Ali'i Drive Breeze

The Big Island
ハワイ島で体験した思い出を写真とともに綴る旅日記

コンドミニアム初体験<Alii Villas> Episode 4

2008年01月22日 | カイルア・コナ地区

5日目の朝、
ラナイでコーヒーを飲みながら寛いでいた僕に、
「ねぇ、誰か来たみたいなんだけど?」と、妻が伝えに来ました。
「えっ、誰?」
「知らないわよ。」

何だろうかと訝りながら僕がドアの前まで行くと、
「Hello!...Hello!」と呼びかけてくる女性の声が・・・。
僕が、「Yes.」と答えると、
「Ha~i!」と、明るい声が帰ってきました。
誰だろうかと訝りながら少しだけドアを開けると、
そこには浅黒く日焼けした小柄なアジア系の女性が立っていました。

まったく心当たりの無い僕は、どなたですかと尋ねると、
その女性は笑顔で、
「私は、隣の307号室に暮らしているミーチュンです。」と、自己紹介しました。
僕も慌てて自己紹介すると、
いつまで滞在するのかと訊かれたので10日間ほどと答えました。
「じゃあ、その間はよろしくね。」
「こちらこそ、よろしく。」

いつの間にか僕の後ろに来て立っていた妻とも挨拶を交わし、
「実は私、これから仕事にいくところなの。それじゃ、またね。」
そう言って、ミーチュンはコンドミニアムの階段を下りて行きました。
その後ろ姿を見送ったあと、
「どういうことかしら?」と、少し不安そうに尋ねる妻に、
「どういう人が宿泊してるのか、
 挨拶がてら様子でも見に来たんじゃないかな?」
と、僕。
「まぁ、コンドミニアムは、隣人がどういう人か分かってたほうが、安心だし。」

その日の夕方、
カハルウ・ビーチでシュノーケリングを楽しんだ後コンドミニアムに戻り、
妻が作った夕食の焼きソバを食べて、リビングで寛いでいると、
またもや玄関ドアをノックする音が!
壁にかかった時計を見ると、時刻は午後8時。
こんな時間に誰かに訪ねられる覚えはないのにと思いながら、
玄関に出てみると、
そこには今朝挨拶を交わしたばかりのミーチュンが立っていました。
「Ha~~~i!!」
にっこりと笑う彼女に戸惑いながら
「Oh,・・・Hi!」と、応えると、
実はお願いがあるんだけどと、彼女が切り出しました。

なんでも、クッキーを焼こうと思ったけどオーブンが壊れてしまっていて、
焼くことが出来ないとのこと。
できれば、「お宅のオーブンを使わせてくれないか?」との申し入れでした。
まさか、いきなりそんなことをお願いされるとは思ってもみなかったので、
少しばかり驚いてしまったのですが、
とりあえず、「妻に訊いてみるから。」と、
彼女にちょっと待つように言い置いて一旦リビングへ。

「困ってるみたいだけど、どうする?」
ソファで寛いでいる妻に事情を説明すると、さすがに妻も戸惑い気味。
「まぁ、うちは使ってないから貸してもいいけど・・・。」
「20~30分あれば、クッキーなんて焼きあがるでしょ?それぐらいならいいんじゃない?」
こういうとき、私達夫婦は「No」と言えない日本人なんだなぁと自嘲しながら、
彼女を部屋に入れることにしました。

「O.K. Please, come in.」
そうミーチュンに言うと、彼女は嬉しそうに何度もThank You と言いながら、
一旦隣室に戻った後、
紙パックに入ったクッキーの素と、
ステンレスのボールとオーブンシートなどを抱えて、
私たちの部屋に入ってきました。
妻にもThank You と礼を言ってキッチンに立つミーチュン。
『えっ?』
この時、僕は自分の勘違いに気づきました。
てっきりトレーに並べたクッキーを、
オーブンに入れて焼くだけだと思っていたのですが、
どうやらミーチュンは、これから生地を練るみたいです。
紙パックの裏面に書かれた作り方を見ながら、
粉の分量を量ってボールに入れています。

