つながりやすくなりますか?」三木谷浩史会長が”楽天危機説”に答えた

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「つながりやすくなりますか?」三木谷浩史会長が「楽天危機説」に回答 (2024年5月3日掲載) - ライブドアニュース

 

楽天グループが2020年に参入したモバイル事業の赤字に苦しんでいる。2023年1~9月期連結決算(国際会計基準)は、最終損益が2084億円の赤字(前年同期は2625億円の赤字)。同期間の赤字は5年連続だ。全国ネットワークを構築するため設備投資に累計1兆円をつぎ込んだが、契約数は昨年末に600万件を超えたところで、単月黒字の目安となる800万件に届いていない。一方で2024年からの2年間で総額8000億円という巨額の社債償還が待ち受ける。

絶体絶命とも思えるこのピンチを、楽天グループは脱することができるのか。三木谷浩史会長に聞いた。(聞き手 大西康之・ジャーナリスト)
GAFAMが携帯に進出?

 ――自前の回線網を敷くには巨額投資が必要で、モバイル事業が大赤字になることは最初から分かっていました。あえてレッドオーシャンに飛び込んだのはなぜですか。

 三木谷 かつて激しく競争していた先行3社がそれぞれ、毎年約1兆円の利益を上げるようになり、日本の携帯電話料金が高止まりしていました。「もっと安くしてほしい」という世の中の要求に応えたい、と考えたのです。

 楽天モバイルが提案した料金であれば、従来の他社の料金との比較で、両親と子供2人がスマホを使っている家族なら1年間で20万円節約できる計算になります。今はほとんどの人が携帯電話を使っている時代なので、これは社会的に意義がある仕事だと思っています。

 もう一つの理由はGAFAM(グーグル=現アルファベット、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン・ドットコム、マイクロソフト)がMNO(自前回線を持つモバイル事業)をやっていないからです。正確に言うと、グーグルやメタは一度、やろうとしてやめた形跡があります。なぜやらないかと言えば、モバイルがとても複雑で、手間がかかる事業だからです。

 我々もやってみて分かりましたが、電波免許の取得から、ネットワークの構築、メンテナンスまで気が遠くなるような作業が必要で、その割には儲からない。彼らは元々、とても投資効率のいいビジネスをやっているので、モバイルは後回しになってきたのだと思います。

 しかしモバイルはネットワークサービスの入り口としてますます重要性を増してくるので、いずれ彼らも入ってくる。アップルなどは確実にやってくるでしょう。我々はその前に参入しておきたかった。楽天グループはインターネットショッピングの楽天市場、楽天トラベルなどのネットサービスやクレジットカードの楽天カードをはじめとするフィンテックなど70を超えるサービスを展開していて、それらとモバイルを組み合わせることで既存の携帯電話会社にもGAFAMにもできない新しいサービスを提供できる。GAFAMが出てくる前に楽天経済圏をもう一段、進化させる。そのためにこのタイミングでモバイル事業をやる必要があったのです。

 GAFAMが通信事業に進出するという観測は2015年頃から米メディアを賑わせている。

 2015年には、米オンラインメディアが「アップルが米国でMVNO(他社から通信回線を借りて携帯電話サービスを提供する仮想通信会社)サービスをテストしており、欧州でも通信事業者と交渉中」と報じた。この時アップルは報道を否定したが、参入すればアプリを販売する「アップストア」や音楽配信の「iTunes」などのサービスと一括で携帯料金を徴収するワンストップのサービスが可能になるため、その後も繰り返し「参入」が報じられている。

 同年にはグーグルがMVNO事業に参入、メタも衛星インターネット事業に参入する可能性がささやかれている。


楽天危機説に答える

 ――自前の回線で携帯電話事業を展開するための代償は小さくありませんでした。全国を網羅する携帯ネットワークを作り上げるため、すでに1兆円以上を投資しており、有利子負債は1兆8000億円を超えました。ネットや新聞で「楽天危機説」が広がっています。こうした状況を乗り越えられますか。

 三木谷 経営には絶対的な自信を持っています。赤字の原因はモバイル事業で、楽天市場や楽天カードなど他の事業は絶好調です。それを理解してくれているので、主力銀行のコミットメントライン(一定期間内の融資限度額)は変わっていません。


楽天グループの三木谷浩史会長 ©文藝春秋

 株価については機関投資家の皆さんから、楽天グループの評価は「とても難しい」という声を聞きます。70を超えるネットサービスとフィンテックを手がけ、そこにモバイルが加わったのが今の楽天グループで、それぞれ好不調の波があるので全体像が分かりにくい。コングロマリット・ディスカウントの側面もあるでしょう。我々も「もっと株式市場とのコミュニケーションを密にしていかなくては」と考えています。

