[MLB短評]Good Risk

ＭＬＢ＝フィリーズ、ハワード内野手と117億円の契約合意(トムソンロイター) - goo ニュース
Howard signs five-year extension(MLB.com)
Phils astute in locking up Howard(MLB.com)
Phillies, Howard have come a long way(ESPN)

個人的な見方ですが、スポーツの世界でどの選手がどのチームと契約したかは、他のファンの人たちと
同様にすごく気になりますが、その金額であったり、細かい契約内容や、どの選手がどれくらいの金額に
見合うかどうかについては、さほど関心はありません。そうしたところの分析は、選手とエージェントとチーム、
そしてより深く取材している記者に任せればいいと思っています。

そうは言っても、フィリーズとライアン・ハワードの5年の契約延長は時期、金額共に驚くものでした。そもそも、
ハワードは契約上、2011年シーズンまではフィリーズでプレイすることになっています。今この時期に契約を
延長すべきかどうかを話し合う必要はありません。しかし、フィリーズはハワードが他のチームが大金でこの
大物一塁手を奪い去るところ、いや、奪おうとする仕草を見せることすら許せなかったのでしょう。そうだったら、
今のうちに30歳のハワードを36歳まで確保しようと考えたのだと思います。

一方で、ハワードは大金をもらうだけの価値がある選手だと認めながらも、多くの一塁手あるいはDHの
スラッガーは30歳を過ぎると峠を迎えるとされています。その典型が、近頃では代打を送られるケースも
増えてきた、レッドソックスのデイビッド・オルティズです。30歳のハワードに対しても、これからパワーが
落ちていくかも知れない時期に117億円は高いのではないか、という意見も一部では出ているようです。

しかし、この金額はハワードへの活躍の期待を込めているのと同時に、ハワードがフィリーズとフィラデルフィアの
頑丈な柱であることを意味したものだと思います。ハワードを残留させることにより、フリーエージェントを控える
他のフィリーズの選手（チェイス・アトリー、ジミー・ロリンズ、コール・ハメルズなど）に対しても、フィリーズから
離れなせない理由ができ、そしてフィリーズがナショナルリーグのイーストディビジョンで確固たる地位に
立ち続けることができるための先行投資です。ルーベン・アマロJr.GMはこのように話しています。

We're typically not a club that sets markets, and I don't view this as a market-setting deal,
but we feel like this is an equitable deal for both sides. It's something he deserves.
There's always risk when you're doing guaranteed deals, but what Ryan has done and
what we think he's doing to do in the future, I think it's a good risk.

"good risk"という言葉こそが、この大型契約のすべてを物語っていますし、ハワードに対してであれば、
フィリーズはそのリスクを喜んで背負う覚悟はできている、そう言えます。

そして、これはジョー・マウアーの大型契約のときにも感じたことですが、もはや大型スター選手がFAで
チームを移りながらもサラリーが上がっていくという時代は終わりになりつつあるのではないか、と思います。

今シーズン開幕直後に、実はハワードともうひとりの超大型一塁手、アルバート・プーホールズの史上最大級の
トレードが画策されていた、というニュースが流れました。両チームともすぐにその事実を否定しましたが、
メディアはいつでもそうした大スター選手がFAなりトレードなりで移籍することを妄想しています（NBAの世界では、
レブロン・ジェームスがニックスに移籍するかどうか、などと騒いでいますが）。それはエージェントも同じことで、
チームを移りながらクライアントのサラリーを上げていくことで、自分のマージンを増やしていこうという魂胆が
隠れているのです。

サラリーキャップがないメジャーリーグでは、ヤンキーズやメッツ、エンジェルズのようにFAで大金を出して
獲得した選手で固めつつあるチームがあるのも事実です。一方で、チームが本当に残すのに価値があると
判断するスター選手とは、早い段階で長期契約、それも選手生命を自分のチームで終わらせるくらいまでの
長い期間の契約を結んでいく動きも活発になっていくのではないでしょうか。今回のハワードの契約は、先日の
マウアーの契約と共に、メジャーリーグの新しい契約の流れを作っていくように感じます。

そうなると、今回のハワードの契約延長はプーホールズやブリューワーズのプリンス・フィルダーなど他の
スラッガーの金額だけではなく、その契約内容に影響を与えるのではないでしょうか。そして、より多くの
チームが積極的に"good risk"を取りに行くことでしょう（その中には本当にリスクを背負うチームも必ず
出ることでしょうが）。

いずれにしても、ハワードはアレン・アイバーソンやドノヴァン・マクナブ去った後のフィラデルフィアの本当の
顔になりつつあるようです。
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