A collection of epigrams by 君塚正太

 君塚正太と申します。小説家、哲学者をしています。昨秋に刊行されました。本の題名は、「竜の小太郎 第一話」です。

きらびやか死

2007年09月03日 01時04分23秒 | 小説
 きらびやかな死

 ここはとある教会。信者たちが続々と集まる中、一人の男が天を仰ぎました。彼の顔立ちは整っており、すこし日焼けした肌が服の下からのぞいていました。そんなところに一匹のうさぎと一匹の亀がやってきました。彼らはもの憂いげに男の人に背を伸ばして、まじまじと見ました。すると、うさぎがくすくすと笑い出しました。
「なんだい、この男は?夢でも見ているのかい。」
 そしたら、男は前のステンドグラスを無言で指差しました。
「何かの冗談か?そんなところには何もないぞ。」
 それでも男は何もいわずに同じ行為を行いました。
「いい加減にしろ!何度も指図をするな!」
 すると、男は何も言い返さずに教会から出て行きました。
うさぎは満面の笑みをたたえて、勝ち誇っていました。反対に亀はというと、亀は亀らしく静かに考え事をしていました。
 そんな時に一人の牧師さんが二匹の前を通りました。うさぎは平身低頭して、牧師さんにごまをすっていました。それと真逆に亀はいつもどおりの姿で牧師さんを眺めていました。そしてうさぎの行動を見かねた亀は言いました。
「あなたは権力に屈するものだ。」と。その言葉にうさぎは怒り出し、とうとう亀に向かって、そっぽを向きました。それでも亀は亀らしくのんべりくらりと一人住居をかまえているのでした。嫌な事があったら、甲羅の中に閉じこもり、それが過ぎ去るのを待つのが亀の性分でした。反対にうさぎはいつまでも気に入らない相手に食って掛かるのを性分にしています。この両極端の二人はしばしば衝突しました。うさぎに文句を言われると亀は黙って、それをやりすごすのです。そんなことが何日も続いた日、突然例の男が彼らの前を横切りました。そうなったら、話は早い。早速、うさぎはその男に食って掛かりました。ところがその男の身分が枢機卿と知るや、うさぎは平身低頭しました。それをとなりで見ていた亀さんは最後にこう述べました。
「権力とはまがい物だよ。それ以前に現実を見なくてはいけないよ。」と、亀さんが言うとうさぎは激昂し、今にも蹴りを入れそうになりました。しかしその喧嘩に先ほどの男の人が入ってきて、「むやみな争いはやめなさい。」と、やさしい口調で諭しました。なるほど、うさぎは怒りで自分の事しか見えなくなっていました。亀は恐怖のあまり、自分の事しか見えなくなっていました。そしてその双方を見かねた枢機卿は一言こう述べました。
「感情に押し流されると、人間は自分のことしか見えなくなるよ。」と。
 うさぎはその言葉を受け流しました。けれども亀さんはその事が頭にこびりついていつもうなだれるようになりました。
「なんで、僕は憂鬱なんだろう?」
 そんな悲鳴が甲羅の奥から聞こえてきました。そしてとうとう亀さんは神経衰弱のため、ご飯も食べれなくなって死んでしまいました。そして残った甲羅をうさぎは見つめ、最後にこう述べました。
「考え事をするのは良い事だ。しかし考え事ばかりをしていると、憂鬱になる。だからもう少し悠長に構えていればいいものを、お前はそんな役回りだったな。」
 月光の照らす中、亀の入っている棺にうさぎはそう述べました。

きらびやかな死とは憂悶に苛まされた人生経路だ。そこには何一つ喜ばしい事はない。思想におぼれ、人生の荒波にもまれた人が行き着くさきが、結局はきらびやかなのだ。

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