選挙戦は、あとわずか。
「そんな選挙のやり方で通るわけがない」「お前はバカだ、勝つ気が無いのか」というお叱りのお声もいただいております。
本人はいたって真面目に、人にお会いしたり、電話をかけたり、こうやって政策をつづったりしているのですが、何しろ前例の無いことで、そう言われるのも仕方ないとは思います。
自分でも、これで当選するのか皆目わかりません。
けれど、私が市民として議員に望むのは、こういうやり方です。
同様に考えておられる方が、きっといらっしゃると信じて最後まで戦い抜きます。
ぜひ貴重な一票を、お預けいただくよう、あらためてお願い申し上げます。
毎日1分野ずつご披露してきた私の政策も、残り2つ。
今日は「空き家」についてです。
■6-1:市内の7軒に1軒以上がすでに空き家です。
荒れた農地(政策4)、伐られない山林(政策5)のと同じように、市街地では空き家が増えています。
日本全国、実は東京の都心部ですら、コロナ禍以前からずっと空き家が増加しています。
けれども、南アルプス市では全国平均や市町村ごとの平均を大きく上回る勢いです。
市役所のアンケート調査では、空き家は市内に数百軒しかないものとされ、空き家対策と称して、もっぱら空き家バンクへの登録、あるいは主要道路沿いで崩壊の恐れのある住宅への対策が行われています。
しかし、じつは南アルプス市内には、4420軒の空き家(別荘などの二次的住宅を除く。2018年現在)があり、全体に占める割合は14.6%だということが国の調査で分かっています。
つまり、すでに7軒に1軒以上が、使われていない空き家なのです。
さらに、空き家の中の6割にあたる2610軒、住宅全体の8.6%(12軒に1軒以上)は、借り手も買い手も探していない棚ざらし状態にあります。
■6-2:なぜ空き家は増え、棚ざらしになるのでしょう。
市役所のウェブサイトには、空き家バンクとして現在12軒の空き家が載っています。これまでの成約数は、およそ10年間に100軒足らず。
有意義な施策ですが、数字でお見せしたように、空き家全体から言えば、ごくごく一部です。悪化する状況には歯止めがかかっていません。
一方で、市内にUターン・Iターンしたい、と家を探している方は少なくありません。
そういった方々が口を揃えて言われるのは「物件が見つからない。空き家バンクを見ても、地元の不動産屋さんへ行っても、すぐ住める状態の家はほとんど出てこない」という悩みです。
なぜこれほどまで、空き家が増えているのに、不動産市場にはほとんど出てこないのでしょう。
5つほど、理由が考えられます。
(1)地価の下落。
まず、バブルのころの地価を思い出すと、こんな値段では売れない、という気持ちがぬぐえない方がいます。
(2)相続事情の変化。
かつて、実家は長男が継ぐものとされました。しかし今は、きょうだいで共同相続するケースが多く、意見が分かれて売ることに踏み切れない、という方がいます。
(3)書類の不備。
登記・権利書・確認済証・修繕記録・境界に関する覚書など、古い家では記録や書類の不備があり、返済の済んだはずの抵当が外れていないこともあります。これら書類の不備のために売買できないケースも案外多いものです。
(4)整理不能な家財。
昭和を通じて家の中のモノが爆発的に増え、ガレージや納戸はおろか、居室内までモノであふれかえったままの空き家。亡くなったおじいおばあが大事にしていたものだから、全部捨てるのは忍びない、けれど要るものと要らないものを分けるだけでも途方もない手間がかかる、とモノの整理がハードルになっている空き家は、かなりの数にのぼります。
(5)売ってはいけないという親の教え。
バブル以前は、ながらく地価は上がるものと考えられていました。いわゆる土地神話です。そのため「けっして売らず守るように」と子孫に言い残す方が多く、その教えを今も守って空き家のままになっているものが、とくに山梨では多いようです。
■6-3:空き家をほぐす仕組みが必要です。
国は、悲惨な状態になった空き家への対策として、市町村が危険な「特定空き家」と指定したら、固定資産税を最大6倍!にできてしまう「空き家特別措置法」を施行するなど、空き家対策を進めているとしていますが、これはせいぜい、空き家問題の終着駅をつくっただけのことです。
空き家問題をコントロールするためには、まず空き家が「特定空き家」にならないようにする仕組みの方が大切です。ちょうど、畑の果樹を伐ってしまう前に、担い手を探すのと同じですね。
