気になる文字だけ抜粋して
「臨場感で観客を一緒に巻き込んでいかないと、舞台の力は発揮できません」
----沢田さんは栗山さんの演出のどこが魅力ですか。----
沢田:
そうですね。わりとほったらかしにする演出家も多いんですが
栗山さんの場合はダメ出しにしても
「そこ、だめ」というのではなくて、新たな要求事項が加わるんです。
その動かされる快感というのがあります。
お客さんにしてみれば
付録がいっぱい付いてくるという、そこが魅力です。
それと初めにやった「漂白者のアリア」の藤原義江というのはわりと立派な人物なんですが
この「ペーパー・ムーン」のモーゼは情けないやつですから
栗山さんには、よりチープな動きというのを要求されていて
それが僕には好きな方向なんで、より楽しいという(笑い)
栗山氏:
たしかに「漂白者のアリア」とは顔合わせのときから違いますね。
沢田:
僕は大好きな人って言われると、由利徹さんなんです。
もう亡くなってしまいましたが、しょうもないことを真面目にやる。
あれがいいですね。
それこそ、倒れて病床にあっても得意のギャグをやる。
それでますます感激しましたが(笑い)、
そういう軽さというのはいいなぁと今、思っているんです。
栗山氏:
演劇というのは嘘ですから。
でも嘘を限りなく真剣にやると、それが真実に見えてくる。
これは「ペーパー・ムーン」という物語のテーマでもあるんですね。
だから、モーゼがやっていることはすごく演劇に近いんですよ。
戦争で亡くなった人の名簿を調べて
未亡人に、生前頼まれたといって聖書を売りつける。
いわば詐欺ですが、誰も不幸にはならない。
それこそが演劇の構造そのものなんです。
------略
栗山氏:
演劇というのはその場のライブなんですよね。
かなりのテンポで舞台を転がしていって、
その場の臨場感でお客さんを巻き込んでいかないといけないんです。
のっそりやっているようじゃ舞台の力は発揮できません。
それと僕はじつは翻訳ミュージカルというのは苦手で、
ほかの劇団のを見ても「なんなのこれは」と思っていたんですよ。
翻訳ミュージカルというのは楽譜の指定もあるし
動きなんかも全部、指定がありますから。
ですが、この「ペーパー・ムーン」にはほとんど制約がない、
だから自由にできるということはありますね。