子供時代、事故に遭遇する可能性は高い。至るところに転がっている。
つまり、誰もが歩いてくる道の上である。歩き始めの頃は遠くがよく見えない。体が小さく、目線が低いことがその大きな理由だが、もうひとつ危ないことの経験の蓄積のなさもあげられるだろう。
親や大人たちは子供らに遠くにいってはいけないという。あぶない場所に近づいてはいけないという。
しかし、言葉というのは我々が習得していく中において理知的なもので、百パーセントの意味を伝えるまではもっとも時間のかかる性質のものである。それも実際に見聞きしてその意味に近づくには言葉と理解のマッチングが得られなければならない。一度ではだめだ。すぐ消える。二度三度の呼び戻しの蓄積を経なければならない。
遠くにいってはいけない、も、危ない場所に近づいてはいけない、も、言葉として伝わったとしても、経験をそれなりの量や質として蓄積させなければ空疎な音の響きだけでしかないのだ。
子供が具体性を伴う言葉から理解に入って行くのはそれゆえである。
この事故のニュースから僕は子供の頃にやったザリガニ獲りのことを思い出した。
小学校二三年時の夏のことで、その頃、僕の家族は大阪に住んでいた。今でこそ、ビルで埋め尽くされている場所であるが、その当時は映画館や市場の前には大きな広場があり、家々のかたまりと家々のかたまりの間には畑や池などが長閑な景色をひろげていた。
よそから転校してきて間もない時期で僕に友達はいなかった。いつも一人で学校から帰ってきていたが、その途中に形のよくわからぬ湿地と池があった。池のへりには草がぼうぼうと茂っていて畑に続く道があった。幅の狭い浅瀬の場所にはなぜか板が渡してあってその上を人が歩いていた。日差しにしゃくれて音のギシギシ鳴る不安定な渡し板だった。
時々、渡した板の上に僕の知ってる子らが集まってきてザリガニ釣りをやっていた。ザリガニは貪欲でカエルでも魚でも何を餌につけても食いついてくるという。共食いの習性もあるのか、釣ったザリガニの切り身をつけてもそれにくいついてくる。ザリガニは面白いように釣れるらしく、彼らははしゃいでいた。
近づいていくと嫌われるから、僕はその様子を遠目にながめていたのである。
母が内職で使っている糸をもらって僕はその池へ時々出かけていった。糸を切ってもらう時、母は何に使うのや、と聞いてきた。池でザリガニを釣るのだと僕は答えた。母は怪訝そうにしながら、危ない場所に近づいたらあかんで、と言って
糸を切ってくれた。
池に出向くと僕の近所の子が先にきてザリガニを釣っていた。クラスは違うが同じ学年の子だった。彼のおかげで僕はカエルをつかまえずにすんだ。彼の方から話しかけてきてザリガニの切り身をくれたからである。
それから彼と一緒にザリガニ獲りに出かけていくようになった。だが、それは短い期間だった。彼は家族で広島へ越していったからである。
近所の長屋はしょっちゅう引越ししていく連中や引越ししてくる連中で騒々しかった。戦後やっと十年が経った頃で、世の中の人たちは生活のために引越しを繰り返していたのだ。
彼がいなくなって僕は弟をつれて池へ出かけていくようになった。その夏は弟相手のチャンバラとザリガニ獲りで明け暮れた。
しかし、秋を迎えると僕らも急に山奥への引越しが決まった。僕らのザリガニ獲りもそれで終わった。
あんな不安定な渡し板の上からよくもザリガニ獲りに熱中したものだと今にして身震いさえ覚える。
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