西洋とは捉え方が真逆だった? 日本人の「座る」の歴史(専門家が監修)
5/6(土) 12:31配信
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古代インドのヨガから、座る健康法が発展する
座ることは、善か悪か。そのジャッジを左右する一因は、床や地面に座る床座がメインか、椅子に座る椅子座がメインかの違いにありそう。 日本をはじめとする東洋では、基本的に座る=床座だった。椅子や寝台などを用いず、床の上に直接腰を下ろす暮らしだったのである。 東洋に限らず、古代オリエントの影響を受けて古くから椅子に座る椅子座が普及したヨーロッパや中国などを除くと(後述。座ることをテーマとするこのページに限り、東洋から中国を外して考える)、世界の大半の人びとの暮らしは、古来床か地面に座って営まれていた。 この床座をいち早く極めたのは、古代インドだった。古代インド発祥の健康法といえば、ご存じのヨガ。4000年ほど前に栄えたインダス文明に起源を持つヨガが、まず重視したのは、床に座ることだった。 ヨガのポーズを、「アサナ」という。アサナは、古代インドのサンスクリット語で「座る」という意味。現代では、いかにアクロバティックなポーズが取れるかに目を奪われがちだが、古典的なヨガはただ両脚を組んで床に座り、呼吸を整えて深く瞑想することを重んじた。 ヒンズー教の僧侶たちの座法である「パドマ・アサナ(蓮華坐)」や、仏教を興したブッダが悟りを開いた「結跏趺坐(けっかふざ)」も、このヨガの座り方に由来する。
上虚下実を会得すれば、床座も椅子座も楽に
椅子は古代オリエントからヨーロッパと中国へ広がる
座り続けると「死に至る」と警告した先のレヴァインは、“コツ”を無視し、「椅子座を基本とする社会をデザインしたことが人類史上もっとも深刻な誤り」と大袈裟に嘆く。 歴史をうんと遡ると、そもそも人類史で椅子に座るという文化を最初に作ったのは、いまから5000年以上前の古代オリエントだというのが定説になっている。 「彼の地で、椅子は、神から統治権を授かった支配者の象徴である玉座として誕生しました。それが古代エジプトとギリシャを経てヨーロッパへ伝わり、紀元前2世紀頃に成立したシルクロードを経由して古代中国へと伝播したのです」 中国に古代オリエントから椅子が伝わったのは、漢(紀元前206~紀元220年)の時代。初めに広まったのは、靴を脱いで床と同じように座る「牀(しょう)」という座具。寝具(ベッド)としても使える大きなものだった。 続いて、靴を履いたまま一人で座る折りたたみ式の椅子「胡牀」が入ってきた。胡とは、古代中国の西北部で移動生活していた異民族・胡族のこと。彼らがラクダの背中に乗せてシルクロードを介して伝えたことから、その名があると矢田部さんは推測している。 複数の人が同時に座れる「牀」から、1人の人が足裏を地面につけて座る「胡牀」が武帝の宮廷を中心に流行。宋代には、靴を履いて椅子に座る暮らしが、庶民層を含めてほぼ全土に広がったようである。 中国と盛んに交易していた日本には、胡牀は6~7世紀の古墳時代には伝来していたようだ(その証拠に、埴輪が残っている)。聖武天皇が寝台として使っていた「牀(御床)」は正倉院に保管されているし、遣唐使が伝えた唐様の「御椅子(ごいし)」も宮廷や寺院で用いられていた。 平安以降、胡牀は宮廷儀式や戦場などで用いられたが、中国と違い、椅子がそれ以上普及することはなく、武士も農民も床座を続けた。 日本に椅子座が広がるのは明治以降であり、一般大衆まで本格的に受け入れられるのは、第二次世界大戦後になってから。日本における椅子座の歴史は想像以上に浅いのだ。