新谷哲:今回の経営者インタビューは、ポート株式会社の春日博文社長です。まずは経歴のご紹介です。1988年埼玉県生まれ。大学在学中に新卒採用支援やプロモーション支援を個人事業主として開始。2011年、卒業と同時に株式会社ソーシャルリクルーティング(現・ポート株式会社)を創業されます。そして、2018年には東京証券取引所マザーズ、福岡証券取引所Q-Boardに重複上場をされています。本日はよろしくお願いします。
春日博文:よろしくお願いします。
新谷哲:最初の質問です。ご出身は埼玉県とのことですが、幼少期はどのようなお子さんでしたか?
春日博文:人より優れているわけでもなく、マイナス点を取るほどでも無い、特徴のない普通の少年でした。たまに委員長などを任されることもありましたが、旗振り役タイプではありませんでした。
新谷哲:小学校時代はどのようにお過ごしでしたか?
春日博文:サッカーをやっていたのですが「レギュラーにも入れないし、辞めてしまいたい」と思っていました。しかし、父は教師でとても厳しかったこともあり、何も言えずに6年間堪えていた記憶があります。
新谷哲:とても厳しいお父様だったのですね。中学校時代はどのようにお過ごしでしたか?
春日博文:中学でも、これもまたスポーツ・勉強、オール4で「普通すぎる」ことが逆に思い出に残っています。
新谷哲:サラリーマン的な思考をお持ちだったのですか?
春日博文:父が教員だったこともあり、将来は私も教員になることを前提に教育されてきました。そういう意味では、比較的サラリーマン思考だったのかもしれません。
新谷哲:高校時代はどのようにお過ごしでしたか?
春日博文:高校は地元の公立男子校に進学しました。それまで何をしても普通で「人生そんなものかな……」と思っていました。しかし、そんな自分を変えようと思い、大学受験に真面目に挑みました。ひたすら勉強しましたが、良い結果は得られませんでした。実は、受験はしなくても指定校推薦で学習院大学に行けたのですが「それではまた普通になってしまう!」と感じ、1年浪人をしました。しかし、最終的に受かったのは学習院大学です(笑)常に「自分の現状を打破したいけど打破できない。」そんな状況が18年間続いていました。
新谷哲:「オール4」の成績を取れて、学習院大学に進学されるのは優秀だと思います。
春日博文:悪くはないですが、勉強した量に比べ成果がいまひとつでした。
新谷哲:大学では何を専攻されていたのですか?
春日博文:経済学部です。英語の教員になろうと思い、英文学が学べる文学部・教育学部などを受験していましたが、全部落ちてしまいました。たまたま、バレンタインデーが学習院大学の受験日で、何もないので経済学部の受験をしたらそこだけ受かったのです(笑)
新谷哲:その後、在学中に事業を創業されました。始められたきっかけはございますか?
春日博文:飲み会で、学生起業をした中央大学4年生の先輩と知り合いったことがきっかけです。私は、浪人をして大学に入ったので「この4年間で逆転するしか方法はない!」と思い「何かないか……」とずっと探していました。資格の勉強を始めたりもしましたが、上手くいかず結局1か月で諦めてしまいました。そんな時に、先輩と知り合ったのです。現在では比較的普通になってきましたが、14年前に学生起業をする方は多くはいませんでした。私は「大学生で株式会社を運営する社長がいるのか!」とたいへん衝撃を受けました。その時先輩に「道があり、その中をどれほど早く・効率的に進むかが求められているのは大学生まで。そこから社会に出れば、いかにアウトプットしてインプットしていくかが求められるので、構造的な改革をしていかなければいけない。それを学ぶには、ビジネスを大学時代に経験するべきだ。今までインプット→アウトプットが苦手だったのならば、アウトプット→インプットで勝負しないと、何もないぞ!」と言われたのです。結局、私は18年間何も成し遂げられず、この構造の中では戦えないと分かっていました。ならば、違うステージで戦うチャンスを掴むしかないと、大学1年生の冬からビジネスを始めました。
新谷哲:なるほど。当初から採用支援事業をされていたのですか?
春日博文:最初は NPO 法人を設立し「大学生が練った起業プランを発表し合い、優勝すると起業資金として100万円の賞金がもらえる」という、ビジネスプランコンテストを運営しました。開催資金を獲得するため企業に訪問し「このコンテストには、前向きな学生が集まるので、その人達を採用しましょう!」と協賛を頂くための営業活動をしていきました。これが、経営者や人事、採用担当の方々と沢山出会うきっかけとなりました。コンテスト開催後には多くの企業様から「コンテスト以外でも、いい学生がいたら紹介してくれない?」というお声を頂きました。「このようにビジネスができていくのか!」と気づき、マーケティングで多くの就活生を集め、企業とマッチングさせる採用支援事業を個人事業として立ち上げました。偶然が重なった結果ですね。
新谷哲:偶然といえども、運命を感じますね!
