1.新垣氏 佐村河内氏は「譜面書けない」 出会いも創作
2.佐村河内守氏の広島市民賞取り消し決定 代理人から謝罪
3.新垣氏「佐村河内さんの共犯者」「書かないと自殺すると…」
4.佐村河内氏から「ソナチネ」送られた少女の父「深く心に傷」
5.佐村河内氏の代理人が反論「耳が聞こえないのは本当」
6.新垣氏 佐村河内氏の聴覚障害は「キャラクター作り」
7.新垣氏 佐村河内氏に「一度も聞こえないと感じたことない」
※集計期間:2月7日04時~05時
1.新垣氏 佐村河内氏は「譜面書けない」 出会いも創作
2014(平成26)年 2月6日(木)20:11『日刊スポーツ』配信
佐村河内氏が写して書いたという譜面を手に説明する新垣隆氏 Photo By スポニチ
聴力を失った作曲家で「現代のベートーベン」と呼ばれる佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(50)が、実際は曲作りをしていなかった問題で、18年間にわたってゴーストライターを務めていたと公表した桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏(43)が6日、都内のホテルで謝罪会見をした。
2人の出会いは18年前。「彼とは知人を介して知り合った。彼が映画の音楽を担当することになり、オーケストラ音楽を作れる人を探してほしいということで、私のところに連絡がきた」。佐村河内氏が注目されるきっかけとなった01年発売のゲームソフト「鬼武者」の解説書には「佐村河内氏が長野でたまたま新垣氏のコンサートを聴きに行ったのが出会い」と書かれているが「あれはフィクションです」当初は「アシスタントとして映画音楽を作るためのスタッフの一人として問題を感じていなかった。それがある時期から“自分は耳が聞こえないんだ”という態度を世間に取り出して、彼の名前で私が書いた曲が発表されることは非常に問題があると思うようになった」。しかし、その後も書き続けた。「昨年5月にピアノ曲を提出した時に、もうこれ以上はできないと思った。そこから7月に直接や続けることはできない、やりたくないと伝えた」最後に会ったのは昨年12月15日。「12月にもう一度(公表することを)要求しましたが、それはうまくいきませんでした」。佐村河内氏の楽曲ほぼ全てを新垣氏が制作。真実の佐村河内氏は「譜面は書けません。(ピアノ演奏も)初歩的なピアノの技術のみ。実質的にはプロデューサーであった」という。テレビのドキュメンタリー番組は楽曲を作り出すために苦悩する姿なども映し出されているが、「彼がどのような気持ちであのようなシーンを撮らせたのか、私にはわかりませんが、(演技だと)私は思います」と話した。
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007532280.html
2.佐村河内守氏の広島市民賞取り消し決定 代理人から謝罪
2014(平成26)年 2月6日(木)20:38『日刊スポーツ』配信
広島市出身の佐村河内守氏の楽曲が別人の作品だった問題で、広島市は6日、佐村河内さんに2008年に授与した「広島市民賞」の取り消しを決めた。市によると、佐村河内氏側の代理人弁護士から6日午後、ゴーストライターが作曲していたことに対する謝罪や、広島市民賞を返上する意向との連絡が入った。また、佐村河内さんが被爆2世、障害者であることは間違いない、との話もあった。広島市民賞は、市民に夢や希望を与えた人に贈られる。02年の同賞の設置後、取り消した例はないという
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007532690.html
3.新垣氏「佐村河内さんの共犯者」「書かないと自殺すると…」
2014(平成26)年 2月6日(木)14:48『日刊スポーツ』配信
都内ホテルで会見を行った、佐村河内守さんの曲を代作していた新垣隆氏 Photo By スポニチ
