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[第46回スーパーボウル]Cool and Agressive

2012-02-08 01:24:43 | NFL
ニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブレイディは先発QBの座に就いてから、インディアナポリスでは常に嫌われるべき存在でした。かつてのRCAドームにしろ、現在のルーカス・オイル・スタジアムにしろ、インディアナポリス・コルツのホームスタジアムは「ペイント・マニングの家」であるからです。それでもブレイディとペイトリオッツは常にコルツとマニングの前に立ちはだかり続けました。

2012年2月5日、ブレイディは「ホームチーム」の先発QBとしてスーパーボウルの会場であるルーカス・オイル・スタジアムに登場しました。第46回スーパーボウルはAFC王者がホームチーム扱いだったのです。相手は「マニング」率いるチームでした。ただしそれはコルツではなくニューヨーク・ジャイアンツ。4年前と同じ対戦となったスーパーボウルのフィールドに登場したブレイディに対して、歓声と共にかなりのブーイングも聞かれました。それだけここが「マニングの家」であることを感じさせた瞬間でした。

ブレイディは最初のオフェンスシリーズに出てたった数秒で得点をするのではなく失点を犯しました。というより、この試合を通じてジャイアンツのディフェンスがブレイディへ効果的なプレッシャーを仕掛けていたというべきでしょう。それがペイトリオッツ最初のプレイで発揮されました。ブレイディは自陣のエンドゾーンから誰もいないフィールド中央へパスを投げ、それがインテンショナル・グラウディングの反則となり、そのままセーフティによる2点がジャイアンツに与えられました。リプレイを見ると、ブレイディはロブ・グロウコウスキーがフリーなり手を上げた瞬間を確認できなかったようですが、それ以上にジャイアンツのジャスティン・タックがオフェンスラインを破ってブレイディに突進したのが大きかったと言えます。

ペイトリオッツを相手にするチームは、いずれかの方法でブレイディ率いるオフェンスを抑えこむしかありません。ひとつは自分のチームのオフェンスを1秒でも長く行うことで、ペイトリオッツにボールを渡さない、もうひとつは、ペイトリオッツからボールを奪いに行く。ジャイアンツはもちろん前者も意識していましたが、それ以上にディフェンスが常に前へ向かっていく攻撃的な守備の姿を崩しませんでした。ただし、前半最後のペイトリオッツのドライブと、ハーフタイム明けのペイトリオッツのオフェンスでは、ジャイアンツは合計で約7分40秒近く守りの体制を強いられました。このときばかりは選手の顔にも精神的な疲れが見えていたように思えました。

その流れを断ったのが、後半2回目のペイトリオッツのオフェンスで出た次のプレイでした。
3-8-NE 19 (6:12) (Shotgun) 12-T.Brady sacked at NE 15 for -4 yards (91-J.Tuck).
またしてもタックがブレイディに襲いかかったこのプレイは、同時にDB陣がレシーバーをよくカバーしていた、いわゆる「カバレッジ・サック」でした。2シリーズ連続でブレイディとビル・ベリチックが描くシナリオ、いや恐らくは試合開始前のコイントスで勝ったときには後半の選択権を選ぶのだというところから始まったシナリオを打ち破いたプレイでした。その上、このプレイ以降はペイトリオッツの守備陣も当たりの強いプレイでジャイアンツの攻撃陣に対抗する姿が顕著になるほど、ディフェンシブな試合に変わりましたが、そうなると試合の流れはディフェンスで優位に立つジャイアンツへ向かっていくのも自然のなりゆきだったのかもしれません。

ジャイアンツのQBのイーライ・マニングは、ディフェンスがお膳立てした流れをしっかりを守り続けました。常に冷静なプレイをするブレイディよりも冷静な表情を浮かべながら、マニングは最初のTDパスであるヴィクター・クルーズへのショートパスを始めとした難しいパスを通していきました。その冷静さが他のオフェンスの選手に集中力を与えていたようにも感じます。例えば、試合途中、オフェンスは何度かボールをこぼすシーンがありましたが、結果的にペイトリオッツの反則で救われたクルーズのファンブル以外は、しっかりとボールを再確保しました。そうしたところからも、決定的なパスを2回連続で落としたペイトリオッツを上回りました。

そしてその結晶というべきが、逆転かつ優勝の序章である4thクォーターのこのプレイだったというべきでしょう。
1-10-NYG 12 (3:46) (Shotgun) 10-E.Manning pass deep left to 82-M.Manningham pushed ob at 50 for 38 yards (25-P.Chung).
自陣12ヤードと決してやさしい陣地からではないプレイで、マニングはレシーバーに囲まれたマリオ・マニングハムへパスを投げます。実はこのシリーズの一つ前のオフェンスシリーズで、マニングハムはこのパスよりも簡単なパスを捕った後、両足をインバウンドで付けなかったというより付かなかったという、結果的には目立たないミスを犯しました。このパスはマニングハムにとっては指先から足先まで集中させることで名誉挽回のパスキャッチとなり、ジャイアンツにとっては陣地回復のパスとなりましたが、マニングはそれでも冷静さを失っていなかったのが印象的でした。それどころか、マニングは4年ぶりに訪れた史上最大の4thクォーターの緊張を支配していているようにすら感じたほどです。

ブレイディは、コルツのペイトン・マニング同様、ペイトリオッツを率いる、ペイトリオッツの強さとスマートさのすべてと言えるほどのQBであるのに対し、イーライ・マニングは勝負強いという声と頼りないという声が相対する、それもまた必ずしも安定しない調子のチームを象徴する選手だと言えます。常に兄と比較され(そして必ず兄より下に見られ)、「自分は5本の指に入るエリートQBだ」と言えば嘲笑される存在でした。しかし、このスーパーボウルを通じて、なぜマニングが第46回スーパーボウルのMVPを獲得したのかわかったような気がします。"Great toughness, great faith and great plays by a number of guys today"とマニングは試合後に話していますが、マニングが選手史上で最も熱い試合の中で発揮した冷静さを通じてチームにtoughnessやfaithを与え、選手たちにgreat playの機会を与えたことに価値があったのでしょう。それは、パスを連続何本通したとか、スーパーボウルで通算何ヤードパスを通したとかという記録では測られないものです。

これらのことは、"Manning was at his best when the pressure was greatest."という、NBCスポーツのグレッグ・ローゼンタールの言葉が全てを表しています。イーライはそれを兄の見守る前で、兄の「家」において十二分に発揮しました。

For second time in five seasons, Giants top Brady, Patriots in Super Bowl(NFL.com)
Calm, cool Manning collects second Super Bowl title (NFL.com)
Eli cooler when it counted (NBC Sports)
Tuck, Giants pass rush harass Brady just enough (NFL.com)


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