Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【ファンタジー小説】encounter 第10話 ※全文掲載

2020年08月05日 06時37分03秒 | 小説encounter(完結)
 気付けば朝になっていた。私はガトーの手を握ったまま寝てしまっていた。
 当のガトーは既に起きてしまっていたのか、一緒に寝ていたベッドにはいなかった。
 やや眠い体を起こし、ベッドから降りて一階へ向かってみた。
 いつも通り、ほかの家族は朝食を済ませて仕事に就いていた。
 私は身支度を済ませると、ダイニングテーブルの席に着く。
「おはよ」
 普段と変わらないガトーが、フライパンを器用に操り、二人分の食事を作っていた。
「うん。おはよぅ……」
 まだ眠い私の前に、パンと目玉焼きを置いてくれた。
 気まずさはなかったが、あまり会話はせずに、淡々と食事を済ませた。
 ただ私は、多分ガトーの手料理を食べるのは恐らく最後と、しみじみ噛みしめながら食べていた。
 ガトーが食器を洗っている間に、二階へ戻り荷物をまとめていた。
 弟さんの部屋は、相変わらず鍵をかけたままになっていた。
 人の気持ちなんて、私も含めて、そんなにすぐには変われないよね。
 下に降りると、既に家を出る準備ができたガトーが、父と待っていた。
「今まで、ありがとうございました」
「気をつけて、行ってきな」
 優しそうな笑顔に見送られて、深くお辞儀をした。
 これで、ガトーの家に戻ってくることもなくなった。

 ガトーの街を離れ、北にある城を目指して歩いた。
 少し街を離れると、広い野原が山のほうまで続き、そして一本の道が延々と延びていた。
 そして、山の向こうは青く晴れ渡って、雲もなかった。
 ガトーが前を歩き、それを追いかけるように付いていったが、足取りがどことなく重く感じていた。
 時折、後ろの私を気にしては、適度に休みを入れてくれた。
 城下町に近づくに連れて、黄色い菜の花が目立ってくるようになった。
「あの花で、油が取れるから城下町付近はよく見かける花だよ」
 私が感心していると、それに混じって、キノコが自生しているのを見つけた。
「あれは綺麗に見えるけど、毒キノコだ。あまり触れない方がいい」
「そうなの?」
「ああ。じじぃから聞いたが、食べると三日間笑い続けるらしい……」
 私は食べていないが、ちょっと笑ってしまった。そんなキノコがあるなんて……。でも、あまり笑わないガトーに食べさせたら、どうなるか興味半分で考えてしまった。
「あれはまだいいが、最近その亜種が出てきた。食べなくても胞子が危険らしい」
「そんなのもあるんだね……」
 ガトーと道中たわいない会話をして、宿場町を経由すること三日目の夜、手前の街までたどり着いた。
 そして、遠くには城らしきものが見えてきた。
「ここがそうなんだね」
「今日は遅いから、明日の朝、行こう」
 やっと帰れる期待感とガトーと別れてしまう寂しさが入り交じっていた。
 薄暗い夜道を迷わないようにガトーの手をぎゅっと握りしめた。ガトーは振り払うことはせず、宿屋へと導いてくれた。

 城へ向かう当日の朝、宿からほど近くの大衆食堂で済ませることにした。
 硬めのパンに、肉や野菜を挟んだものだった。かかっていたソースがハーブみたいなものを使っていて、具材と合って絶妙だった。
 向かい合うようにガトーと座り、あまり笑顔を見せない彼女。その柔やかな表情を見られて、幸せな気持ちになれたが、これが最後だと思うと切なかった。
 ついでにと、ガトーが城への潜入方法を聞き回っていた。簡単には入れない場所だが、ここ数年警備網が厚くなり、より一般の入城が厳しくなっていた。
 なんとか入れないか調べていたら、偶然ガトーの鍛冶屋で世話になった農家と出会った。ちょうど城内へ作物を売りに行くところだった。
 交渉はスムーズに進み、私たちは多くの作物が乗る荷台に紛れて、水堀を抜けて敷地内に潜入することに成功した。
「ここからどうしよう……」
「じじぃが言うには、城の地下にあるって話だ。少し様子を見よう」
 不安な気持ちからガトーの二の腕を掴み、見回りで絶えず行き交う衛兵の様子をじっと見ていた。
「大丈夫。リリーを巻き込まないようにする」
 頼もしいガトーの言葉は、安心を感じるところだ。

 絶えず衛兵の動きを気にしながら、城内に入ってきた。迷路のような石壁の通路を彷徨いながら地下へのルートを探した。
「本当にあるのかな……」
 私は、リスクを冒して探すくらいだったら、このまま見つからなくてもいいのかと考え始めた。
「しっ……!」
 ガトーにへばり付くように歩いていたら、急に止まったガトーにぶつかった。
「ごめんなさい……」
「衛兵が来る」
 小声へ発すると、血が引いたかのような表情で、角の通路の先を凝視していた。
 徐々に近づく足音に聞き耳を立ていたが、その音が大きくなり、やがてテンポが速くなってきた。
「ひとまず、走れ!」
 ガトーに言われると、一目散に走り出した。
 やはり気付かれてしまい、あたりが騒がしくなった。
 私はひたすら走り、後ろを走るガトーが指示してくれた。
 しかし、衛兵の数が増えてきたのか、その足音が大きくなってきた。
 どこを走っているのか、全く分からなくなってきた。
 もう限界と角を曲がって立ち止まると、あるものを見つけた。
「ねえ! これって地下に行く階段だよね!」
 しかし、振り返るとガトーの姿がなかった。


≪ 第9話-[目次]-第11話 ≫
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