には適しています。 現在、私は美容師として従事しながら「かつらの学校」で講師をしています。長年培った ウィッグの制作技術はもちろんのこと、患者さんに施術前カウンセリングを行う際のノウハ ウや不安なお気持ちへの寄り添い方について、これから再現美容師を目指す美容師の方たち に伝えていきたいことがたくさんあります。多くの患者さんに接することで得られた様々な 経験を志ある美容師の方たちに伝えていくことが、自分にできる唯一のことであり、これからもがんばっていきたいと思っています。