 株価も過去5年のピークだった1488円の半分以下まで落ち込んだ。財務体質を改善するため、楽天グループは楽天証券株を2023年までに約5割売却し、楽天グループの出資比率を80%から51%に下げた。2023年4月には傘下のネット専業銀行、楽天銀行を上場させて717億円を調達した。公募増資と楽天グループ会長兼社長の三木谷氏の資産管理会社などへの第三者割当増資で約3000億円を確保。楽天証券株の売却を含め2023年までに5500億円規模を調達した。こうした動きを「資産の切り売り」「グループの解体」と見る向きもある。

 ――株価は昨年末から持ち直し傾向にありますが、ピーク時に比べると大きく落ち込んでいます。モバイルに参入して以来、楽天グループの株式時価総額は一時、約1兆1000億円まで落ち込み、ピーク時の半分以下になりました。「資金難を乗り切るには主力事業を切り売りして、グループを解体するしかない」と書く雑誌もあります。

 三木谷 モバイルの契約数が増え始め、プラチナバンド(携帯に適した700~900MHzの周波数帯域。楽天モバイルは2023年10月に700MHz帯を割り当てられた)を獲得したこともあって、株価は持ち直し傾向にあります。しかし、まだ十分とは言えず、株主の皆さんには申し訳なく思っています。今は「もう少しだけ待っていてください」としか言えません。一方で個人的には、ネットバブル崩壊の時に一度、時価総額500億円のどん底を経験しているので「まだ1兆1000億円もある」と感じる自分もいます。

 全国に何万ヶ所もの基地局を建てて巨大なネットワークを構築する携帯電話事業は、忍耐力が求められるビジネスです。例えばTモバイルが米国の最後発として携帯電話サービスを始めたのが2002年。初めて黒字になったのは2013年で、11年を要しています。そのTモバイルがスプリント(旧スプリントネクステル)を買収し、今では契約件数が1億1000万件を超え、確か米国でナンバーワンになっているはずです。収益面ではまだベライゾンが上だったかな。

 とにかくモバイルは、そのくらい手間と時間のかかる事業なので、最初からすぐに利益が出るとも思っていません。困難なことは分かっていましたが、それでも「やるべきだ」と判断したので、腹を決めて参入したのです。でも参入した以上、勝つまでやめないのが楽天流です。
黒字化は可能か

 ――しかし無尽蔵に資金があるわけではありません。2020年に参入したとき、当面の目標を契約数700万~800万件としていました。2022年は無料キャンペーンで順調に契約件数が伸びて500万件を超えましたが、キャンペーンが終わると一旦、減って、その後、再び増え始めました。市場関係者は楽天モバイルの実力を測りかねています。

 三木谷 昨年の6月に「Rakuten最強プラン」という新しい料金プランを発表してから契約件数は純増に転じていて、8月下旬に500万件を超え、年末に600万件まで伸びました。キャンペーンをやめた後、一時、解約が増えましたが、それも収まり、この数ヶ月は月に20万件程度の純増になっています。このペースが続けば年内に800万件を超え、楽天モバイルの単月黒字、さらにグループ全体の黒字化が視野に入ります。

 ――参入時に掲げた「当面の目標」に届かなかったのは、どこに誤算があったのでしょう?

 三木谷 予想外のことがあったとすれば、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの先行3社が強烈な対抗策を出してきたことです。

 ――アハモ、ポヴォ、ラインモといった新プラン、新ブランドのことですね。

 三木谷 我々(楽天モバイル)はデータ使用量無制限、3社の新プランは月20ギガまでのデータ量の制限付き、という違いはありますが、それでも3社が2700円から2970円と、ここまで思い切った値下げをしてくるとは、予測していませんでした。無料キャンペーンなどで楽天モバイルに加入した利用者の一部が、3社の新プランに流れた部分はあったと思います。

 その分、日本全体の携帯料金が下がったわけですから、我々の参入に意味があったとも言えます。まあビジネスは競争相手があるものですから、全てが自分たちの思い通りに行くわけではありません。相手も必死にやってきますから。厳しい対抗策が出てきたなら、次はこちらがどういう手を打つか、ということです。
つながりやすくなりますか?

 ――「Rakuten最強プラン」の中身を聞いた時には、これまでの楽天モバイルの弱点が補われていましたから、「獲得につながるかも」と思ったのですが、契約件数は微増にとどまっています。

 三木谷 そこは我々にも責任がありまして……。

 ――責任というと?

 三木谷 「価格」と「つながりやすさ」でまさに「最強」のプランなのですが、5月12日の発表会で、つながりやすくなるのは「6月以降」とも受け取れる表現をしてしまい、お客さんに「いますぐつながりやすくなる」という印象を与えてしまったんです。後から「順次」とお伝えしたのですが、実際に「つながりやすさ」が本格的に改善するのは10月末以降からでした。

 ――これまで「つながりにくかった」のはなぜですか。それがなぜ「つながりやすく」なるのですか。

 三木谷 正直に言うと、先行の3社が持っているプラチナバンドと呼ばれる周波数帯域は障害物があってもそれを回り込んで進む性質があるのですが、我々が国から割り当てられた1.7GHzにはその性質がなく、屋内や繁華街、高層ビルなどでつながりにくい場合がありました。