春日博文:はい。大学で学生起業した先輩と出会えたこと。そこでアクションを起こしたこと。ビジネスコンテストで出会えたネットワーク。目の前で起きたこと全てに運命を感じます。これらを通して「目標に対し120%で突き進んだ結果、得られるものはものすごく多い」と、原体験を得ることができました。
新谷哲:学生起業をされて、学んだことはございますか?
春日博文:私が「優秀な学生を集められます!」と企業様に提案すると、とても興味関心を持って頂きました。その中でも特に、大企業やベンチャー企業ではものすごい採用活動費を掛け、全社一丸となり優秀な人材の採用に向け本気で取り組んでいました。それだけコストをかけていることを知り「ビジネスチャンスがある!」と肌で感じることができました。
新谷哲:ありがとうございます。その後、大学卒業と同時に株式会社ソーシャルリクルーティング(現・ポート株式会社)を創業されます。就職活動はされなかったのですか?
春日博文:就職活動はかなりしました。内定も頂き、ある会社で半年ほどインターンとして働きましたが、最終的に大学を卒業する2月前に内定を辞退し、3月に創業しました。
新谷哲:なぜ、内定を蹴って創業をしようと思われたのですか?
春日博文:「やるなら今しかない!」と感じたからです。就職活動の時も「大学の4年間で逆転をする」という入学当初の思いが残っていました。4年間を振り返り「自分でビジネスをやりたい」という気持ちと、個人事業で会社として経営をしていたわけではないので「自信が無い」という気持ちが交錯していました。そのため「大企業に就職するのも、逆転をする1つの選択である」と感じ、早い段階で日系の大企業への内定を頂き就職を考えました。しかし、年齢が上がれば上がるほど、新しいアクションを起こすリスクは大きくなります。いろいろと考えた結果「とりあえず2年~3年やってみて、ダメだったら大学院に行ったと思えばいい」と思うようになりました。そうしたらもう、今やらないという判断には至りませんでしたね。
新谷哲:ご両親からの反対はございませんでしたか?
春日博文:ものすごく反対されました。「頼むから大企業に行ってくれ」と泣いて怒られました。その時私は、どうせ何を言っても理解はしてもらえないのだろうと「どっちだっていいでしょう」と返したのです。本気で向き合うことから逃げていたのかもしれません。そしたら「本当にやりたいと思っているのであれば、本気で言いなさい!」と言われ、思いをはっきりと伝えました。すると、両親は気持ちを受けとめてくれ、応援をしてくれるようになりました。そして、50万円を貸してくれたおかげで、起業をすることができたのです。
新谷哲:なるほど。創業時に感じていた「自信の無さ」は克服できたのですか?
春日博文:正直、個人である程度成り立っていたので、デメリットはないと思っていました。
新谷哲:創業時から上場をお考えでしたか?
春日博文:ビジネスのことをそこまで知らなかったので、上場までは考えていませんでした。弊社はベンチャーキャピタルからの出資を受けて創業をしました。そこから半年ほどで事業がグッと伸び、担当の方から「春日くん!利益が1億円あるので上場できるよ!」とお話があったのです。そこから、上場に向けスタートしました。
新谷哲:ちょうど、同業種の株式会社リブセンスなどが上場された時期ですね。周りからも影響を受けたのですか?
春日博文:正直、周りのライバルがどうとか、そこまでの視点を持って経営できていなかったです。今までの経験から、マルチな人間ではないと理解していたので、一点突破で目の前の事業以外は考えてもいませんでした。
新谷哲:上場までにどのようなご苦労がございましたか?
春日博文:たくさんありました。1つ目は、マネジメントです。弊社は学生起業からのスタートなので、大学生集団のサークル的な雰囲気がありました。組織化していく過程で、中途メンバーも増え会社らしくなってくると、肌感が合わなくなってきて辞めていくメンバーが多く出てきてしまいました。当時はそこまでマネジメント的な思考は高く無かったので、結果的に離脱してしまったのだと感じます。会社の舵取りをしていく経営者として、マネジメント能力は常に引き上げて行かなければいけないと感じます。2つ目は、管理体制を整えながら新事業を盛り上げていくことです。上場準備では、ガバナンスを整えることは重要ですが、同時に事業も成長させていかなければいけません。当時はそのために新規事業をいくつか作りました。どちらに対してもプレッシャーをかけながら事業成長をさせるのは、ものすごく難しいと感じました。また、上場するまでには、銀行の借入やベンチャーキャピタルからの投資を含めて、総額約20億円を調達しました。キャッシュアウトするリスクと向き合いながら、会社を大きくするためにレバレッジを効かせていくことは心的な苦労でした。
新谷哲:創業時から20億円もの調達を実現されるとは、まさにユニコーン企業ですね!さらに投資で会社を大きくしていくなど、Amazonなどと似ています。そのような知識は最初からお持ちだったのですか?
