多くのメールやコメントを頂戴しています。
ご返答が間に合わず申し訳なく思います。
本当にありがとうございます。
ひとりで風車に突撃する変人ドン・キホーテのような選挙戦を戦っておりますが、みなさんの応援のお声で、孤独な思いをせずに済んでおります。
あまりにも地域の常識からかけ離れたやり方ですので、当選できるかは全くわかりません。
けれど、こうした戦い方が、みなさんの「南アルプス市は今のまま永遠に変わらない」という悲しい思い込みに、「風穴」と言わないまでも「アリの一穴」を開けることができたなら、きっと無意味では無いはず、そう思って最後まで頑張ります。
どうか応援のほどよろしくお願いいたします。
私が「今のまま永遠に変わらない」なんてありえないですよ、それは幻想です、と言うと、みなさん揃って不思議な顔をなさいます。
そもそも、人の集まりで永遠に変わらないものなどありません。人口減少・少子高齢化社会ではなおさらです。
市という枠で言えば、岩手県知事や総務大臣を務めた増田寛也氏らが6年前発表した「増田レポート」では、日本全国の自治体のうち、半分が人口減で存続できなくなって消滅する、と結論されていました。
要は、20代・30代の若者が25年間に5割減ったら、もうその市は自治体としては存続できないということです。
現時点で、財政指標のいくつかがが、山梨県内で多少マシであろうと、「南アルプス市がずっと存続できる」根拠にはならないのです。
そろそろ本気で地域を変えないと、南アルプス市も、消滅する側の半分に入ってしまいます。
今なら、まだ間に合います。
いっしょに時計のネジを巻きましょう。
さて、毎日アップしてきた政策も5つ目になります。
今回は、あまり政策では取り上げられない、「山林」について。
■5-1:さかさまのシルクハット、衰える林業。
「甲府は盆地である。四辺、皆、山である」
太宰治の『新樹の言葉』はこんな書き出しで始まります。
「よく人は、甲府を、『擂鉢(すりばち)の底』と評しているが、当っていない。(中略)シルクハットを倒(さか)さまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた、それが甲府だと思えば、間違いない」
この描写は、甲府の文化を形容すると同時に、甲府盆地の「縁」にあたる山々が、他の盆地よりもはるかに高く、急傾斜のまま平地にぶつかっている様子を看破しています。
逆に言えば、甲府盆地は盆状の地形に、山からの土砂が集まり積もって、なだらかな元の山すそを覆い隠した結果、急傾斜の山容が、市街地のすぐそばにそびえたっているということです。
こうした標高差と急傾斜は、木材のコスト競争においてハンディキャップとなり、山梨県の林業は、昭和50年代以降、急速に衰退しました。
南アルプス市の山にはヒノキをはじめとする良材が大量に伐期を迎えていますが、その伐採計画は思うように進んでいません。
枝打ちや間伐すら滞り、間伐した樹がそのまま山に放置されているような風景さえ、珍しくない時期もありました。
■5-2:山と川はいずれ再び牙をむきます。
山に背を向けた自治体経営が続いてしまうと、地元から林業家がどんどんいなくなり、製材所も廃業するところが増えていきます。
いきおい、手入れされない山がますます増えていくことになります。
きちんと手入れされた人工林は、木漏れ日で明るく、下草も茂っていて、表土の流出を防いでくれます。また水を一定時間キープして水害の発生も防いでくれています。
しかし、手入れされないと、暗い森となり、草木の根が張らず、土は痩せます。このような山は風雪害に弱い上、ゲリラ豪雨や台風などがやってくると、根が水を吸わず、土砂崩れが発生しやすくなります。水が沁みとおらず山肌を流れ落ちるため、ますます土も痩せてゆきます。
南アルプス市では、里山でも急傾斜が多いためこの傾向が強いのです。
50年後、100年後を考えると、南アルプス市において、最も警戒すべき災害は、土砂災害・水害です。
有史以前、縄文の昔からずっと、信玄公の時代もそうであったように、ですね。