聴力を失った作曲家で「現代のベートーベン」と呼ばれる佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(50)が、実際は曲作りをしていなかった問題で、ゴーストライターを務めていたと公表した桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏(43)が6日、都内のホテルで謝罪会見をした。新垣氏は「佐村河内さんと出会った日から18年にわたり、彼の代わりに曲を書き続けてきた。私は佐村河内さんの共犯者です」と告白。「何度もやめようと言ったが受け入れてくれなかった。曲を書かないと自殺すると(佐村河内氏に)言われた」と生々しいやりとりも明かした。また、フィギュアスケート男子日本代表の高橋大輔が「ヴァイオリンのためのソナチネ」を使用していることに絡み、ソチ五輪の前に公表するか苦悩したと言う。だが「このままでは高橋選手までウソを強化する材料になり、五輪の競技後に発覚した場合、高橋選手が戸惑い、偽りの曲だったと世界から避難されると思い」公表に至ったと説明した
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007531070.html
4.佐村河内氏から「ソナチネ」送られた少女の父「深く心に傷」
2014(平成26)年 2月6日(木)17:35『日刊スポーツ』配信
「ヴァイオリンのためのソナチネ」を送られたとされる義手バイオリニストの父親のコメント Photo By スポニチ
聴力を失った作曲家で「現代のベートーベン」と呼ばれる佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(50)が、実際は曲作りをしていなかった問題で6日、12年に同氏から「ヴァイオリンのためのソナチネ」という曲を送られた、義手の少女バイオリニストの父親がコメントを発表した。佐村河内氏が約5年前、テレビで少女を見つけて、コンタクトを取り交流が始まったという。そして、12年に「ヴァイオリンのためのソナチネ」を送られたという。少女の父は、佐村河内氏が桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏(43)氏に作曲を依頼していたことことを知った時「大変衝撃を受けました」といい「5年もの長きにわたり、信じ切っておりましたので、憤り、あきれ、恐怖すら覚えております」と怒りを露わに。ただ「娘は、佐村河内氏から格別の厚遇を受け、素晴らしい曲を献呈いただいたり、コンサートに出演させていただくなど、様々な恩恵を授かりましたので、それに関しては大変感謝しております」謝意も。しかし「ここ1年ほどは、絶対服従を前提に徐々に従いがたい要求を出されるようになり、昨年11月に、“服従できぬ”と回答しましたところ、大いに怒りを買い、絶縁された状態になっております」と語り、現在は交流がないことを明かした。娘については「深く心に傷を負っている」といい、「5年もの間気付いてやれなかったと、親として後悔の念にさいなまれています」と娘を思いやった。娘のファンらに対し「ご心配をおかけしたり失望されたりしたかと思うと、大変申し訳ない気持ちです」とわびた。「娘がまだ、バイオリンを弾き続けたい」という気持ちがあるといい「ヴァイオリンのためのソナチネ」そのものには愛着があるとして「この後も真っすぐ育てて行きたい」と親心も見せた。最後にソチ五輪フィギュアスケートSPで「ヴァイオリンのためのソナチネ」を使用する予定の高橋大輔選手(27)に対し「どうか今回の件に惑わされることなく、健闘されますことを心から祈っております」とエールを送っている
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007531970.html
5.佐村河内氏の代理人が反論「耳が聞こえないのは本当」
2014(平成26)年 2月6日(木)20:21『日刊スポーツ』配信
聴力を失った作曲家で「現代のベートーベン」と呼ばれる佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(50)が実際は曲作りをしていなかった問題で、佐村河内氏の代理人を務める折本和司弁護士が6日、横浜市内で報道陣の取材に応じた。
これに先立ち、佐村河内氏のゴーストライターを務めていたと公表した桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏(43)が都内のホテルで謝罪会見。新垣氏が「私の感覚では耳が聞こえないと感じたことは一度もありません」と、佐村河内氏は耳が聞こえていたとする発言をしたことについて、代理人は「ご本人が耳が聞こえないのは本当だろうと思っています」と反論。
