朝晩がメッキリと冷え込む季節。
今年もバイクに股がる機会も、もうおしまいか。
眠い眼を擦りながら、
冷えきったエンジンに火を灯す。
排気の高鳴りに呼応するように私の身体も覚醒してくる。
最後のライディングに相応しく
少し洒落てタイを締め、
黒のライディングジャケットに袖を通す。
皮のグラブに革のブーツと正装を決め込む。
向かうのは秋色に染まるワインディング。
朝靄のなか高度を上げてゆく。
やがて靄を突いて現れる遥かな山々の影。
里から山裾を覆う幻想的な霧。
視界の開けた道端でバイクを停め
朝の冷たく澄んだ大気をスッと身体にとり入れる。
吐く息がヘルメットのシールドを曇らせる。
往く秋を惜しむように、
またバイクとの暫しの別れをも惜しむ。
心と身体で深呼吸をしたら
さあ、街ちに帰ろう。