幸いこれまでのおよそ100年は、先人の努力で土砂災害・水害を何とか抑え込むことに成功してきました。でも、それは長い災害の歴史の中ではごく短いひとときだった、後世はそう評するかもしれません。
火山や地震の災害対策は、市街地内である程度行うことができますが、土砂災害・水害は広範囲の対策が必須です。
おまけに、土砂災害によって水害対策の前提が破壊されると、土砂災害×水害の複合災害となってしまいます。
しかし、今後日本経済が縮小を余儀なくされる中で、山と川に対する対策の予算は、国・県とも長期的には縮小せざるを得ません。
土砂災害・水害のリスクは、静かに、しかし確実に大きくなってゆくのです。
もちろん、危険個所の法面工事などは、これまで同様行われるでしょう。
けれど、法面の上にある山の手入れまでは、十分手が届いていないのが実情です。
突然、裏の山が丸ごとすべり落ちてくる、そんな日が、このままではいずれやってきかねません。
■5-3:まず、山に目を向けましょう。
静かに高まる土砂災害・水害リスクに対し、市レベルで、いったいどんな対策ができるでしょうか。
まずは、山に目を向けることです。
環境教育の題材として、アウトドアスポーツのフィールドとして、山林を活用しましょう。
たとえば市内の公立保育所や、県内で広がる森の幼稚園等の活動の舞台として、エコパ伊奈ヶ湖とその環境教育プログラムを提供したり。
南アルプスの反対側にあたる伊那市の伊那西小学校をモデルに、学校林の活用を積極的に行ったり。
世界的に注目される、南アルプスマウンテンバイク愛好会・南アルプス山守人の先駆的な活動を支援したり。
継続的な獣害調査・対策を行いつつ、ジビエの商品化に取り組んだり。
ユネスコエコパークの枠組みを、名前だけでなく実質のともなうものとして、太く厚く拡大し、広く発信してゆきましょう。
山をよく見ていれば、手入れされた山とそうでない山の違い、そこに危険な兆候があるか、もしそうならどうすればよいかといったことを、みんなで共有できます。
■5-4:市産材の市内利用、これぞ真の地産地消。
つぎに、最低限保つべき水準の林業・木材加工業務を、市自らが継続的に発注できる、地産地消の仕組みをつくりましょう。
私が携わった庁舎整備事業では、櫛形山のヒノキを伐って、市内の製材所で板に挽いてから、公共工事の材料として支給したり、市内の工務店にカウンターを作っていただく形で使いました。
実は、先行する県庁や甲府市による試みでは、県産材を利用することだけを追求した結果、せっかくの県産材をわざわざ東北地方まで運んで、向こうで加工して持って帰ってくるというような形がとられていました。
しかしそれなら、東北の現地で伐った木をそのまま向こうで加工して持ってくる方が、まだ地球環境のためになるわけです。
おまけに、県外で加工するのでは、地元の産業へのプラスもない。何のための県産材利用だったか、これではわかりません。
そこで私たちは伐採・乾燥・加工・利用を、市の中で完結させ、小さな循環を地域の中に創り出すことを追求しました。
これこそが本来の地産地消です。そして木材の地産は、おなじ読みの治山にも通じるのです。これは「南アルプス市方式」として注目され、「林業やまなし」に載り、林業専門誌の取材も受けました。
今後は、毎年一定量の木を伐ってゆき、乾燥・加工させては、市内の公共施設の内装木質化、学校の什器や間仕切り製作などに使うことを繰り返す、という循環の定着を目指しましょう。
最初のスタートは、小規模なサイクルで良いのです。
材の利用は、あくまで市内産業と整合性のある形を探りながら、地産地消を前提として、少しずつ広げていく。
山の活用も、森林組合の経営計画と対応させながら。
たとえば林道などの条件が悪く、将来的に林業経営が厳しいと考えられる山では、間伐・主伐を行う中で、森の中に日光を入れて、今まで発芽できなかった木の種子を育て、本来の天然林を再生させていくことも視野に入れる必要があるでしょう。
先祖代々が山を守ってきたことで、代わりに山は私たちの暮らしを、水を、守ってくれていました。
私たちが守るのをやめ、山に背を向けたなら、山はいずれ牙をむきます。
その意味で、今も山には神が宿っているのではないか、と私は思うのです。