原発廃炉問題を取り上げた読売社説(2014年10月20日)。
会計についてもふれています。
「廃炉の決定には、様々なハードルがある。
電力各社は40年を超える運転を想定して廃炉費用を積み立てている。積立金の不足した原発の運転を前倒しで打ち切れば、多額の追加負担が生じることになる。
廃炉が決まると、発電設備が資産とみなされなくなるため、会計上、一度に大きな損失の計上を迫られるという問題もある。
電力会社が、足元の業績悪化を回避しようと廃炉の判断を先送りし、結果的に老朽化した原発が運転も廃炉もされないまま、放置される懸念は拭えない。
電力会社が廃炉を円滑に進められるようにするための環境整備が急務である。」
廃炉をやらせたいのなら粉飾を認めろ(認めないなら危険な原発を廃炉できなくてもしょうがない)と言っているのに等しい、日本最大部数を誇る大新聞にしては考えられないような主張です。
少し詳しく考えてみると、廃炉費用については、資産除去債務会計によれば、今廃炉を決定するかどうかにかかわらず、全額引き当てたうえで(ただし現在価値に割り引きする)、その金額は固定資産に上乗せし償却していくことになります。廃炉が決まれば、上乗せされた金額の償却残は一挙に損失に計上します。(細かいことを言えば、会計基準では、除却が決まった時点で資産除却債務会計からはずれ、引当金で処理するようですが、一挙に損失計上されるという点では同じといえます。)
上記上乗せ部分以外の設備の償却残も、当然、廃炉が決まった時点で、全額損失計上しなければなりません。
これが、一般に認められた会計基準に基づく処理ですが、法令で規制された料金で回収される部分については、一般に認められた会計基準に基づく処理との差額を資産(費用・損失の計上よりも後に料金で回収する場合)または負債(先に料金で回収する場合)に計上する考え方が、海外の基準でもあるようです。その場合でも、固定資産などの金額に残しておくのではなく、別勘定で明らかにするようです。また、そもそも日本の電力料金については、すでに6割が完全自由化されており、さらに数年後には100%自由化される計画もあるようです。したがって、電気料金で確実に回収できる部分というのはごく限られており、全額繰り延べということはあり得ません。
報道によれば、こういうあり得ない処理が、実際に適用されつつある(すでに実施されているものもある)ようです。こういうことが起きるのも、電力会社の会計がいわば治外法権になっているからです。ASBJなどで行われている通常の会計基準の検討とは全く別に、一般に見えないところで、話の通じる学者らからお墨付きをもらって、経産省が勝手に決めているのです。
経産省がらみでは、大臣の政治資金団体の会計問題より、こちらの会計問題の方が、はるかに重要と思われます。
海外にあるべき会計基準について意見発信するのも結構ですが、それと同時に、日本の基準のこういう不透明な部分(あるべきでない部分)を直すべきでしょう。
原発優遇策をねだる、電力業界の本末転倒(東洋経済)
「CfDは、原発のコスト全体を対象に収益安定化を保証する制度。これに対して、部分的なコスト負担を軽減して支援する方法も議論されている。1つは、廃炉に関連した財務・会計リスクの軽減策だ。すでに昨年夏に「廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ」で議論され、昨年10月から改正省令が施行された。
具体的には、以前は運転終了を機に発電所の残存簿価を一括費用計上(減損処理)する必要があった。が、見直し後は、廃炉中も使用される使用済み燃料ピットや格納容器などの一部設備(全体の半分程度)については、運転終了後も耐用年数に応じて減価償却費の計上を継続できるようになった。複数年での分割処理が増える分、財務的なリスクを軽減できる。
電力業界が求めているのは、そのリスク軽減措置のさらなる拡充だ。電事連の八木会長は、原子力燃料資産や長期運転を見越して実施してきた追加対策コストを挙げ、「仮に早期廃炉を決断した場合、これらは一括費用計上の対象となる。われわれとしては、会計上のインパクトをできるだけ除くことが望ましい」として、これらを軽減措置の対象に加えるように求めている。」
読売新聞は、電力会社の主張をそのまま社説にしているようです。
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