気付けば朝になっていた。私はガトーの手を握ったまま寝てしまっていた。
当のガトーは既に起きてしまっていたのか、一緒に寝ていたベッドにはいなかった。
やや眠い体を起こし、ベッドから降りて一階へ向かってみた。
いつも通り、ほかの家族は朝食を済ませて仕事に就いていた。
私は身支度を済ませると、ダイニングテーブルの席に着く。
「おはよ」
普段と変わらないガトーが、フライパンを器用に操り、二人分の食事を作っていた。
「うん。おはよぅ……」
まだ眠い私の前に、パンと目玉焼きを置いてくれた。
気まずさはなかったが、あまり会話はせずに、淡々と食事を済ませた。
ただ私は、多分ガトーの手料理を食べるのは恐らく最後と、しみじみ噛みしめながら食べていた。
ガトーが食器を洗っている間に、二階へ戻り荷物をまとめていた。
弟さんの部屋は、相変わらず鍵をかけたままになっていた。
人の気持ちなんて、私も含めて、そんなにすぐには変われないよね。
下に降りると、既に家を出る準備ができたガトーが、父と待っていた。
「今まで、ありがとうございました」
「気をつけて、行ってきな」
優しそうな笑顔に見送られて、深くお辞儀をした。
これで、ガトーの家に戻ってくることもなくなった。
ガトーの街を離れ、北にある城を目指して歩いた。
少し街を離れると、広い野原が山のほうまで続き、そして一本の道が延々と延びていた。
そして、山の向こうは青く晴れ渡って、雲もなかった。
ガトーが前を歩き、それを追いかけるように付いていったが、足取りがどことなく重く感じていた。
時折、後ろの私を気にしては、適度に休みを入れてくれた。
城下町に近づくに連れて、黄色い菜の花が目立ってくるようになった。
「あの花で、油が取れるから城下町付近はよく見かける花だよ」
私が感心していると、それに混じって、キノコが自生しているのを見つけた。
「あれは綺麗に見えるけど、毒キノコだ。あまり触れない方がいい」
「そうなの?」
「ああ。じじぃから聞いたが、食べると三日間笑い続けるらしい……」
私は食べていないが、ちょっと笑ってしまった。そんなキノコがあるなんて……。でも、あまり笑わないガトーに食べさせたら、どうなるか興味半分で考えてしまった。
「あれはまだいいが、最近その亜種が出てきた。食べなくても胞子が危険らしい」
「そんなのもあるんだね……」
ガトーと道中たわいない会話をして、宿場町を経由すること三日目の夜、手前の街までたどり着いた。
そして、遠くには城らしきものが見えてきた。
「ここがそうなんだね」
「今日は遅いから、明日の朝、行こう」
やっと帰れる期待感とガトーと別れてしまう寂しさが入り交じっていた。
薄暗い夜道を迷わないようにガトーの手をぎゅっと握りしめた。ガトーは振り払うことはせず、宿屋へと導いてくれた。
城へ向かう当日の朝、宿からほど近くの大衆食堂で済ませることにした。
硬めのパンに、肉や野菜を挟んだものだった。かかっていたソースがハーブみたいなものを使っていて、具材と合って絶妙だった。
向かい合うようにガトーと座り、あまり笑顔を見せない彼女。その柔やかな表情を見られて、幸せな気持ちになれたが、これが最後だと思うと切なかった。
ついでにと、ガトーが城への潜入方法を聞き回っていた。簡単には入れない場所だが、ここ数年警備網が厚くなり、より一般の入城が厳しくなっていた。
なんとか入れないか調べていたら、偶然ガトーの鍛冶屋で世話になった農家と出会った。ちょうど城内へ作物を売りに行くところだった。
交渉はスムーズに進み、私たちは多くの作物が乗る荷台に紛れて、水堀を抜けて敷地内に潜入することに成功した。
「ここからどうしよう……」
「じじぃが言うには、城の地下にあるって話だ。少し様子を見よう」
不安な気持ちからガトーの二の腕を掴み、見回りで絶えず行き交う衛兵の様子をじっと見ていた。
「大丈夫。リリーを巻き込まないようにする」
頼もしいガトーの言葉は、安心を感じるところだ。
絶えず衛兵の動きを気にしながら、城内に入ってきた。迷路のような石壁の通路を彷徨いながら地下へのルートを探した。
「本当にあるのかな……」
私は、リスクを冒して探すくらいだったら、このまま見つからなくてもいいのかと考え始めた。
「しっ……!」
ガトーにへばり付くように歩いていたら、急に止まったガトーにぶつかった。
「ごめんなさい……」
「衛兵が来る」
小声へ発すると、血が引いたかのような表情で、角の通路の先を凝視していた。
徐々に近づく足音に聞き耳を立ていたが、その音が大きくなり、やがてテンポが速くなってきた。
「ひとまず、走れ!」
ガトーに言われると、一目散に走り出した。
やはり気付かれてしまい、あたりが騒がしくなった。
私はひたすら走り、後ろを走るガトーが指示してくれた。
しかし、衛兵の数が増えてきたのか、その足音が大きくなってきた。
どこを走っているのか、全く分からなくなってきた。
もう限界と角を曲がって立ち止まると、あるものを見つけた。
「ねえ! これって地下に行く階段だよね!」
しかし、振り返るとガトーの姿がなかった。
≪ 第9話-[目次]-第11話 ≫
------------------------------
↓今後の展開に期待を込めて!
