JEWEL BOX KDC!!

軽井沢学園を応援する会 会報 ストリートパズル18号より

毎回泣けてしまいます、このシリーズ。
軽井沢学園はこのたび佐久にグループホームをオープンしました。
この文章の最後に書いてありますが「佐久のみなさんに受け入れて頂けるか・・・」ということがとても心配だそうです
学園で育つ子達は「たまたま家庭で暮らせないというだけの普通の子達」。
なので地域で、みんなで育てる、KDCやここみゅの子達と変わらないと思います。
佐久はそんな温かい地域でありたい、と私は思います。


‐園の庭をはきながら‐

願い~新たなステージに向けて~

たかねっち☆
 AM5:50。気温-8℃。昨日よりは5℃ほど“暖かい”1月半ば星のまたたく軽井沢の晴れた日の朝、白い息。出勤すると、学園の長い廊下には宿直の保育士が5時に点けてくれた火力の強い石油ストーブが、オレンジ色の炎を照らしながらゴーゴーと音を立てて園内を温めています。
ガラガラガラ。私は30数年の月日により建付けが悪くなったこども部屋の引き戸をなるべく音をたてないようにそっと開きます。部屋を開けると、こどもたちの体温から発せられる生温かくて独特の匂いが立ち込め、8畳和室の中でコタツに体を半分入れている子、背中を丸め頭から布団をかぶっている子など、別々の方向に頭を向けながら寝息を立てています。私は部屋の明かりを点け、静かに「おはようございま~す。朝ですよ~~」と、ひと言だけ言ったらカーテンを開けて次の部屋へ移動します。・

・・・およそ70年前から集団生活を繰り返してきたここ軽井沢学園には、現在こども部屋が14部屋あり、6畳~8畳の各部屋にこどもたち1~3人ずつ入って暮らしています。3歳から18歳のこどもたちはそれぞれ学校や幼稚園へ通いますのでAM7:00の朝食までに職員4~5人で全員を起こさなければなりません。ちなみに私の“受け持ち”は就学前の幼児を除く男子全員です。受け持ったこどもを時間どおりに起こすことが出来ずに、ましてや遅刻などさせてしまうと、それは自分のせいと責任を感じてしまうため、朝はまさに時間との戦いとなるわけです。これは、若い職員にとっては相当なプレッシャーであり、私自身も就職当時は、こどもになかなか起きてもらえず、主任保育士や先輩の目を気にしながらアタフタ走り回ったものです。

ひととおりこども部屋のカーテンを開け終えたら、次はトイレ掃除とゴミの回収分別です。その間も時折こども部屋を覗いては軽く声掛けをしますが、まだ寝かせておきます。そうこうしているうちにAM6:40。さあ、ここからが本当の勝負です。世のお母さんたちも寒い朝は我が子を起こすのにご苦労されていると思いますが、正直申し上げますと、私はこれが大変得意です。大声を張り上げたり、布団を無理やりはがして起こそうとするのではなく、こども一人ひとりの性格や眠りの深さ、更には当日の気候や昨日の出来事などを念頭に置きながら、毎回起こし方を微妙に変えるのです。これは、私が長年培ってきた数少ないノウハウのひとつと言えます。もしも『こども目覚まし選手権』なるものが存在したら、きっと私は、下位入賞くらいは果たせます。そのくらい自信があります。えっ?起こし方の秘訣ですか?それは企業秘密(笑)であるため割愛させて頂きますが、要は、朝の限られた時間をフルに活用し、如何にしてこどもが心地よく目覚めることが出来るのかを考えることです。そして、こどもを大人(自分)のペースに当てはめようとするのではなく、こどものペースに自分が合わせるというスタンスが肝心ではないでしょうか。以下、ある小学生部屋でのやり取りです。

