そう言うなり、弟の春樹が私の前にカメラ店の封筒を乱暴に置いた。なに?と言いながら中身を確認すると十数枚の写真が出てきた。
「姉貴 この人誰? 見た事ある?」
「えっ?本当~二枚女の人が写ってるわね。へぇ~誰かしら?」
其処には見た事の無いワンピース姿の女性が写ってた。
「そうなんだよ~俺、親父の遺品のライカを持って試写したけど・・ファインダー覗いた時こんな人居なかったんだ・・・・」
「へぇ~そうなんだぁ~それアンタの思い過ごしじゃないの?」
「いや~俺も最初そう思ったんだ・・ところが念の為「ネガ」を確認したら何処にも人は写ってないんだ・・」
「あら!脅かさないでよ!嫌ね!気味悪いじゃない・・・」
「それがね~姉貴、この人を見てもあの類の不気味さを全く感じないんだ~それどころか何処か温かく優しいオーラを感じるんだ」
「・・う~ん・・確かにそう言われれば変な気味悪さを感じない」
「だろ!そうなんだよぉ~!それでこの人に興味が湧いてきたんだけど、もう一度よく見て・・何処か面影が姉貴に似てないか?」
「なによ~変なこと言わないでよ~」
「姉貴!驚くなよ~ほら!この写真!誰か判るか?」
春樹がカメラバックの中からもう一枚、茶封筒に包まれた写真をだして私にみせた。
「えっ?えっ!なにぃ~!!~これって此処に写ってる人?この小さい子アンタ~春樹じゃないの!」
そのセピア色に変色した写真の中に写ってる女性はまぎれも無く、弟が現像した写真の中の同一人物、それと小さな男の子と一緒に写ってる。裏を見ると昭和18年3月と記してる、と云うことは戦時中かぁ・・何処かの写真館で撮られたようだ・・・
「そうかぁ~!!!判った!!」
「そうなんだよ~姉貴、誰か判ったろ!実はオヤジの母親~俺達の祖母にあたる人そして隣の子供はオヤジだ・・オヤジは父親を戦争で亡くしてただろう・・戦後、2人で極貧の生活を送ったって話を、俺が小学生の頃聞いた記憶があるんだ・・」
「私もそれ覚えてる~戦後何も無くて女手一人でオレを育ててくれたって。毎日夜遅くまで土方しながら・・そんな生活でも高校まで行かせてくれたって・・で、裏に記されてる日付は昭和18年3月・・と云うことは、お父さんは昭和14年生まれだから・・当時4歳の幼児と云う事になるわね」
「うん~まぁ~そうなんだけど・・そのオヤジの母親、俺達のバァちゃん。オヤジが社会人になったと同時に他界したらしい。勿論、オフクロも顔は知らない~写真だって一枚も無いってオヤジ言ってたらしい・・」
「で、アンタこれ何処で見つけたのよ~?」
「うん!偶然なんだ~先月オヤジの遺品整理してたろ?其の時俺、オヤジ愛用のこの古いライカと帆制の使い込まれたカメラバッグ貰っただろう?そのカメラバッグの内ポケットに入ってたんだ・・最初オヤジの愛人と隠し子かな?なんて想像しちゃて誰にも内緒にしてたんだ・・」
「ふ~ん・・そうだったんだぁ~偶然にしても凄い発見じゃん!」
「で、姉貴~この写真オフクロに見せようか?」
「どうかなぁ~?それは・・今は見せない方が良いかもよ?まだお父さんの49日も済んでないし、第一母さんまだ精神的に立ち直ってないし、それに、これ女の感だけど、母さんに見せたらきっと焼餅やくわよ~私より母親の方を選らんだ!なんてね・・(笑)」
「あっははは~そうかぁ~今度オフクロが元気になったら見せよう~(笑)でも、なんで若い時のお祖母ちゃんが写りこんだのかな?」
「あぁ~それは簡単よ!まぁ~私の想像だけどね・・お父さんの母親を強く想う気持がそのカメラに宿ったのよ。女手一人で苦労して自分を育ててくれた母親よぉ~・・それにアンタ~顔も性格も何処かお父さんに似てるじゃない~だから、其のカメラとアンタの精神がリンクしたんじゃないの?それに全部のコマに写ってるわけじゃなさそうだしね~まぁ~いいんじゃないの?~(笑)」
「そんなもんかぁ~?あっ!考えたら今日“母の日”じゃん~オフクロ誘ってどっか美味いもんでも食いに行こうぜ~そうだなオフクロの好きな寿司でも(笑)」
「いいねぇ~それ!春樹~今日はアンタがおごりなさいよ~(笑)」
「えぇ~~~!俺のおごりぃ~~~!!ああ良いよ(-_-;)~その代わり“くるくる寿司”だからな~(笑)」
by 西風~年がら年中真っ黒け
※「母偲び」のフィクションショートストーリーは2015年5月10日(母の日)に記したものです。
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