 また、我々はこれまでもKDDIさんとローミング契約を結んでいたのですが、東京・大阪・名古屋の繁華街などが対象地域に含まれていませんでした。しかも、我々自身の電波は「データ使用量無制限」でしたが、KDDIさんから借りる電波についてはデータの使用量制限があり、一定量に達すると通信速度が落ちる仕組みになっていました。

 KDDIさんとの新たなローミング契約では東名阪の繁華街でもKDDIさんのプラチナバンドが使えるようになり、しかもデータの使用量制限をなくしました。

 ――そのタイミングが遅れたと。

 三木谷 技術的な問題があって、KDDIさんの電波を全国で使えるようになるタイミングが10月末以降になってしまったのです。それで「なんだ、まだつながりにくいじゃないか」と、「Rakuten最強プラン」を5月に発表した直後に期待して加入してもらったお客さんを落胆させてしまいました。
ローミング費用は軽くなった

 ――今後、つながりやすくなりますか。

 三木谷 多くの地域では、すでに「つながりやすくなった」と実感してもらっていると思います。それが解約率の低下に現れていると理解しています。

 ――ただKDDIに支払う巨額のローミング費用が楽天モバイルの赤字の原因にもなっている。従来は自前のネットワークを充実させてローミングの固定費を下げ、黒字化を目指す方針でした。ローミングを続けていたのでは、黒字化の時期が遠のくのではありませんか。

 三木谷 そこは守秘義務があるので、言えない部分もあります。ただ、最初のローミング契約は我々、楽天モバイルの基地局のカバー率がまだ全然、足りなくて、KDDIさんの回線を借りなければ全国でのサービスが提供できない状況で結びました。今は自前のネットワーク・カバー率が約99%です。残りの1%については、設備投資を頑張って自力でやるか、KDDIさんの回線を借りて設備投資のペースを少し緩めるか、という選択肢がありました。そういう状況下での契約ですから、最初の契約とは条件が違います。我々の費用負担がかなり軽くなっているのは事実です。

 ――ただ今回、割り当てられたプラチナバンドは3MHz幅が2つで、先行3社が割り当てられているプラチナバンドは15MHz幅と10MHz幅が2本ずつ。3MHz幅2本ではいかにも狭く見えます。

 三木谷 プラチナバンドは帯域の広さより、遮蔽物があってもつながりやすいという電波の性質が重要です。我々がすでに割り当てられている1.7GHzの帯域は高速大容量の通信に適していますが、直進性が強くて建物の奥や地下に届きにくい。今回割り当てられた2つの帯域でその部分をカバーできるので、楽天モバイルの通信品質は確実に上がると思います。
強みは「完全仮想化技術」

 ――つながりやすさが互角になれば、データ使用量無制限だと月額7000円を超える3社に対し、無制限で3278円(税込)の楽天モバイルはコストパフォーマンスの良さで優位に立ちます。しかし、他社の半額という価格設定が「採算割れではないか」という指摘もあります。

 三木谷 そこで我々が世界で初めて商用化した「完全仮想化技術」が威力を発揮します。携帯電話の機能をソフトウエアに置き換え、高価な専用の通信機器を使わず、汎用サーバーでネットワークを構築するので、設備投資は既存ネットワークより3割安い。運用コストは4割安くなります。

 実は先日、システムトラブルがあり、一部の地域で楽天モバイルがつながりにくくなったのですが、ソフトウエアの修正で対応し、4分で復旧しました。既存のネットワークなら半日とか1日かかったかもしれません。新しい機能を追加するときも既存のネットワークは専用の通信機器をリプレイスしなければなりませんが、仮想化のネットワークはソフトウエアのバージョンアップで済むので素早く安価に対応できます。

 ――携帯電話の場合、離島や山間部が対象になる最後の1、2%の人口カバー率を上げる時に、莫大な設備投資がかかると言われます。新たに獲得したプラチナバンドに対応するために再び、借金が増える心配はありませんか。

 三木谷 設計上、いま構築しているネットワークは1300万件のキャパシティを確保しています。それ以上になった時にはサーバーを増やす必要がありますが、全国に基地局を建ててきたこれまでに比べれば投資額はそれほど大きくなりません。最後の1、2%については、当面、KDDIさんの電波が使えますし、将来は我々が出資している米ASTスペースモバイルの衛星モバイルが使えるようになるはずです。文字通り宇宙から電波を降らせるので、どんな山の中でも電波が届きます。

 基地局がいらないという点で、イーロン・マスクの「スターリンク」より優れており、衛星のアンテナをその地域に向けるだけで、すぐに携帯電話がつながります。残念ながら今回の能登半島地震には間に合いませんでしたが、準備が整えば、大規模な災害の時に大きな威力を発揮すると考えています。

本記事の全文は「文藝春秋」2024年3月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「危機説 楽天・三木谷会長 反省の弁」)。

(三木谷 浩史/文藝春秋 2024年3月号)

 

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