固まってしまった空き家問題を、やわらかく揉みほぐし、新陳代謝させるのです。
それによって、不動産市場も流動化し、売買や賃貸の取引が活発になります。
売買でも、従来の賃貸でもなく、借地借家法で22年前に定められた定期借地権・定期借家権に基づいた契約によって、家を売るな、という教えを守りながら、資産の有効活用を図ることも可能でしょう。
まず大切なのは、空き家が「資産」から「負債」に転落するのを防ぐことです。
木造の空き家は、放置すれば普通3年ほどでその多くがシロアリやカビに侵され、住宅としての価値を大きく落としてしまいます。
締め切った無風の室内では、シロアリの作る塔「蟻道」が、背丈ほどになっている風景に出くわすこともあります。
土台が食べ尽くされ、宙に浮いた柱も珍しくありません。あまりにも酷いと、解体するしかなくなり、解体費用分の「負債」となってしまいます。
ただし、時々窓を開けて風を通してやったり、強風でずれた瓦を直してやったりという最低限の手入れをするだけで、価値の下落をある程度防ぐことができます。
ご近所から見た空き家も、同様です。
放置空き家は、雑草・悪臭など衛生環境の悪化、不法侵入や火事など治安の悪化、ブロック塀や建屋の崩壊による事故など、次第に地域内の頭痛の種となってゆきます。
たとえば最低限の草刈りや安全確認が行われるだけで、これらのリスクを抑えることができます。
もし解体がもっと安くできれば、解体して更地にして売りたい、使いたい、というニーズは確実にあります。
そこに補助金制度を導入することもひとつの方法でしょう。
もちろん、リノベーションやリフォームで空き家をよみがえらせ、投資した金額以上の価値をもつ資産にすることもできます(本稿の最後に、実例をお見せします)。
ただ、リフォームは新築に比べて融資が認められることが少なく、すでにある市の補助金制度も、使い勝手がわるい点は否めません。地元の金融機関には、ぜひリバースモーゲージ融資によって所有者がバリアフリー住宅にリフォームした上で、自ら住まう選択肢を、整備していただきたいものです。
これらの方法は、あくまでミクロなものです。4000軒以上あり、今後も増える空き家を市単位で何とかするためには、もう少し大きなスケールの積極的な施策が必要です。
■6-4:縮小時代を乗り切るためのまちづくり。
空き家の問題は、南アルプス市が抱えるたくさんの社会問題の「交差点」に位置します。
空き家の流動化・新陳代謝と、人口減を食い止めること、市外からやってきて滞在する方に観光などの経済活動に参加してもらうこと、さらには福祉、防災などの問題は、つながっています。
空き家だけに視野を狭めず、多くの分野で連携しながら取り組むべき課題なのです。
それによってはじめて、縮小時代を乗り切るためのまちづくりが可能になると考えます。
とはいえ、このプロジェクトをうまく動かすには、市役所だけでは到底無理です。
そこで、行政と民間企業の中間的枠組みが必要になります。
工務店やデザイナーが、効果的・経済的なリノベーション実例を現実として見せ、メディアや広告代理店の力も借りて、求める人に届いて、しっかり刺さって訴求する広報戦略を立て、広く発信する。そして、行政や地域の銀行が手を貸せる、適切で無駄のない制度を用意する。このサイクルを回していくことです。
新築住宅の開発とは別に、こうした空き家対策をしっかり進めていくことで、はじめて南アルプス市の持続可能性は保障されます。
20年先、50年先を見すえた、まちづくりのビジョンをみなさんと共有し、未来を切りひらいていきましょう。
■6-5:空き家リノベーションの実例
最後に、市内の空き家を、私が設計してリノベーションした例をお見せしましょう。
この住宅は、40年前に建てられ、最後にお住まいだった方が亡くなってからは、10年間空き家でした。しかし、息子さんが1か月に1回、必ず東京からやってきて風を通していたため、痛みの少ない状態だったのです。
とはいえ現代の設計に比べるとヒノキの柱も細く、地震に対する耐力には問題がありました。耐震補強が必要と考え、まず床を全て解体し、基礎のコンクリートを打ち増ししました。あわせて、水回りについても全て更新しています。
新築以下のお値段で、新築以上の価値を手に入れることができるリノベーションは、空き家問題をプラスに転換し、市内経済をさらに活性化させるカギになりえます。これからも実践していくつもりです。