障害者手帳(聴覚障害2級)に関しても「私たちも(手帳を持っていることを)確認しています。彼の場合は唇の動きが非常にゆっくりしているので、彼との間では会話は手話なんかは使わなくても成り立つ」と“疑惑”を否定した。
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007532560.html
6.新垣氏 佐村河内氏の聴覚障害は「キャラクター作り」
2014(平成26)年 2月6日(木)17:49『日刊スポーツ』配信
佐村河内氏が写して書いたという譜面を手に説明する新垣隆氏 Photo By スポニチ
聴力を失った作曲家で「現代のベートーベン」と呼ばれる佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(50)が、実際は曲作りをしていなかった問題で、18年間にわたってゴーストライターを務めていたと公表した桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏(43)が6日、都内のホテルで謝罪会見をした。佐村河内氏は聴力を失っているとされているが、そもそも「私の感覚では耳が聞こえないと感じたことは一度もありません」とキッパリ。「彼とは普通のやり取りをしていた。(耳が聞こえないというのは)違うのではないかと思います」。作曲をする段階でも「私が録音したものを彼が聴いて(その場で)彼がそれに対してコメントするということもありました」と具体的な例を挙げ「耳が聞こえないことを装っていたと思うのか」との問いにも「はい」としっかりと答えた。障害者手帳は「1度だけ見せられたことがある」という新垣氏。その時期は「彼が自分が耳が聞こえないんだというスタンスを取った、ゲーム音楽が発表された後(彼が35歳)あたり」だと言い「これからはそういう形で行くという話を聞いた記憶はあります」とその時を境に、外に向けて“耳が聞こえない”ということを売りに音楽制作活動をするようになったことを明かした。「最初は私にも耳が悪いということを示していたが、やり取りをしているうちに戻っていき、やがてはそれ(装うこと)もなくなっていった」という。「私は佐村河内さんの共犯者です」とした新垣氏。「最初に、耳が聞こえないのだと言い出した時は戸惑いました。その必要があるのかどうか(疑問だった)。でも、それはこのような環境に立つための方法なんだと私は了承した。彼は自分のキャラクターを作り、世に出した。彼のイメージを作るために、私が協力をしたということだと思う。私にとってもゴーストライターとしての役割を果たすためにはそれ(実は聞こえるという事実)が知られてはならないので、なるべくそれがやりやすいような状況を望んでいたのは否めないです」と自らも「共犯者」として偽りの片棒を担いだことへの思いを語った
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007532140.html
7.新垣氏 佐村河内氏に「一度も聞こえないと感じたことない」
2014(平成26)年 2月6日(木)14:49『日刊スポーツ』配信
佐村河内氏が写して書いたという譜面を手に説明する新垣隆氏 Photo By スポニチ
「全ろうの作曲家」として知られる佐村河内守氏(50)の代表作「交響曲第1番 HIROSHIMA」などについて、18年前から自身が作曲していたと謝罪した音楽家の新垣隆氏(43)が6日、佐村河内氏の聴力について「私の認識では初めからこれまで一度も聞こえないと感じたことはない」と「全ろう」についてまで偽装の疑惑が浮上した。新垣氏が録音したものを佐村河内氏が聞いていたとも証言。「聞こえないということを装っていたと解釈してよいか」の質問には「はい」と応えた。また、接触するのはいつも2人きりで、やりとりについても「ごく普通にしていた」と語った。
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/02/06/kiji/K20140206007531270.html
「聴覚を失った現代のベートーベン」佐村河内守 なぜテレビはダマされたのか?