にほんブログ村
当のガトーは既に起きてしまっていたのか、一緒に寝ていたベッドにはいなかった。
やや眠い体を起こし、ベッドから降りて一階へ向かってみた。
いつも通り、ほかの家族は朝食を済ませて仕事に就いていた。
私は身支度を済ませると、ダイニングテーブルの席に着く。
「おはよ」
普段と変わらないガトーが、フライパンを器用に操り、二人分の食事を作っていた。
「うん。おはよぅ……」
まだ眠い私の前に、パンと目玉焼きを置いてくれた。
気まずさはなかったが、あまり会話はせずに、淡々と食事を済ませた。
ただ私は、多分ガトーの手料理を食べるのは恐らく最後と、しみじみ噛みしめながら食べていた。
ガトーが食器を洗っている間に、二階へ戻り荷物をまとめていた。
弟さんの部屋は、相変わらず鍵をかけたままになっていた。
人の気持ちなんて、私も含めて、そんなにすぐには変われないよね。
下に降りると、既に家を出る準備ができたガトーが、父と待っていた。
「今まで、ありがとうございました」
「気をつけて、行ってきな」
優しそうな笑顔に見送られて、深くお辞儀をした。
これで、ガトーの家に戻ってくることもなくなった。
ガトーの街を離れ、北にある城を目指して歩いた。
少し街を離れると、広い野原が山のほうまで続き、そして一本の道が延々と延びていた。
そして、山の向こうは青く晴れ渡って、雲もなかった。
ガトーが前を歩き、それを追いかけるように付いていったが、足取りがどことなく重く感じていた。
時折、後ろの私を気にしては、適度に休みを入れてくれた。
城下町に近づくに連れて、黄色い菜の花が目立ってくるようになった。
「あの花で、油が取れるから城下町付近はよく見かける花だよ」
私が感心していると、それに混じって、キノコが自生しているのを見つけた。
「あれは綺麗に見えるけど、毒キノコだ。あまり触れない方がいい」
「そうなの?」
「ああ。じじぃから聞いたが、食べると三日間笑い続けるらしい……」
私は食べていないが、ちょっと笑ってしまった。そんなキノコがあるなんて……。でも、あまり笑わないガトーに食べさせたら、どうなるか興味半分で考えてしまった。
「あれはまだいいが、最近その亜種が出てきた。食べなくても胞子が危険らしい」
「そんなのもあるんだね……」
ガトーと道中たわいない会話をして、宿場町を経由すること三日目の夜、手前の街までたどり着いた。
そして、遠くには城らしきものが見えてきた。
「ここがそうなんだね」
「今日は遅いから、明日の朝、行こう」
やっと帰れる期待感とガトーと別れてしまう寂しさが入り交じっていた。
薄暗い夜道を迷わないようにガトーの手をぎゅっと握りしめた。ガトーは振り払うことはせず、宿屋へと導いてくれた。
城へ向かう当日の朝、宿からほど近くの大衆食堂で済ませることにした。
硬めのパンに、肉や野菜を挟んだものだった。かかっていたソースがハーブみたいなものを使っていて、具材と合って絶妙だった。
向かい合うようにガトーと座り、あまり笑顔を見せない彼女。その柔やかな表情を見られて、幸せな気持ちになれたが、これが最後だと思うと切なかった。
ついでにと、ガトーが城への潜入方法を聞き回っていた。簡単には入れない場所だが、ここ数年警備網が厚くなり、より一般の入城が厳しくなっていた。
なんとか入れないか調べていたら、偶然ガトーの鍛冶屋で世話になった農家と出会った。ちょうど城内へ作物を売りに行くところだった。
交渉はスムーズに進み、私たちは多くの作物が乗る荷台に紛れて、水堀を抜けて敷地内に潜入することに成功した。
「ここからどうしよう……」
「じじぃが言うには、城の地下にあるって話だ。少し様子を見よう」
不安な気持ちからガトーの二の腕を掴み、見回りで絶えず行き交う衛兵の様子をじっと見ていた。
「大丈夫。リリーを巻き込まないようにする」
頼もしいガトーの言葉は、安心を感じるところだ。
絶えず衛兵の動きを気にしながら、城内に入ってきた。迷路のような石壁の通路を彷徨いながら地下へのルートを探した。
「本当にあるのかな……」
私は、リスクを冒して探すくらいだったら、このまま見つからなくてもいいのかと考え始めた。
「しっ……!」
ガトーにへばり付くように歩いていたら、急に止まったガトーにぶつかった。
「ごめんなさい……」
「衛兵が来る」
小声へ発すると、血が引いたかのような表情で、角の通路の先を凝視していた。
徐々に近づく足音に聞き耳を立ていたが、その音が大きくなり、やがてテンポが速くなってきた。
「ひとまず、走れ!」
ガトーに言われると、一目散に走り出した。
やはり気付かれてしまい、あたりが騒がしくなった。
私はひたすら走り、後ろを走るガトーが指示してくれた。
しかし、衛兵の数が増えてきたのか、その足音が大きくなってきた。
どこを走っているのか、全く分からなくなってきた。
もう限界と角を曲がって立ち止まると、あるものを見つけた。
「ねえ! これって地下に行く階段だよね!」
しかし、振り返るとガトーの姿がなかった。
≪ 第9話-[目次]-第11話 ≫
------------------------------
↓今後の展開に期待を込めて!
にほんブログ村
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます