大手銀行が過去の不良債権処理で膨らんだ「税務上の繰り越し欠損金」のおかげで法人税を納めていないことを取り上げた解説記事。
あれだけ稼いでいる大手銀行が税金を免れているのはおかしいというのはわかりますが、経理的には欠損金の税効果が実現しているにすぎません。欠損金が発生した期から今期までを通して考えれば、「税額=所得×税率」の「所得」がマイナスなのだから、払うべき税金もないということです。
もう少し詳しく考えてみると、
「不良債権に対する引当金積み増し(有税処理)」→「将来減算一時差異の発生」→「法的整理・債権売却など(損金算入)」→「繰越欠損金増加」→税金ゼロ
ということで、過去に有税処理していたものが、最近2、3年で最終処理により税務上の損金となり、税金を減らす(あるいはゼロにする)効果をもたらしたものと思われます。
(銀行よりの見方をすれば)銀行は、過去に生じた将来減算一時差異や繰越欠損金を、タックスプランニングによりどれだけ活用できるかが問われています(それに成功すれば社会的には批判を受けるというジレンマはありますが・・・)。
税効果会計との関係でいえば、繰延税金資産を慎重に計上していた銀行は、簿外となっていた税効果が実現するので、利益へのプラス効果が大きくなります。目一杯計上していた銀行は、すでに税効果を資産として認識してしまっているので、それだけ必死になって税効果を使わないと、業績にはマイナスとなります。
以上のような事情があるため、銀行は今のうちに(つまり欠損金が有効なうちに)最大限の利益を出して、税効果を享受しようとしているのでしょう。預金者への還元はその先になりそうです。
ちなみに、大手銀行は税金は払っていないのに配当金は払っています。これは、繰延税金資産も配当財源として認めているため、そうなるのですが、これについてはややおかしな感じはします。
ところで、記事の中の「大手行にしてみると、税金を前払いする形で不良債権を処理してきた経緯があり、「現時点で法人税を払っていないことだけを取り上げられても困る」(大手行幹部)と反論する」という箇所は間違いでしょう。不良債権処理で税務上の欠損金が発生したのなら、発生した期は課税所得がないので税金は納めていない(したがって税金の前払いもない)はずです。
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