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『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】夏実と魔術書ナナ 第6話

2020年10月07日 06時44分41秒 | 小説(きとぅん・はーと情報)
第6話『夏実と秋菜』

「三時には帰ってくるけど、あっきーの面倒もしっかり見てね」
「わかっているよ」
「それと、お掃除しっかりやってね」
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ!」
「……」
 何を言おうとしていたか、分かっていた。春花の冷ややかな目で睨まれた。
 父は仕事でいなく、妹の秋菜二人でお留守番をすることになった。
 夏休みも中盤、出かけ前にいろいろと注文の多い姉の言付けを聞き流した。
「あっきーも、夏実としっかりやるのよ」
「分かったよ。いってらっしゃい」
 秋菜は笑顔で手を振り、春花を見送る。
 姉が家からいなくなり、思わず一息吐いた。けど、片付けなければならないことは、家の中に置き去りのまま。
「今は十時か……」
 とにかく、秋菜と協力して家事は片付けなきゃ。
「あっきー。春姉に怒られないように家事を片付けよう」
「そうなったら、夏姉だけが怒られたらいいのよ」
 なんで秋菜は、春花の言うことは聞くのに、私の時は聞いてくれないのよ。
「その時は、あっきーも共犯だからね!」
「しょうがないな……」
 秋菜が……。妹がかわいくない!

 うるさい姉・春花が去ったので、誰にも邪魔されずにゆっくりと落ち着きたい。
 けど、面倒な家事を片付けなければならない。まずは聞きわけの悪い秋菜を説得し、洗面所に連れていった。
「これを洗濯機の中に入れて洗っておいてね。私は台所に行くから」
 脱衣カゴの服を秋菜に渡した。諦めたのか、意外にもすんなり受け入れてくれた。
 私は台所で、昼食で食べるご飯を準備した。米を研ごうと入れた水が冷たくて、ひんやり気持ちよかった。春花に教わったやり方で研ぎ、水を入れて炊飯器に入れた。
 その後、朝ご飯の洗い物をしていた。そこへ、もう一方のうるさいのが来た。
「ナナは、いいよね。暇で」
 年中夏休みで、家事も宿題もないから羨ましいよ。
「そんなことないよ。夏実ちゃんの監視しているから」
「十分暇じゃない。なんか手伝って」
「残飯整理がいい」
「そういうのはダメ!」
「何で?」
 答えるが面倒だから、つい無視してみた。
「ねえ! なんで?」
 だから、しつこくて嫌なのよ……。
 不用意に近づこうとしたのか、ナナが居たあたりで大きな物音がした。振り返ってみるとテーブルに置いておいた空のボウルが床に散乱していた。
「どうしてくれるのよ……」
 一緒に落ちていたナナを拾い上げて首根っこを摘まみ上げると、元は本なのに猫さながらに大人しくなった。
「だって……」
「余計な仕事を増やさないでよ!」
 洗っておいたボウルを、苛立ちを抑えながら流し台に拾い集める。罪悪感からかナナもかき集める。ここで普通の猫だったら咥えて持ってくるのだが、魔術書であるナナは単独で小さな魔術が使えるので、風を操って器用に一纏めにする。
 集め終わると、罪悪感があったのか疑うような満面の笑みを見せる。ここで洗い直してくれたら、帳消しにできるのにな……。

「夏姉、洗濯が終わったよ」
「もう?」
 時計を見れば、四十分経過。誰かが邪魔するから、こっちの仕事が終わらない。
 まだ、お風呂の掃除もしなきゃいけないのに……。
 物干しのベランダは二階。小さい秋菜じゃ無理だろうと、干すのは自分でやろうと思った。
「あたしがやる!」
 秋菜がやりたがるので、そのまま干すのもさせてあげることにした。
 でも、やっぱりと思った結果になってしまった。身長が足りず、洗濯カゴを引きずって運んでいた。
「代わりに運ぼうか?」
「いい! 一人でできる」
 またも、私のことは聞いてくれない。こうやって、すぐ意地になる。
 とりあえず、床が痛まないことだけを祈った。

 秋菜のことは意地っ張りで心配ではあるが、聞いてくれないので仕方がなくカレーに入れる野菜を切り始めた。
 でも、つらくて泣きだしてしまった。
 ナナがどうしたのかと、思ってそばに寄ってきた。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない!」
 心配そうに見つめるナナ。それでも懸命に切り続けた。
「タマネギは、冷蔵庫で冷やしてから切るといいって、聞いたことあるけど……」
「……そうなの?」
「本当かどうかは、知らないけど」
「今度から、そうする……」
 みじん切りにしたタマネギをボウルに移した。
 そして、ジャガイモとニンジンは、一口サイズに切った。
 またもや、ナナがちょっかいを出してくる。
「まだ?」
 空腹なのか、不機嫌そうに聞いてくる。他にもやることがあるのに、邪魔しないでほしい。
「待っててよ!」
 食べなくても平気なのに、大人しくしてくれたらいいのにな……。
「ほら。ちょっとだけならニンジン食べる?」
「馬じゃないんだけど……」
「じゃあ、食べなければいいじゃん」
「ううぅぅ……」
 切れ端のニンジンを凝視して動かない。食べないんだったら、最初から言わないでほしい。
「ご飯、炊けたかな……」
 さすが炊飯器。分量さえ間違えなければ、しっかりと炊ける。
 秋菜と一緒にお昼ご飯にした。
 甘口で野菜の大きさがバラバラだったが、おいしかった。

 お昼を食べて、ソファの上で秋菜がウトウトしていた。
 こうやって見ているとかわいいのに、起きると意地っ張りになる。
 ずっと、このままだったらいいのにな……。
 しばらく、秋菜をそっと見つめていた。
 なんだか、こっちまで眠くなりそうだった。
「夏実ちゃん! 起きてよ」
「……あと五分だけ」
「これで十回目だよ」
 そんなに起こされたのかな。ぼんやり時計を見ると、午後二時。
「えっ! あと一時間で帰ってきちゃう!」
 まだ、お昼の食器は洗っていないし、洗濯物は取り込んでいないし、お風呂の掃除もある。
「なんで、起こしてくれなかったの!」
「だから、十回も……」
「誰か、時間を止めてよ!」
「時間関係の魔術は、高度技術だから夏実ちゃんには無理だよ。それに使った後、リスクがあるし……」
「知っているよ! それが使えたら夏休みの宿題、最終日にまとめてできるよ」
 思い出したくないことまで、出てきてしまった。
 ひとまず、食器類は洗おう。
「なんで、カレーって落ちづらいの……」
 うたた寝なんてすると全く思っていなかった。食べ終わってすぐ水につけておけば良かった。
 こびりついたカレーと格闘し、完全勝利を収めた時には、もう三時目前だった。
 残りは、洗濯物の取り込みと、お風呂の掃除。
 やっとお目覚めの秋菜と手分けしても、時間がない。
「夏姉、どうしよう……」
 この危機感を秋菜も分かってくれた。けど、状況が変わるわけではない。
「ナナ、こうなったら使うしかない!」
「何を?」
「時間は止められないけど、時間は作れる!」


第6話の結末は「きとぅん・はーと」にて公開
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