高根:「おはよー、今朝は-5℃ですよ~。超々寒いけどみんな頑張って起きようね~」
「太郎君はもう起きれる?もう少し寝る?」
太郎:「う~ん、もうちょっと寝る」
高根:「わかった、じゃあまた後で来るね」
次郎:「たかねっち~ボク起きるから布団片付けて」
高根:「はいよ~」「三郎くんは?起きれそう?」
三郎:「ダメよ~ダメダメ、ダメよ~ダメダメ〈繰り返し〉」
高根:「・・・・・。」
太郎:「ハハハハ、三郎バカじゃね」「たかねっち~今日の服選んで」
高根:「おっ、太郎君もう起きれるの?やるじゃん!!」

朝からふんわりとした気分になります。そしてAM7:00。皆が食堂に集まったところで両手を合わせて「いただきます」。その後は、歯を磨き、トイレに行って給食着や連絡帳など忘れ物がないか確認してからこどもたちを学校へ送り出します。

このようにして学園の一日がスタートするわけですが、毎日がこの繰り返しです。ドラマチックな部分なんてどこにもない、何の変哲もないごく普通の暮らしぶりです。
そもそも“児童養護施設”に住んでいるこどもは特別な人達ではありません。“妖怪ウォッチ”や“アナ雪”が大好きな至って元気なこどもたちです。勉強が嫌いで、いたずらもします。気に入らなければ悪態もつくし、嘘もつきます。晴れた日や雪の日には外で飛び回り、皆で缶ケリをして遊んでいたかと思えばケンカしてみたり、調子に乗りすぎて叱られることもしばしば。かと思えばベタベタと甘えてみたり、褒めてもらいたくて手伝いも沢山してくれます。そんな、子供らしいこどもばかりです。唯一特別な事といえば、大人側の都合や事情によって親と離れて暮らしているということくらいでしょうか。もちろん、大好きな母親と離ればなれになって楽しいはずがありません。昼間はあんなに元気に振舞っていたのに、夜な夜な淋しくなって大人を求めてメソメソ園内を徘徊することもありますし、ボクなんか生まれてこなきゃ良かったんだと自らの存在を否定的に捉えてしまう子、不適切な養育や暴力によって心に受けた深い傷や悲しみ、怒りといったマイナス感情や、満たされぬ想いを抱え生きている子も少なくありません。事実そんな一面もありますが、でも皆普通のこどもです。悲しいこともあるけれど、ここではみんな元気なのです。

余談になりますが、現在学園には公用車(社用車)が3台あります。通常、社用車のボディには社名やロゴなどがペイントされていますが、学園公用車にはそのようなペイントは施されていません。理由は一つです。こどもたちが嫌がるからです。10年くらい前まではペイントされていましたが学園の文字が入った車で学校に迎えに行くと、こどもに「恥ずかしいから来ないで!」と怒られたものです。また、自分の家が学園であることを卒業するまで隠し通した高校生もいました。学園にいることを恥じないで欲しいという職員の願いとは裏腹に、人と違うことを恥ずかしいと思う思春期特有の気持ちもよくわかります。こどもにとってはこの場所で暮らしていることは、大人が思う以上に重大な問題であり、決して周囲から特別な目で見られたくはないのです。
ところが現実は違います。学校や地域などからは、良くも悪くも「学園の子は・・・」「学園だから・・・」と“ひと括り”で呼ばれてしまいます。皆さんに全く悪気がないことは知っていますし、事実学園の子です。しかし、面と向かってそのように呼ばれるこどもたちは一体どう感じているのでしょうか。集団生活の一員であっても、一人ひとりは全く別の意思を持った人間であり、境遇は違えどこどもの“本質”そのものは、家庭で暮らす子と全く一緒なのです。

終わりに、来月私たちはグループホームという形で慣れ親しんだ軽井沢の地を離れ、新天地佐久市へと第一歩を踏み出します。5人のこどもたちと数名の職員による新しい生活です。地元の学校に通い将来はそこから巣立っていくわけですが、はたして地域の皆さんから歓迎してもらえるだろうか、うまく付き合っていけるだろうか、正直不安で仕方がありません。もちろん私たち自身少しでも早く地域に溶け込めるよう努力していくことは覚悟の上ですが、佐久市の皆さん、どうかこの子たちを優しく見守ってください。どうか特別な視線ではなく“ちょっと子だくさんなうち”という感じで気軽なお付き合いをさせて下さい。私の切なる願いです。
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