ドイツ社会に溶け込まない外国人

現在、ドイツで大々的な外国系暴力団の取り締まりが始まっている。

ドイツというのは、豊かで美しい国だが、一方で、血縁集団のマフィアのような組織的暴力団も数多く存在する。いくつかの都市の一部には、警官さえ足を踏み入れたがらない「no go area」となっている場所もあり、ノートライン=ヴェストファレン州だけでも、現在、そういう暴力団が、大小取り混ぜて140もあるという。

問題の根は深く、70年代にまで遡る。内戦下のレバノンから来たレバノン人亡命者をドイツが受け入れた結果、彼らの一部が犯罪のネットワークを築きあげることに成功した。当時、東ベルリンがレバノン人亡命者をどんどん飛行機で入れ、そのままバスや電車で西ベルリンに送り込んだと言われる。西ベルリンを疲弊、あるいは混乱させるための作戦だったという。すでに歴史となってしまった「冷戦」の真っ只中の出来事だ。

いったい何人のレバノン人が入ったかという正確な数字は残っていないが、消息筋によれば18万人。1981年のベルリンの新聞にはすでに、「組織犯罪が増加」という記事が出ている。

現在、ドイツの犯罪数を見ると、そのレバノン・マフィアを凌ぐのが、クルド・マフィアだ。こちらも70年代に多く入った。クルド民族は、トルコ、イラク、イラン、シリアにまたがる山岳地帯に住んでいて、2500~3000万人ぐらいの人口を持ち、国を持たない最大の民族と呼ばれている。そして、どの国においても抑圧されている。

1970年代の終わりから80年代初めにかけて、ドイツ政府がトルコにいたクルド人の政治亡命を認めたため、多くが入国して住み着いた。現在、ドイツには300万人のトルコ系の移民が暮らすが、クルド人はその中のかなりの割合を占めていると思われる。そして、その一部がドイツ社会に溶け込まないまま、闇の世界を形成していった。

そこに、91年のソ連崩壊と、それに続いた共産圏の消滅、そして、こじれにこじれたユーゴ内戦などのせいで、さらに膨大な数の難民、政治亡命者、あるいは労働者が入ってきた。それと共に、ドイツには、ルシアン・マフィア、ウクライナ・マフィア、ルーマニアやポーランドやアルバニアやコソボのマフィアなど、さまざまな凶悪犯罪グループが形成された(ここで使っている「マフィア」という言葉は、イタリアのマフィアのような、主に血縁関係を主体とした犯罪グループという意味)。

 

麻薬、売春、密輸、強盗、スリ、空き巣と、彼らが手を染める犯罪の種類はすでに多岐にわたる。都会で物乞いをしている人たちも、組織的犯罪の一環であることが多い。暴力団はすでに様々な利権を獲得し、彼らが暗躍できる法律のグレーゾーンも拡大している。今や下手に告発すると、裁判で検察が負ける可能性も高い。ギャングたちはビジネスライクで、しかもプロなのだ。

外国人の不正は見て見ぬ振り

こんなことになったのは、ちゃんと理由がある。

まず、一番大きな理由は、政治家が、外国人に物を言うのを極力避け、犯罪を看過してきたことだ。それは、ドイツ人が未だに強く持つ、「ホロコーストのトラウマ」とも関係している。

ドイツ人は、自分たちが外国人に何かを要求したり、禁止したりすると、またしても全世界の人々から非難されるような不吉なことになるのではないかという不安を、なかなか払拭できない。とりわけ政治家は、外国人排斥者と言われることだけは絶対に避けたいと思っており、自ずと、外国人の犯罪は問題視しない方が無難という保身のバイアスが強く掛る。

「多文化共生」とか「アイデンティティーの尊重」とかいう言葉は、見て見ない振りをすることを正当化するための免罪符の役割も果たしているのではないか。

 

外国人なら、たとえ起訴されても、たいていの場合、情状酌量、あるいは、書類の不備で実刑に至らないケースがほとんどだった。また、不当な手段を使ってドイツの福祉システムを利用していることさえ、ドイツ当局は見て見ぬ振り。犯罪組織のメンバーなら、ローレックスの腕時計をしていても、潤沢な福祉を受けられたのである。

そもそも現在のドイツでは、「外国人」という言葉がすでに良からぬ言葉だ。単に見かけの異なる人に、「どちらの方ですか?」と聞くこともタブー。理由は、「国籍がすでにドイツ人かもしれないのに、そんなことを訊いては失礼だ」と。あたかも、ドイツ国籍を持っているのが偉いかのようだ。

しかし、実際にドイツでは、見かけが違っても、ドイツ語に外国訛りがあっても、あたかもそんなことには気づかないかのように振舞うのが正しいこととされている。「あなたが外国人であるかどうかなどということに、私は一切興味がありませんよ」というのが、差別を克服した状態らしい。