春日博文:ありませんでした。たまたま出会った投資家の方々とディスカッションを重ねていく中で「こうやって会社を大きくする方法があるのか!」と学んでいきました。創業時から3年間は、業績も回っていたので調達はしていませんし、出資を受け、投資して、Jカーブを描いていく、とは頭にもありませんでした。しかし、「これは自分にフィットする。勝負をしよう。」と思ったのです。極端な話、当時の会社規模は、潰れたとしても社会的影響が出るほどではありません。存続を目的にして経営をする必要性はないので、リスクを生んだとしても大きくなれるチャンスがあるのならば、積極的に行くスタンスでした。
新谷哲:なるほど。上場する前と後では、どのような変化がございましたか?
春日博文:あらゆる面で、対外的な見られ方が変わったと実感しています。採用では、上場したことで信用力が増し、大卒者からはポジティブな印象を持っていただけます。加えて、顧客開拓をする上でのアプローチも断然やりやすくなりました。弊社では様々な領域でのお客様を獲得する必要があります。中には金融機関様とのお取引もあるので、契約書の締結ひとつとっても、与信力が付いたと感じます。
新谷哲:ありがとうございます。もしよろしければ、ポート株式会社の事業内容をお教えいただけますか?
春日博文:弊社は、ユーザー様と事業者様をマッチングし、「非日常体験」の領域において、意思決定の支援をするビジネスを展開しています。非日常体験とは、食事、旅行、お洋服を買うなど日常的に体験されていることではなく、就職、リフォーム、ファイナンス、などの普段意識をしていない領域を指します。ユーザー様へは、非日常で不透明なサービスに対し、よりオープンで、より多くの集合知を提供し、意思決定を支援しています。また、事業者様は、紙のチラシや、リアルでの営業活動など、多くの販促費を掛け活動をしています。そこを、弊社のサービスをご利用頂くことにより、成果報酬で効率的にユーザー獲得をすることができます。このように、マッチングDXにより事業者様の業務効率化を後押ししています。この事業で、来期タイミングで売上高100億円以上、EBITDA 20億円以上を達成する中期経営計画を立て、急成長を果たそうと取り組んでいます。
新谷哲:ありがとうございます。ここからは違う質問をさせていただきます。好きなもの、好きなことをお聞きして「仕事」とお答えいただきました。仕事以外のご趣味はないのですか?
春日博文:考えたのですが、ありませんでした。仕事というのは会社でするものだけではなく、お金にならないことや、サポート、当然ながら個人活動なども含まれます。私は、世の中にとって価値のある何かを生み出すことに、全ての時間を使いたいと思っています。自分が何かを楽しみたいという感覚はそんなにありません。
新谷哲:すばらしいですね!座右の銘もお聞きして「一意結実」とお答えいただきました。こちらを選ばれた理由はございますか?
春日博文:これは「1つのことに一生懸命取り組まないと、身にはならない」という言葉です。私は、大学受験では人の何倍も勉強をしたし、短距離走よりも長距離走の方が得意でしたり、負けず嫌いでとことんチャレンジするタイプです。逆に言うと、そうしないと勝つことができないタイプでもあります。これまでの人生を振り返り、何かを成し遂げ、実現させたいならば、そこに集中することが最も大事だと身をもって体験してきました。そのため、多くを求めず「何かをやると決めたらそれ以外は捨てる」そんなスタンスで臨もうと座右の銘として定めました。
新谷哲:次が最後のご質問です。全国の経営者、これから起業する方に向け、経営者として成功する秘訣をお教えください。
春日博文:起業し会社経営を始めた瞬間から、完全総合格闘技です。この戦いで勝つために意識をしていることが2つあります。1つ目は、早く意思決定をすることです。起業には、リスクが付き物です。さらに、リスクは年々上昇していきます。意思決定をする時にリスクばかり意識していては何も進みません。ならば、やりたいこと、やらなければならないことのリスクを解除していく必要があります。例えば、「起業したいけど、能力がない」と感じるのであれば「勉強をしよう」となりますよね?リスクに対し、悩みながらも一つひとつ解除をして行ければよいのですが、 総合格闘技のリングに上がればいつどんな技がくるかも分からず、悠長に考えている時間はありません。そのため、目標を達成するために必要なことに向かって、まず、一歩踏み出してしまうことです。そうすることで、期限とゴールを明確にし、必要な力を最速で増やしていけます。意思決定に迷うところがあるとしたら、早くするに越したことはありません。2つ目は、自分が得意で勝率の高い戦い方を見つけ、忠実に経営することです。20年も生きていれば、自分の勝ち方の法則が何となく見えていると思います。私の場合、限りなくやることを減らし、限られた範囲で徹底的にとり組むことで、勝ちにいくというスタンスです。そこを自分なりに見つけて表現実行することが成功する秘訣だと考えます。
新谷哲:勉強になります!春日博文社長、本日はありがとうございました。
春日博文:ありがとうございました。