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[MLB短評]Law and disorder

2010-05-02 00:59:01 | MLB
Major League Baseball players' union opposed to Arizona immigration law (ESPN)
D-backs' Managing General Partner Ken Kendrick issues statement(MLB.com)


今更言うことではありませんが、アメリカはその建国から今日までが移民によって形成されました。
一方でアメリカでは、定住化した移民の孫達が、新たな移民を排除してきた歴史をも持っています。
第一次大戦後前後の日系人を含めたアジア系を排斥する動きを見せたのがその典型です。

戦後、アメリカの南の国、つまりメキシコなどのヒスパニック系移民が押し寄せる兆候を見せると、
アメリカでは時期によってその対応を変えていきました。企業が人を多く雇う必要があるときには、
ヒスパニック系の移民を多く受け入れ、逆に移民が増えすぎると国境警備の強化を図るようになって
いったのです。

そうしたのらりくらりな対策は、同時多発テロを契機に変わり、これまで以上に強固な国境警備へと
変化していきました。それでも、アメリカには合法・非合法を問わず多くのヒスパニック系移民が他の
アメリカ人と同じように生活をしています。それが保守層、かつてはWASPと呼ばれており、現在では
Tea Partyと名乗っている人たちですが、その部分の国民にとっては実に苦々しいものだと考えます。
おまけに、国境警備を強化しても、形はどのようなものであれ、メキシコから国境を超えてアメリカの
国内へ入っていきます。

アリゾナ州はその国境警備の最前線のひとつで、ワシントンに対して更なる国境警備の強化をずっと
依頼していきました。しかし、ワシントンの不作為に業を煮やしたアリゾナ州は、ヒスパニック系の
移民に対する強固な法案を成立させました。賛成派はこれで(特に非合法の)ヒスパニック系移民は
アメリカの土から去り、平穏な毎日を過ごすことができると歓迎しました。一方で反対派、特に
当事者であるヒスパニック系は、人種によるプロファイリングが行われるとし、デモを含めた猛抗議に
発展していきました。

もともと保守とリベラルの対立が激しいアメリカにおいて、テロ事件以降はその対立軸がさらに太く
ハッキリしたものになりつつあります。今回の移民対策法問題もその中のひとつです。そしてその
対立に巻き込まれているのがメジャーリーグです。特にアリゾナ州の法案反対派が試合中に球場内で
法案反対をアピールするために垂れ幕を出したり、フェニックスでのダイアモンドバックス戦の観戦の
ボイコットまで考えられている、と一部の報道やTwitter上でのポストで明らかになりました。なた、
ワシントンの議員からは、メジャーリーグは来年のアリゾナでのオールスターを中止または別の都市で
開催するよう要請を行いました。

移民が生活そのものと直結しきれていない日本人にとって、アメリカでのそこまでやるかと感じるかも
しれませんが、ヒスパニック系移民にとっては、今の生活は人生そのものです。それ以上でもなく、
またそれ以上でもありません。これに加え、結束力が高いヒスパニック系の特性ゆえ、ヒスパニックの
国からきたメジャーリーガーの中には、法案反対を堂々と述べるまでに至りました。「国民の娯楽」と
言われ続けているメジャーリーグは、その実は「ヒスパニック系の、ヒスパニック系移民による
アメリカ国民への娯楽提供」と言わざるを得ません。

ひとつの法案へ、特に反対をの意思表示をすることは何も否定しません。しかし、反対派がつぎつと
繰り出してくる反対の意思表示を示す行動が、はっきり言ってしまえば、完全なお門違いな行動を
誘発しはじめ、特にメジャーリーグが大きな影響を受けています。ヒスパニック系の選手や監督などが
法案反対の方針を述べ、反対派への士気を高めている一方、その反対派が選手達の行動や士気へ
悪影響を与える行動をするという、逆効果を生んでいるのです。反対派はその主張を通そうとするあまり、
完全に正しいやり方を見失っているのが現状ではないでしょうか。メジャーリーグや法案の地元にあたる
ダイアモンドバックスにとっては、移民法の囚われの身になっているのです。

白人だけのメジャーリーグで、ドジャーズがアフリカ系のジャッキー・ロビンソンを入団させたことは、
その後のアメリカの社会、政治を変えるきっかけになりました。しかし、今回のような形で政治が
メジャーリーグへ影響を与えることになろうとは、考えもしなかったことでしょう。一方で今回の問題は、
この娯楽を享受する国民の中でかなりの割合を占めている層の問題だともいえるのかもしれません。


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