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「白い恋人」が「面白い恋人」を提訴 商標権侵害訴え(朝日新聞) - goo ニュース
「面白い恋人」vs「白い恋人」から、コンプライアンスを考える (Insight Now)
「本郷もかねやすまでは江戸の内」という川柳にも読まれている、東京・本郷三丁目にある雑貨店「かねやす」は、いわゆる商標権のリーディングケースにもなったお店でもあります。当時、有名店であった本郷の「かねやす」は、暖簾分けでによりできた芝にある同じ名前の店とその名前が被ってしまい奉行所にお裁きを願い出ます。そこであの大岡忠相が、本郷の方を「かねやす」芝の方を「兼康」とする、と判決を下しました。その後芝の店は閉店し、「かねやす」は今でも東京のど真ん中で営業をしています。店にとって、あるいは企業にとって、店名や商品名をはじめとした商標は、店先の看板以上の存在であるのです。
北海道の有名な土産菓子「白い恋人」を製造販売する石屋製菓が、「面白い恋人」という菓子を販売する吉本興業を相手取り、商標法と不正競争防止法に基づき販売の差し止めの訴訟を起こしました(石屋製菓からの公式発表 PDF))。
これが本当に商標権の侵害及び不正競争防止法の範疇にあたるか、最終的な判断は裁判官の心証に任せます。しかしそれ以上に気になったのは、「この程度」のことで提訴する石屋製菓は器が小さいという声です。そういう人達は、ジョークごときで商標権を侵害されたっていいではないかとでも言うのでしょうか。それと同じことを青森のりんご農家に言ってもらいたいものです。彼らは中国の企業が「青森」を商標登録されたことで非常に困った立場を経験しています。
「青森」商標登録出願事件に見る中国における商標登録戦略 (オンダテクノ・コンサルティング上海株式会社)
それとも、中国人が行う商標権の侵害は許すまじ、日本人(というより吉本興業)の商標権侵害をはギャグとして許せという二重基準で物事を考えろというのでしょうか。ちなみに、石屋製菓の弁護士によると、吉本興業は「面白い恋人」の登録商標を特許庁へ申請しながらも、今年2月に「白い恋人」と類似ルするということで却下されているそうです。そうした中でも、このお菓子を売り続けたことは故意犯と呼ばれても不思議ではありません。
それ以上に呆れ返ったのが、「かつて石屋製菓は賞味期限を偽装しておきながら、よくもこんな訴訟を起こす気になるな」っていう意見です。過去の事件と今回の商標権の侵害は全くの別物であり、それにより原告適格が失われる要素もありません。
感情論や印象論で何を語るかは勝手です。しかしそれ以前に国民の間に基本的な法律的の知識すら欠けているように感じます(それは個人的に法学部出身だからかもしれません)。メディアも、おそらくは大口契約元である吉本興業を変な形で刺激したら仕事を失われるので、法的にも突っ込んだ内容の記事は少ないです(もしくは単純に新聞記者が法的知識に乏しいか)。いずれにしても、今回の事案では、商標権は守られるべき権利だという意識及び知識が希薄だと言わざるを得ません。商標権がギャグに劣るものであれば、日本中そこら辺でギャグを名目としたパクリが横行しかねませんし、中国で日本車や日本メーカーの製品のパクリが売り出されて経済的侵害を受けたとしても、ギャグに劣る商標権しか有しない国の訴えなんてと世界から笑われかねません。
当然ながら、今回のように明らかな故意で名前もパッケージも似せたお菓子(中身は違う)を売ることもあれば、知らない間に商標侵害をしていたということもあり、商標侵害全てを悪とは言い切れないのも事実です。ただし、商標とはどんなものでそれを侵害したらどうなるのか、もっといえば経済的な権利とはどういったもので、それが侵されたらどのような被害が出るのか、その程度の知識すらない中で、おもしろおかしいレベルでニュースとして受け取ることに怖さすら感じます。
「器が小さい」「どんと構えて欲しい」その程度の認識でビジネスを行なっていたら、逆に権利侵害を受けたときにどんと構えられないどころか、泣き寝入りしなければならない、そんな事態もありえます。同時にこの程度の権利侵害なら大丈夫だろうという認識でビジネスを行い、逆に訴えられて敗訴した場合、信頼の喪失やそこから生じかねない損害賠償の問題などが生じる可能性もあります。面白いか面白くないか問わず、こうした事案から学び取るものは非常に大きいと思います。
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