<夕ぐれの時はよい時。/かぎりなくやさしいひと時。>。
堀口大学の詩「夕ぐれの時はよい時」の夕暮れは穏やかで、懐かしい
▼若い人にとって夕暮れは希望のひと時だと詩は教える。そして、老い、<青春の夢とほく/失ひはてた人々>には<それはやさしい思ひ出のひと時、/それは過ぎ去つた夢の酩酊(めいてい)、(中略)/なつかしい移り香>であると
▼<やさしい思ひ出>に誘われてしまうのか。「夕暮れ症候群」という言葉がある。アルツハイマー型認知症の方が夕暮れ時に混乱しやすく落ち着きがなくなることをいう。「家に帰りたい」と出ていってしまう人もいる。自分の家にいらっしゃるにもかかわらずである
▼絶対にたどり着けぬ家を探しに出かけるのは一説では「親への固執」という症状と関係がある。必ずしも親と住んだ家を探しているわけではないそうだ
▼認知症によって暮らしの中でうまくできないことが増え、本人は不安になっている。このため、かつて自分を守ってくれた親の家のような「心から安心できる場所」を求めて外出してしまう
▼昨年届け出のあった認知症の行方不明者は延べ約1万9千人。ほとんどの方がほどなく保護されるとはいえ、発見が遅れれば命にかかわる。確実に保護する仕組みを整えると同時に認知症の方を心から安心させる方法を見つけだしたい。<やさしい思ひ出>の代わりに。
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