ほんとに奇跡としか言いようがない。
思い出すと、いまだに顔がにやにやしてしまう。
ザトウクジラと泳いだ。
吸い込まれそうなほど深い青の中で、ぼんやりしたクジラの白い胸ビレが見えて、
それからゆっくり体が見えてきて・・・。
それはあまりに感動的で、声が出なかった。
おそろしくきれいな親仔のクジラ。
仔クジラが母親の周りにくっついて離れないでいた。
優雅というのは、こういう動きのことを指すのだろうと思った。
なんてことが自分に起こっていたのだろう。
この感動を伝えるコトバがないのがもどかしい。
ヒトを意識していない生物は、なんて美しいのだろう。
潜っていく人がいて、どうしようかと思ったとき、
母クジラがぐるりと水面を向いた。
顎のこぶがきれいに見えて、はっとした。
危ないよ、これは。
息をしに水面に上がってきたら、ぶつかる。
それくらい近かった。
避けようとしたら、ただ体を横にしただけだった。
真下にいた。目が見えた。
目が合った、と思いたいけど、きっと違う。
ただ、ヒトを認識しただけなのだろう。
でもはっきりとヒトを見ていた。目が合ったと思いたい。
そうしてヒトをちらりと見て、離れていった。
ザトウクジラにとって、ヒトとはその程度の存在なのだろう。
それがなんとなくうれしかった。
海はヒトのものじゃないから、海に生きるクジラはそれでいいのだ。
たった1、2分程度だったのだけど、ほんとに長く感じた。
一瞬が永遠に感じた瞬間。幸せな瞬間。
最高だ。
いつ帰ってもいいと思った。
その後船の上で、壊れたテープレコーダーみたいに、
うれしいという言葉を、何度もくりかえし、つぶやいていた。
カウントダウン 3
コメント一覧

1号

2号
最新の画像もっと見る
最近の「愛すべき日常」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事