「これで大丈夫よね・・・。」
独り言のように呟きながら、ミーチュンはクッキー作りに集中しています。
僕と妻はリビングのソファーに並んで腰をおろし、
借りてきた猫のように大人しくして、そんなミーチュンを見守ります。
(主客転倒?まるで私達夫婦が、ミーチュンの部屋に招かれているような気分です。)

「奥さんは、クッキーを焼いたことある?」
不意に訊ねてくるミーチュンに、
「いいえ、私の妻はクッキーを焼いた経験がありません。」と、
いささか堅苦しい英語で答える僕。
「そうなんだ。実は私もクッキーを焼くの初めてなの。」
と、笑いながらミーチュン。
その一言を聞いて、
私達夫婦の心の内側に、不安の影が広がっていきます。

なんとか生地が出来上がったらしく、オーブン用のトレイにシートを敷き、
その上に等間隔で生地を小分けしていくミーチュン。
「ねぇ、生地がユルいんじゃないかな?」
妻が僕の耳元で囁きます。
「そうなの?僕には分からないよ。」
「多分、ユル過ぎる気がする。」
「ええっと・・・ユルいって英語でなんていうんだっけ?」

ミーチュンは日本語で会話するこちらには構わず、
オーブンの温度設定に取り掛かっています。

トレイをオーブンに入れ、タイマーをセットしたところで一段落。
ミーチュンはガラス・テーブル脇の椅子に腰をおろしました。
クッキーが焼きあがるまで、三人でお喋りしながら待つことに。

ミーチュンは、ウィスコンシン生まれの韓国系アメリカ人で、
隣の307号室に住んで6年が経つそうだ。
まだ勉学中らしく、勉強と仕事で忙しい毎日を送っているとのこと。
私達が結婚15年目の夫婦だと言うと、
「私はまだ独身で、結婚相手が現れるのを待っているところ。」と、ミーチュン。
今日は、現在付き合っているボーイフレンドがクッキー好きなので、
彼のためにチョコチップ・クッキーを焼くとのこと。
「オーブンが借りられて本当に助かったわ。」と、改めて礼を言われた。
私達のいる308号室のオーナーとも会ったことがあるそうで、
とてもフレンドリーな家族だったことや、
「以前、日本人の女性がこの部屋に長く滞在したことがあって、
 その時にも親切にしてもらったの。」

・・・などなど、いろいろと話しているうちに、
オーブンのタイマーが
『ピピッ!ピピッ!』
と鳴りました。
果たして、出来上がりは?

期待して、オーブンからトレイを出したミーチュンの顔が、
一瞬にして曇りました。
「No~~~・・・。」
トレイの上には、クッキーとは程遠い、
形もバラバラな焦げた薄い欠片が散乱していました。
明らかに食べられた代物ではありません。
チョコの甘い香りだけが室内に広がっていきます。

失意のミーチュン。
彼女がどうするのか見ていると、私たちのゴミ箱に失敗作を捨て、
再び、生地を作り始めました。
「もう一度、いいかしら?」
『いいも、悪いも、もう捏ね始めてるじゃん!』という言葉は、ぐっと飲み込み、
「Sure!」と、笑顔で言ってしまう僕。
隣の妻の眉間に皺が寄っていくのが分かります。


ミーチュンは、紙パックに書かれた説明を何度も何度も読み返しながら、
先ほどよりは固目の生地に仕上げると、再びトレイに小分けし、
最後にチョコチップを散らしてオーブンの中へ。
焼きあがるまで、また三人で待つことに。

ボーイフレンドとは、付き合い始めたばかりらしく、
どうしても彼に、手作りのチョコチップ・クッキーを食べさせたいらしい。
「心配ないよ。今度はうまくいくよ。」と、僕が励ましの言葉をかけた後は、
先程とはうって変わって、言葉少なく、
ほとんど会話の無いまま時間が過ぎていきます。
『もしかしたら、
 クッキーの完成を祈る気持ちは、ミーチュンより私達夫婦のほうが強いかも。』
などと思いながら待っていると、『ピピッ、ピピッ!』と待望の知らせが!