水島宏明 | 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
2014(平成26)年 2月7日(金) 8時31分
事実を知れば知るほど、実に「巧妙なウソ」だったことが分かる。言うまでもなく、天才作曲家とされた佐村河内守氏のことだ。テレビ関係者もまんまとダマされていた。元テレビドキュメンタリーの制作者で現在はテレビ批評をやっている私のところに週刊誌や新聞記者などから次々に電話がかかってくる。「それにしてもなぜテレビドキュメンタリーで長期取材した時にウソが見抜けなかったのでしょうか?」「テレビドキュメンタリーで取材する時に事実の確認はしないのでしょうか?」そんな質問を記者たちから投げかけられる。しかし、結論から先に言えば、仮に私自身が佐村河内守氏のドキュメンタリーを企画し、取材したとして、そのウソを見抜けたのか、と問われたなら、それをウソだと見抜くことは難しかっただろう。おそらく、私もまんまとダマされただろうと想像する。それくらい新聞・雑誌記者やテレビ制作者、視聴者・読者たちの「心理」をついた巧妙なストーリーだったのだ。だから、今回のことではもちろんテレビ関係者などが反省しなければならない点があるとしても、番組制作にかかわった人たちを必要以上に責めても百害あって一利なしだと考える。佐村河内氏を取り上げたマスコミ報道で、一番話題を呼んだものが、昨年3月31日に放送されたNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家」だった。被爆2世で聴覚を失った作曲家・佐村河内氏が東日本大震災で両親を失った宮城県の少女と対話して、心を通わせる、というドキュメンタリーで、「心の奥に深い悲しみを持った人間同士」の魂の交流が感動を誘った。そもそもマスコミも日本国民も「ちょっと感動できる”いい話”」が大好きだ。「全盲のピアニスト」など、ハンディキャップを乗り越えて活躍する「天才」は、見渡せば片手で足りないほど存在する。音楽性そのものが評価されている、などと言いながらも、どこかでその「ハンディキャンプ」そのものも、その音楽家の「売り」のひとつになってしまっているのも確かだ。少なくともコンサートに出かけ、CDを購入する側からすれば、その音楽家がもし「健常者」だったら、同じように熱狂するのかと問われた時、「障害を持っていること」がある種のバイアスをもたらして高く評価してしまう面がないと言い切れる人はよほどの音楽通なのだろう。それぐらい、「障害を持ち、それを乗り越えた」という「天才」が、同じように「痛みを持った人たちを励ます」というストーリーはこの世にあふれ、それを欲する人々がいる。佐村河内氏は、こうした日本人や日本のマスコミの「いい話好き」のメンタリティを利用して、多くの人に「ウケるストーリー」を作り上げ、その主人公を演じていたのである。そこでマスコミの側に目を転じれば、こうした「いい話」の企画があれば、これを大きく取り上げたい、と考えるのはマスコミの習い性として躊躇はない。まさか、その本人が虚構だ、などとは夢にも思わないだろう。少なくとも今回の事件が発覚する前は、関係者の脳裏にこうした感動物語の主人公が実はウソだらけなどとは想像しない。実際に取材する時も、相手をそういう「ハンディキャップを抱えた天才」だと言う目で見てしまうから、多少疑問な点があったとしても「天才とはこういうものか」などと自分を納得させることだろう。おそらくNHKスペシャルの取材スタッフも「この人、本当に耳が聞こえないのか? そうは思えないほど、ちゃんと我々の言うことを理解している」と驚いたに違いない。だが、それはこの「作曲家」への「疑念」というよりも、「驚嘆」だったはずだ。「これほど普通に振る舞えるのは努力のたまもの。すごい努力の人に違いない」と。NHKスペシャルで言えば、話を持ちんだディレクターが、「フリーディレクター」だったことも背景にある。「フリーディレクター」というのは、いろいろな番組に企画を持ち込み、1本いくらで番組を制作して稼ぐ仕事だ。想像するに、このフリーディレクター氏の立場では、「自分は佐村河内氏と深い信頼関係がある。自分が取材するならば佐村河内氏はOKする」と言って、NHK側に売り込んだはずだ。それで企画を通し、NHKスペシャルだけでなく、撮影した映像を「あさイチ」などでも展開して、独自映像として活用した。NHKスペシャルの放送後には、NHK出版から取材をまとめた本まで出している。このフリーディレクターには、佐村河内氏のネタは「自分だけができる独自ネタ」で、「メシの種」。まさに「生命線」だったのに違いない。