そして、外国に興味を示すべきときには、文化や自然を褒め称えるに限ると、皆が信じている。日本人ならマンガ、アニメ、禅、桜、龍安寺の石など。

 

しかし、政治がこれをやると大間違いになる。その大間違いの果てが、外国人犯罪者の増長だ。ただ、2015年、メルケル首相の鶴の一声で始まったシリア難民の受け入れ後、あまりにも問題が深刻になりすぎたということもあったのだろう、現在、見て見ぬ振りが、ようやく大きく修正されようとしている。

秘密のチャット網が解読され

去年あたりから始まった、外国人暴力団の手入れの直接的なきっかけは、彼らが使っていた「エンクロ・チャット」と呼ばれる秘密のチャット網が解読されたことだそうだ。これは、フランスの諜報機関からの通報で成功したという。

2月18日には、ベルリンで、“レンモ”というレバノン暴力団の大掛かりな捜索が、500人もの警官らによって行われた。

 

ベイルート出身の主犯級の人物(44歳)が検挙されたが、シュピーゲル誌によれば、彼は1995年、すでに未成年の頃にヘロインの売買で捕まって、懲役4年の判決を受けていたのだという。

しかし、25年間、試みられていた母国送還は、レバノン側の書類が不備という理由で実行できず、彼は自由に動き回っていただけでなく、 “レンモ”のボスにまで成長した。まさにドイツが育てたようなものだ。

母国送還は母国の方が非協力的だと機能しない。そして、母国は犯罪者など戻ってきて欲しくないから、たいてい非協力的だ。ただ、もっと面倒なのは、すでにドイツ国籍を持っている犯罪者で、その場合、当然、母国送還はできない。だから、多くの犯罪者はGPS付きの足輪をつけるだけで、たいてい自由に動き回っている。

レンモは昨年11月も大きな捜索を受けた。というのも、2019年11月にドレスデンの博物館「Grüne Gewölbe(緑の丸天井)」で、13億円相当に上る芸術品が盗まれるという事件があったが、エンクロ・チャットの解析の結果、警察はレンモに突き当たったらしい。このグループの犯罪のエネルギーと組織力の凄さがわかる。

 

ただ、現在、彼らはかなり動揺していると言われる。エンクロ・チャットに足が付くことなど絶対にないと高を括り、何の用心もしていなかったため、すでに全ての情報が警察に漏れてしまった可能性が高いからだ。

もし、そうだとしたら、ドレスデンの宝物についても、警察はすでに正確な情報を持っているのかもしれない。

日本の準備は大丈夫なのか

移民政策が成功するかどうかの分かれ目は、移民の子供たちに掛かっている。

移民の家庭のうち、両親が、教育は大切だと認識している場合、子供たちはしっかり勉強させられる。ドイツでは公の教育システムをフルに活用すれば、ほぼ無料で大学まで行ける。しっかりと教育を受けた若者は、その後、機会均等を目指すドイツ社会で、着実に根を生やして生きていける。

 

しかし、親が教育に無関心であったり、ましてや犯罪に手を染めたりしていると、子供たちの運命は全く異なってしまう。ドイツに馴染むどころか、ドイツ人は軽蔑すべき対象で、ドイツの法律よりも、血縁集団の掟が絶対となる。

当然、こういう子供たちを抱える地域の学校は、授業をしようにもドイツ語がまともに通じないという現象が起こるし、荒れているので教師がビクビクしている。ベルリンでは警備会社を雇っていた学校もあったほどだ。

日本なら中学校はずっと欠席していても卒業させてくれるが、ドイツではそうはいかないため、義務教育を終えずに社会に放り出されてしまうと厄介なことになる。

ドイツは資格社会なので、義務教育を終えた証明なしでは、たとえあとで心を入れ替えても上の学校に進むことは難しく、まともな就職も期待できない。結果として、そういう人間が犯罪の道に進むのは、ほぼ自然の流れとなる。

私自身もドイツでは外国人なので外国人敵視がないことは有難いが、外国人が多いほど社会が良質になるとも思わない。ましてや、外国人が徒党を組んで治安を乱すなら、そんな人たちはいない方がましだ。

 

私がドイツに渡った80年代初めのドイツには、多文化共生などという言葉はまだなく、ドイツ人と外国人はドイツ社会を棲み分けていた。そして、皆が結構、平和に暮らしていたように記憶する。差別はあったのかもしれない。しかし、少なくとも、治安が今よりもずっと良かったことだけは確かだ。

日本には今、すでにたくさんの外国人が住んでいるし、これからも労働市場は多くの外国人を必要とするだろう。それにしては、日本の準備はまるで足りないと感じる。日本政府は、外国人問題を見て見ない振りをする代償がものすごく大きいことを、ヨーロッパに学ぶべきではないか。