崎本良平は仙台行き新幹線はやぶさ5号の車内で苦虫を噛み潰すような思いを新たにしていた。半年ほど前からの確執。
部長の花島薫とはモチベーションが違いすぎることは鼻から分かっていた。部活の全員が同じポテンシャルのモチベートを持ち続けることが可能か?否、可能か否かではなく、全国を目指すレベルとなれば当然ながらその同じ席に相居座ることを余儀なくされるのだ。
「吹奏楽の全国大会に、卓球部で参加するようなものだよ」
と、自嘲気味に漏らしていたセリフもあながち大げさではなかった気がするのだ。
技術的についていけていないわけでは決してない。
モチベーションとパートについての前向きなアプローチ、が、みんなについていけないところなのだ。
(毎日トロンボーンなんか持って帰れるかよ)
日々織り込められ、重ねられる思いは蓄積してゆく。
そして全国大会出場。
憧れなかったわけではない普門館。
しかし、思いは複雑で、到底一枚岩というような部の状況ではないことは部外者には決してわからない部分なのだ。
ひとつの目標達成でもあるだろう。しかし・・・
次なる目標に走り出している周りに、走らされている自分にふと気づく。
「来年は全国で金!!」
どうしようもない乖離。
26日の練習を終え、帰宅の途上で南浦和まで来たときにぽーん。
と、なにかがはじけた。
そのまま大宮に戻った。いきあたりばったりで北へ行く新幹線に飛び乗った。
仙台止まりのはやぶさは、23:12仙台着。
気温7度。
二週間前にひょんなことから補導されて警察のお世話になっている身としては、
安全策を取らざるを得ない。
なるべく大人の後ろをついて歩くのだ。
仙台から西へ。流れに乗って歩き、数百mほどで公園を見つけた。
そこそこの広さもあり、身を隠す植え込みも潤沢だ。
コンビニで買いためたパンでとりあえず空腹を満たす。
学ランしか着ていない身には夜の冷え込みは厳しい。とりあえず持っている体操服を下に重ね着して寒さを凌ぐ。
が、3時頃には寒くて移動する。動いていれば何とでもなるが、人目を引いてしまう。
人家のある近辺へ移動し、駐車場の車の影に潜む。風さえなければ十分に凌げる。
5時。夜が開けてきた。
パンをかじる。
さて、移動だ。
仙台から山形を目指そう。
行き先については昨晩の新幹線のなかであれこれと思いを巡らせたが・・
とりあえずこの時期、北を目指してきたが。たまたま新幹線が、時間が遅くて仙台止まりになったのだ。実は北海道も考えていた。
仙山線に乗る。
これもいきあたりばったり。
携帯は昨日、まっぷたつにぶった切って河に捨てていた。
日常からの隔絶にこれほど効果があるとは・・・
ある意味すっきりしている。
たまたま乗った電車は作並止まりの電車だった。あまり気にもせず、作並で降りた。
無人駅だ。
駅前から作並温泉方面へ歩いてみる。
てくてくてくてく
今日は空が青い。
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