だから、彼自身がもし取材のプロセスで「疑念」を持ったとしても、自分の「メシの種」である佐村河内氏を貶めるようなことはできるはずがない。当然、佐村河内氏への見方も甘くなる。佐村河内氏の「天才ぶり」や「神秘的能力」「被災者への思い」を示すような肯定的な描き方をしようとするインセンティヴが働いてしまう。疑問に思うのは、このフリーディレクターは佐村河内氏を数年間も取材しているようだが、そのウソを本当に知らなかったのかどうかだ。ひょっとしてフリーディレクター自身も「共犯者」だった可能性はないのか。もし、そうだとすれば、テレビドキュメンタリーへの痛手は大きい。この問題は、現在、NHKで事実関係を調査中のようだが、いずれ発表せざるえないだろう。今回の事件が発覚したことで、テレビや新聞の「いい話」の裏に主人公による「作為」や「詐欺」が入りこめるということが明らかになった。テレビのドキュメンタリーを制作する人間にとっては、「相手が本当のことを言っているのか」「ウソをついているのではないか」などと、醒めた目で再確認しなければならなくなった。この数年、テレビ報道の世界で起きている不祥事の中には、「本人がウソをつく」というタイプのものがある。たとえばiPS細胞の臨床応用を世界で初めて実施したとした森口尚史氏のウソ(日本テレビが報道)、岐阜県庁の裏金問題を証言した元会社役員のウソ(日本テレビが報道)、飲料水ビジネスで原発事故以降に利用者が増えていると証言した客のウソ(実は客は飲料水販売会社の役員の妻だった。日本テレビが報道)。出会い系サイトを利用した詐欺事件の被害者を弁護士に紹介されてインタビューを放送したら、弁護士事務所の関係者だった(日本テレビが報道)。これらはみな、取材者が自分の足を使わずに取材し、ネットに頼ったり、会社・弁護士などに「紹介してもらう」という取材方法を取っているという最近の現場取材の劣化がもたらしたものだと、私は批判してきた。上記の例は取材としては誰が見ても明らかに幼稚なレベルで、ちょっと本人確認をするとか、会社側に安易に紹介を頼まないという取材姿勢や、取材経験が豊富で「人間を見抜く力」がある程度あれば、防げたはずのものだ。それに比べると、今回の佐村河内氏のケースは、本当に巧妙で見抜くのは難しい。障害者手帳も持っているというが、仮に障害者であることも医師や行政官の前でウソをついて判定者も見抜けなかったのなら、障害の専門家ではないマスコミ関係者が見抜くのは容易ではない。ドキュメンタリーの場合、証言者が本当かウソか、記憶が確かか、裏はあるかなどを検証しながら、映像素材を確認する証言型のドキュメンタリーも存在する。しかし、今回のNHKスペシャルのような人間を描くドキュメンタリーでは、その人物が実は偽者などとは露ほどにも思わない。予め、佐村河内守という「素材」が世間で言われている通りの前提の人物だとして、さらにその人間性の秘密なり天才の秘密なりを描こうとする。その人物の本質的な魅力をテレビというメディアでいかに表現できるか。そこに制作者は心を砕く。そのためには、取材する相手に共感し、相手の人間的な一番深いところをどうやって引き出してやるかに頭を悩ますのが人間を描くドキュメンタリーの仕事だともいえる。そこにも「疑念」を持ち込まねばならなくなるとしたら、佐村河内氏による「ウソ」がテレビ制作の現場に与える影響は少なくないだろう。ただ、巧妙で悪質なのはあくまで佐村河内氏本人だ。(もし、取材したフリーディレクター自身が「共犯者」でないのであれば)ダマされてテレビドキュメンタリーの放送に関わった番組制作者までが萎縮して、テレビドキュメンタリーの現場が意欲的な作品づくりを躊躇するようになる事態は避けなければならない。むしろ、NHKは今回の事態を逆手にとって「なぜ私たちはダマされたのか」をテーマにしたNHKスペシャルをぜひ制作してほしい。これが検証番組、訂正番組になりうるし、そもそもこの種の「いい話」に弱いマスコミ全体、あるいは日本人全体に警鐘を鳴らす番組になるだろう。
水島宏明
法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロン ドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレク ターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ 親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizushimahiroaki/20140207-00032412/