今度こそと、慎重にトレイを取り出すミーチュン。
室内には、早くも甘ったるい香りが広がっています。
が、しかし!!
私たちの願いも空しく、またも薄く延びて焦げてしまったクッキーの残骸がトレイの上に!
そして、室内にはチョコの香りに満ちた重い空気が!!
「クッキー作りって、難しいんだね。」
そう僕が声をかけると、
「何が間違ってるんだろう?時間かな?」と、紙パックを手に取り読み返すミーチュン。
『えっ?、まさか、もう一度トライする気じゃないよね?』
僕と同じ不安を抱いているのか、ソファに座り続ける妻の顔が、
はっきりと険しくなっています。

一方、私たちの視線をどう受け止めているのか、
「味は悪くないと思うんだけど。」と、失敗作を皿に載せて差し出すミーチュン。
仕方なく、ほんの少しだけ齧った瞬間、そのあまりの甘さにビックリ。
チョコを煮詰めたペーストをスプーン一杯分舐めたような甘さです。
口の中は、チョコ、チョコ、チョコの大行進。

それでも、『これは駄目だよ。』とは言えず、
「彼氏が甘い物好きなら、いいんじゃないかな。」と、
心にも無いことを言ってしまった僕。
すると、ミーチュンは三度目の正直とばかりにクッキーを焼き始める始末。
妻は、まるで宇宙人と出会ったかのような驚きの目で、ミーチュンを見ています。
僕は、少しでも空気を和らげようと、妻には日本語で、
ミーチュンには拙い英語で語りかけるも、状況は変わらず。

結果から言えば、三度目も見事に失敗!
チョコチップ・クッキーは一度も完成しませんでした。
午後10時過ぎ。
すっかりしょげてしまったミーチュンは、
それでも、
私たちのキッチン・ペーパーを遠慮なくふんだんに使って、
キッチンに飛び散った諸々を片付け、
失敗作はすべて私たちのゴミ箱に捨て、
キレイに洗ったボールと余ったオーブン・ペーパーだけを持って、
帰って行きました。
むせ返るようなチョコの甘ったるい匂いと、悲しそうな「おやすみなさい。」の言葉を残して・・・。

妻は、キッチン・ペーパーを大量に使われたことに、一番腹を立てていました。
宿泊費は光熱費込みの料金なので、オーブンは使っても使わなくても金額は変わらないけど、
キッチン・ペーパーは、無くなれば自分たちで買い足さなければならないからです。
主婦ならではの腹立ちといったところでしょうか。

しかし、このエピソードはここで終わりません。

翌朝、
起き抜けにコーヒーを飲もうと寝室からキッチンにいくと、
なんと!?
ゴミ箱に捨てられたチョコに無数の蟻がたかっていたのです。
しかも、キッチンのあちこちから隊列を作って、
ぞくぞくとゴミ箱へとやって来ているのでした。

妻の怒りは、この時マックスに!!
すぐさま、ゴミを屋外の集積所に捨ててに来るよう僕に命令。
言われたとおりにして部屋に戻ると、
妻は、目的地を見失ってキッチンを徘徊する蟻たちを、次々とティッシュで押し潰していきます。
一匹一匹、怒りをぶつけるかのように。
ふだんは、決してそんなことはできないのですが、
「もう、信じられない。信じらんないよ。」と、ブツブツ言いながら。

そして、その後私達が帰国するまで、
ミーチュンが訪ねてくることも、顔を合わせることもありませんでした。

The End!

追記:
20ヵ月後、再びこの部屋に滞在したとき、
相変わらずミーチュンは隣で暮らしていましたが、
私たちのことは憶えていないようでした。




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2 コメント

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Unknown (rikappe)
2008-01-24 16:29:30
更新を楽しみにしていました。
続きも期待しています
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訪問ありがとうございました。 (管理人)
2008-08-30 09:47:24
更新もさることながら、コメントを寄せてもらっていることに気づくまで、長い時間がかかってしまいました。rikappeさん、本当にごめんなさい。励みになりました。頑張って更新しますので、これからも遊びに来てくださいね。
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