「スポーツの祭典のドン」高橋治之・電通元専務に強制捜査 特捜は「五輪の闇」に迫れるか
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の元理事(電通元専務)のわいろ疑惑の解説記事。事件そのものは比較的単純ですが、東京地検がさらに踏み込めば、「五輪の闇」が暴かれかねないのだそうです。
問題の高橋氏は、インターナショナル・スポーツ・アンド・レジャーというスイスの会社にかかわっていたそうです。
「67年、慶応大学法学部を卒業して電通に入社。スポーツ事業局を中心に歩み、ISL(インターナショナル・スポーツ&レジャー)事業の担当となったことで、世界のスポーツ界に人脈を築いていった。ISLは、スポーツのビジネス化の先駆けとなった会社で、82年、アディダス創業家のホルスト・ダスラー氏が電通と共同出資でスイスに設立した。
76年のモントリオール五輪が大赤字で80年のモスクワ五輪が西側諸国のボイコットで危機に瀕し、国際オリンピック委員会(IOC)のユベロス委員長は、84年のロス五輪を成功に導くために、放映権料の大幅アップ、1業種1社に絞ったスポンサー企業からの高額協賛金、五輪マーク使用料の徴収などで商業化を図った。
ISLはその動きを先取りすることで五輪に関与、FIFA(国際サッカー連盟)のWCや、国際陸上競技連盟(IAAF)の世界陸上などにも販路を広げた。
しかしISLは、経営多角化の失敗や多額の工作料、ダスラー氏の急死などで2001年に倒産する。スイス2番目の大型倒産ということもあってスイス検察が捜査に乗り出し、倒産までに1億5800万スイスフラン(約175億円)がスポーツ界のドンたちに支払われていたことが明らかとなる。
スポーツ利権が表面化した瞬間だった。収賄リストには大物数十人の名が記載され、法廷に立ったISL幹部は、野放図に工作資金を提供した理由を問われ、「みんながそれ(裏ガネ)を欲しがるから」と、述べている。
電通にとって幸いだったのは、路線の違いからISL株を売却、実務から離れていたこと。ただ、ISLが20年の間に築いた人脈とノウハウを失うのは惜しいということで、ISL人脈を引き継ぐ形でスイスに設立されたアスレチックス・マネージメント&サービシズ(AMS)を支援した。ISLでの教訓もあり出資はしなかったが関係は良好で、電通はAMSの協力により、01年からIAAFのマーケティング権を独占している。」
五輪誘致わいろ疑惑についてはフランス検察当局が調べています。
「五輪招致は、高橋氏と電通の国内外の人脈のなかで進められた。検察はそれをフランス検察当局の捜査共助要請を受けた捜査のなかでつかんでいた。
〈私は、パパ・マサタ・ディアクと、直接会話をしたことがあるかどうかは記憶にありませんが、同人と個人的な関係やビジネス上の関係は、一切、ありません。
私は、ブラック・タイディングス社の代表であるイアン・タン・トン・ハンとは会ったこともありませんし、話をしたこともありません〉
東京地検検事の質問にこう答えているのは竹田氏である。パパ・マサタ・ディアクとは五輪誘致の票を持つラミン・ディアク・IAAF会長の息子。イアン・タン・トン・ハンとはAMSのコンサルタントで電通とも親しい人物。
フランス検察は、ディアク父子の贈収賄疑惑を捜査する過程で、日本の東京五輪招致委員会がブラック・タイディングス口座に約2億3000万円を振り込んでいることを突き止め、それが「五輪招致の裏ガネだった」という疑いを強めた。そこで、捜査共助を要請、17年2月、東京地検が招致委理事長の竹田氏を呼んで事情聴取した。
明らかになったのは、JOCも竹田氏も電通のいうままにコンサルを選定、コンサルタント料として支払い、ディアク父子への裏ガネかどうかを含め、その詳細は知らないということだった。招致は電通任せが実態である。」
東京五輪の招致委員会からは、高橋氏や電通に多額の資金が流れています。
「招致委はフランス検察の求めに応じて、招致活動がスタートした11年10月から招致が決まって解約した14年7月までの銀行口座の全記録を提出しているが、振込先のトップは高橋氏のコモンズで9億5824万円、第二位が電通の3億3711万円だった。
コモンズは、高橋氏が電通顧問を退任後に活動を本格化させた会社で、氏の個人的人脈に事業は委ねられている。9億円超は五輪招致のロビー活動にあてられたものだろうが、支出先は明らかにされていない。」
当サイトの関連記事(2019年)(東京五輪誘致わいろ疑惑の報道について)
その2(2016年)(同上)
おなじみの磯山氏が書いています。
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ついに「東京五輪疑惑」も弾けるのか?本命は招致を巡るカネの流れ(現代ビジネス)
「欧米ではESGは投資をする際の基準としてスタートしたが、投資だけではなく、政府が出資したり、国際的に資金を拠出した場合などでも強調されるようになっている。世界から資金を集めようとした場合、中でも「G」つまり、ガバナンスのあり方が厳しく問われるようになっている。発展途上国での贈収賄や不正、人権問題への追及がかつてより激しくなり、国際問題化するようになっているのは、社会全体でESGへの関心が高まっている事が背景にある。
そんな中で日本は、様々な場所での不正、ガバナンス不全が明らかになっている。企業不正の表面化は後を立たず、大学など学校法人でもガバナンスの欠如により事件が起きた。ここへ来て、国際的に圧倒的な知名度の五輪大会でも不正がまかり通っていたとなると、日本の国際的な信用は大きく毀損することになる。」